表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/26

共感可能

《共感しないと魔女狩りを倒すのは難しい。けれど年を取ると意外と共感ってできちゃうものなんだよ。私はまだまだピチピチギャルのイケイケだけどね。え? 選んだ言葉が古臭い? うるっさいなぁ、言葉が古臭くてもそこに込められている意味合いは一緒でしょ。でまぁ、なんで年を取ると共感できるかって、それは人生経験が豊富になってくるから》

 頭の中で師匠の言葉が聞こえる。昔に聞いたことがこんな風に聞こえるってことは、いわゆる走馬灯ってやつかな。

《感情の発露って若い頃が一番激しいのよ。年を取ってくると(こら)え切れなくなっちゃうけれど、それでも体は若い頃に比べれば全然付いて来ない。でも感情の発露と肉体の両方が一致すると、それはもう信じられないほどのパワーになる。やれないこともやれてしまって、やっちゃいけないことを平気でやってしまう。だから魔女も年を取れば取るほど魔力は高まるけれど感情の波は弱くなってしまう。ならないようにするには感受性を維持することだけど、簡単なことじゃない。人生経験が豊富であればあるほど感情の振れ幅は減る。だって経験が感情を制御してしまうから。前にもこんなことあったなーが本来感じるはずだった感情の振れ幅を抑え込む。漫画で言うところの分かり切った展開に辟易するたみたいな。またこのパターンかよ、が続くともう期待感なんて薄れてしまうでしょ?》

 でも、なんだか頭の中がとても澄み切っている。

《けれど、そのワンパターンで心が揺れる人もいる。ごく少数ではあれ、そのワンパターンが感情の波を引き起こすことだってある。だから成熟した魔女の中にも、特定の感情を刺激されると爆発だって起こす。魔女には共感するんじゃなく共感させろって口酸っぱく言うのは、そんな感情の爆発から身を守るため。で、魔女狩りに共感しなきゃならないのはその感情の爆発を100%叩き込むため》

 アミューゼの魔力はとても(あたた)かい。不安定な気持ちが穏やかになる。

《共感は掌握と同義なのよ。思考を読むのと一緒。(つまび)らかにされるのと同じ。そうなってしまったら魔女狩りにとっては終わりなの。あいつらは共感した感情に沿った動きを取る。でもその感情の動機となる部分に共感されたら致命的であることも知っている。でもね、面白いことに魔女狩りはみんなそのことに魔女は気付かないと思っていて、ついでに共感だってされないだろうって高を括ってる。私たち魔女はその甘さを、その幼稚な無敵感を指摘する。自らの中にある感情と魔女狩りが共感した感情を示し合わせて突き付けて、言い放つ。『共感可能だ』って。そうなったらもう、羽虫と一緒。うるさく色々と叫び声を上げるけど、なんにも怖くなくなる》

 共感は掌握。掌握されれば、魔女狩りは戦えなくなる。

《実際、共感されるのが怖いっていうのは現実にあるでしょ。だって共感って優しい言葉に見えて強い言葉だから。共感されているのに本音が見えない恐怖。なのに相手はこっちの全てを見知っているように感じる恐怖。私が取る全ての行動の原因を知っているんじゃないかという疑心暗鬼。そして同時に、分かっているクセに分かってくれていないような言動の冷たさ。『一緒だ!』や『同じ同じ!』っていう喜びとは違うんだよ。そして共感は苦労話や、マイナスな部分に引っ付きやすい。『私と同じ境遇の人がいる』っていう安心感って、なんだかちょっと怖くない? 本当に一緒なのかなって疑わない? 段々と違う面が見えてコンプレックスにならない? つまりはそういうこと》

 魔女狩りと共感することは難しい。でも、共感できないわけじゃない。共感する感情の角度を変えれば違う一面が見えてくる。


 ルルルが『氷姫』の嗜虐心の塊にしか見えない中で被虐心を見つけ出して共感したように。ウェンディが『境界鬼』のカニバリズムの奥にある美しいものは食してみたいという食欲に共感したように。角度を変えれば、奥底にある感情に触れることができる。

 女性に対する強い強い欲求。見てもらいたい、お金を払ってでも話がしたい。性的欲求か、それとも異性とのコミュニケーションに飢えていたのか。表面上の感情の裏の感情。表の感情に共感できないからこそ、私たちはその裏側にある感情に共感することが求められる。


「『私たちは、恐怖に恐怖を押し付ける側』」

 頭に響く言葉をそのまま口にして私は全身に力がみなぎるのを感じる。先ほどまで薄れていた視界は開け、動かせなかった手足も動かせる。血に濡れた床から血に染まった服の重さに抗いながら起き上がる。

「まだ駄目です」

「ううん、大丈夫。アンテオと一緒に戦う」

「でも」

「アミューゼの治療魔法がよく効いてる」

「嘘です。共感した状態では治療魔法の効果はほぼ半減してしまいます。せめてポーションさえあれば」

「大丈夫」

 私はアミューゼを抱き締める。

「共感している感情を押し殺して、私に共感しないように頑張ってくれたから起き上がれた。でしょ?」

 共感関係を解いて、私の理解できない一面に感情を向け直すことで共感できない状態で治療魔法をかけた。複雑なようで単純だ。好きと思っていた感情を嫌いという感情で蓋をする。偽りであっても、唱え続ければそれは好きを一時的に凌駕する。

「死なないこと、約束ですよ?」

「うん」

 私はファルシュに抱えられ、アミューゼはキルトに肩を借りてアンテオと魔女狩りが戦い続けた形跡を追いかける。

「勝算はあるのか?」

「死にそうになったけど、おかげでちょっとだけ見えてきた」

「なら良い。俺のマスターがここまで回復できるとは思いもしなかった。お前のマスターも少しはやるようだ」

「ええ、アミューゼ様の治療魔法とメンタル療法は魔女たちの間でも評価が高いですから」

 キルトがまるで自分のことのようにアミューゼが褒められたことに対し嬉しげな返事をする。


 風の暴力が一階のフロアのなにもかもを破壊し尽くし、それに対抗するように非常に多くの瓦礫やホテルに備え付けられていた物品の数々があちらこちらに撒き散らされている。やがて見えてきたのは全身から血を流しながらも決して魔女狩りから睨みを外さずに肩で息をしながら、未だ対抗の意思を見せ続けるアンテオと、それを鼻で笑うような態度を見せ、体中の瓦礫を今まさに放たんとする『継ぎ接ぎの王』の姿だった。


「待ちなさい」

 私がそう言うと魔女狩りは面倒臭そうに私の方へと向く。

 高を括っている。

 共感できないだろ、と。できるわけがないよな? と。そんな慢心が見え隠れするのではなくハッキリと見える。


「偽りであっても、愛してほしい」

 そう私が呟くと『継ぎ接ぎの王』の顔から笑みが消える。硬直、そして動揺の色が見て取れる。

「こんなことができるよ、ねぇどう? 見てよ、私を見てよ。前よりずっとずっと勉強ができるようになったよ? ねぇ見て、ねぇ、見てよ! 私を見てよ! 見てもらうために頑張ったんだよ? 見てもらうために、見てもらいたいから一生懸命に頑張ったんだよ?!」

 感情の波を起こしながら沸々と湧いてくる言葉を強く、強く唱える。

「なんで見てくれないの?! どうして、どうして! 私はこんなにも二人を愛してるのに! こんなにもお父さんとお母さんを見ているのに! ねぇ、なんで?! なんでなんでなんで!? 偽りでもいいの、偽りでもいいから私を見て! 見るだけでいいから! 見てくれるだけでいいから! それだけで私は二人を愛するから!!」

 魔女狩りが呻き声を上げる。

「お金を払えば見てくれる、話してくれる、愛してくれる。お金を払わないと話してくれないの!? お金がなきゃ話もしてくれないの!? 違う、違う違う違う! 見てないフリをしているだけ! だからほら! 私があなたたちの見えないところを見てあげる! 私だけにしか見えないところを見てあげる! そう、そう、そうそうそう! 私を見て! どんな目でも構わない! 私を見てくれたらそれだけでいい! そして一緒に遊ぼうよ! これだけちょっかいを出したんだから、きっと遊んでくれるよね!?」

 段々と魔女狩りの境遇に感情を合わせていく。


「私はあんたに共感可能よ、『継ぎ接ぎの王』」

 スーッと感情の波を引かせ、冷静に、冷徹に、死刑宣告を『継ぎ接ぎの王』へと告げる。

 瓦礫に埋もれた黒い影は薄れていき、いつどこの部位が千切れてもおかしくない継ぎ接ぎだらけの肉体が露わになる。同時に、今まで一度も見えたことのない魔女狩りの魔力魂が表面に現れていないのに私の眼にはどこにあるかしっかりと捉えることができた。

「君は……」

「アンテオ、風を起こして。まだ唱えられる?」

「あ……ああ」

「アミューゼは水魔法をお願い」

「分かりました」


「刻印よ、笑え」

「刻印よ、悲しめ」

 風魔法に水魔法。二つが合わさり、魔女狩りを覆い尽くす。このままじゃ倒せない。このままじゃ魔法は届かない。

「刻印よ、悔やめ」

 共感した私の魔法の雷撃を水混じりの竜巻に叩き込む。セルバーチカと戦ったときには一人で行ったから暴走を起こした。でも、三つの魔法を三人で分担すれば暴走はしない。

「刻印共鳴、“サンダーストーム”」

 雷鳴が唸る。水の竜巻は雷撃の嵐となり、魔女狩りはその渦中において激しい雷撃と水流、そして竜巻から放出される風の刃が怒涛の如く押し寄せ続けて瓦礫諸共切り刻まれ、水に流され、雷撃によって焦がし尽くされる。


 サンダーストームが弾け、ホテルの一階全てがほとんどの瓦礫が辺り一帯へと吹き飛んだのち、『継ぎ接ぎの王』は膝を折る。


「さようなら、私と同じなのに私と違う形で誰にも愛してもらえなかった人」

 最後の雷撃を魔女狩りの頭部に放つ。貫いた魔力塊が頭の中から零れ落ち、その肉体が崩壊していく。


 感情の波をゆっくりと引かせ、私は急に来た疲労感でその場にへたり込む。アンテオは傷だらけだがそれでも倒れたり座ったりせずに私に拍手しながら近付いてくる。

「まさか魔女狩りと共感できるとは思わなかったよ、ミイナ」

「あなたも生きていると思わなかった」

「私は腐ってもキーングレントなのでね。こんなことでは死なないさ。しかし、アミューゼもよくミイナをここまで治したものだ」

「傷を塞いで、ちょっと血液を生成するのを促進させただけです。なのでちゃんとは治っていません。まだ大量出血する危険性は残されているので、病院か『魔女の大釜』で治療を受けさせましょう」

「そうだな。私が責任を持って、と言いたいところだがキーングレントが庶民を大病院に入院させたとなると父母がうるさくてね。すまないが、金銭での支援は約束するが医療機関を紹介することは叶わない」

「お金を出してもらえるならそれだけで良いわよ」

 安静にしてほしいとアミューゼが私の頭を膝に乗せる。膝枕って思ったより落ち着くものなんだなと感心する。

「先に実家へ連絡を入れさせてもらう。魔女と魔女狩りについても報告させてもらうよ」

「なんなら手柄を譲ってあげてもいいけど」

「それは私のプライドが許さない」

 案外、すんなりと手柄については引き下がるんだな。

「アイリスへの事後報告も私が行う。ミイナは治療を受け、アミューゼは休め」

 傷だらけのままアンテオは出入り口に向かって歩き出す。

「……憧れの人を殺さなきゃならないときの気持ちってどんなの?」

「教えるものか。この感情だけは共感させない。どんなことがあっても」

 弱みを握りたかったが握れなかった。アンテオはホテルの外に出て、付き人たちに色々と手配させているようだ。


「ミイナさんと一緒にいると、私が一人では見ることのできなかった景色を沢山見られる気がします」

「そう」

「褒めてるんですからもっと嬉しそうにしてくださいよ」

「褒められなれてないの。あと、こんな高い服を血で汚しちゃったし。アミューゼの服も汚しちゃったよね」

「このぐらいの服なら幾らでも替えは利くので」

 利くんだ。やっぱり良いな、お金に余裕があるというのは。私の大体のことを受け入れられるのも懐の余裕があるからか? お金は人を孤独にさせるとか人を変えるって言うけど正しい人が正しく使う分には惑わせることもきっとないのだろう。

「魔女狩りと共感したのってどんな感じだったんですか?」

「…………気持ち悪いよ」

「えー」

「うん、嬉しくはないかな」

「そうですよね。うん、そうでしょうね」

 私の感情の発露を横で聞いていたアミューゼはどこかよそよそしい。

「私さ、親に愛されてなかったんだよ。一応、親って顔はされていたんだけど子供に向ける愛情っていうのは物心が付いたときぐらいに無くなってて。一応は子供だけど、ほぼ知らない子みたいな。だから、なにをしても愛されないから振り向いてほしいって気持ちは分からなくもなかった。私と形は違えど、魔女狩りも愛に飢えていたんだ」

「……どんな家庭でも似たようなことはあるものですね。私も、母には愛情を向けられたことがほとんど……いえ、ほぼ無いんです。面汚しって呼ばれているのも多分、母の期待を越えることができていないからなんです」

「そっか」

「はい」

 アミューゼへの理解が深まった。彼女も私への理解が深まったことだろう。

「一応、君たちを運び出して車に乗せ、『魔女の大釜』へ運ぶように伝えておいた。それじゃ、また『魔女の大釜』で」

 そう告げてアンテオが去ろうとするが、立ち止まる。

「二人ともありがとう。私はこれで前に進める」

 しっかりと感謝の言葉を述べて、彼女はホテルの前に停車していた車に乗り込んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ