初陣
その日、カストロ中隊とセシル、そしてボーラがいつも通り新型バトルスーツの調整を始めようとしていた時だった。
突然基地全体にけたたましいサイレンが鳴り響いた。
「緊急!緊急!東地区リバットにて爆発あり。特別収容所を襲撃する者も確認された。更に西地区ジュランテルでも爆発あり。街中ではテロリストの姿も確認されている。総員ただちに戦闘準備。繰り返す、総員、戦闘配備で待機せよ」
放送を聞き、カストロ中隊だけでなく、セシルやボーラも呆気にとられた。
「ど、どういう事だ?」
「何?テロ?誰が?」
全員が顔を合わせて戸惑う中、追い討ちをかけるようにセシルの耳につけていたインカムに緊急通信が入る。
「セシル少尉聞こえるか?どこにいる?」
インカムから突然聞こえた低く落ち着いた女性の声にセシルは驚き、思わず姿勢を正した。
「ア、アイリーン大佐。ご苦労様です。只今、カストロ中隊と共に新型バトルスーツの開発にあたっています」
「なるほどな。そういえば貴様は今そんな任務にあたっていたな。放送は聞いただろう。すぐに戻れ、お前の初陣だ」
「はい、了解しました!」
顔を強ばらせ、声を張り上げ通信を終えたセシル。
普段は強気な彼女が、ここまで平身低頭で接する相手こそ、セントラルボーデン軍魔法兵団を束ね、精鋭部隊、特別遊撃隊を率いるアイリーン・テイラー大佐に他ならなかった。
セシルは振り返りカストロ中隊の面々を見渡すと口角を上げ、笑みを浮かべた。
「どうやら私の初陣が来たみたい。華々しい戦果上げてくるからね」
そう言って笑うセシルにジョシュアが近づき拳を突き出す。
「お前の方が先に初陣か。気を付けろよ」
「誰に言ってんの?私の凱旋を待ってなさいよ」
強気の笑みを浮かべてセシルは突き出したジョシュアの拳に自身の拳を合わせると踵を返し駆け出して行った。
去って行くセシルの背中を見つめるジョシュアの肩をカストロが軽く叩く。
「さぁ俺達は戦闘準備で待機だ。命令があればいつでも出れるようにしておけ」
「はい!」
ジョシュアも綺麗な敬礼をし、声を張り上げた。
――
魔法兵団、兵舎に戻ったセシルはアイリーンの元へ呼び出されていた。
「よく来たなセシル。お前には期待しているぞ。初陣を飾ってこい」
アイリーンは豪華な椅子に鎮座し、余裕のある笑みを浮かべる。その力強い大きな瞳に見つめられると体を射抜かれたような感覚に襲われる。
彼女はその鋭い視線と強烈な威圧感から畏怖の念を込めて『雷帝』と呼ばれていた。
アイリーンは立ち上がり長くウェーブのかかった綺麗なブロンドの髪を揺らし、ゆっくりと歩み寄ると、セシルの肩にそっと手を乗せた。
セシルは体をびくつかせ、表情を強ばらせる。
「はい、必ずやご期待に応えてみせます」
背筋を伸ばし、声を張るセシルを見て、アイリーンはニヤリと笑った。
「緊張しているようだな。まぁ初陣だ、仕方ないか。お前はいつも通りの実力を出せばよいのだ。肩の力を抜け」
「はい!」
しかしそれでもセシルは体を硬直させていた。
初陣で緊張してるんじゃない。貴女に緊張してるんです――。
セシルは心の中で叫びながら綺麗な敬礼を見せていた。
「ふふ、今回は特別に私も同行する。お前は私と共にジュランテルに行く。期待しているぞ」
不敵な笑みを浮かべアイリーンは部屋の奥へと姿を消した。
残されたセシルは大きく息を吐き出す。
「はは、出撃前に私倒れそう……」
自虐的なセシルの呟きが静かな部屋に響いて消えた。




