邂逅②
フェリクスとクリス。互いに対峙し、静かな時間が訪れる。
風が舞い、足元の砂が舞う音さえもはっきりと聞こえてきそうな静寂の中、フェリクスがすり足で僅かに前に出る。二人の鼓動だけが高鳴っていく。
俺を仲間から分断したのは待ち伏せ等ではなくこの状況を作り出す為。この女、強いが戦いを楽しんでいるようには感じない。俺との一対一を望んだというよりは、恐らく俺と仲間を分断するのがそもそもの目的か――。
「だったら早く戻らないとな」
フェリクスは小さく呟くと一気に前に出て、距離を詰める。
クリスは微動だにせずにフェリクスの動きを凝視していた。フェリクスはクリスの前まで迫ると剣を横一閃振り抜く。
クリスはあえてギリギリまで引きつけてしゃがんで躱すと、左手に持った小型のナイフをフェリクスに向けて振り上げた。
フェリクスは剣を振り切った直後で、腕は伸びきり防御は出来ず、仕方なく後ろに仰け反りナイフを躱した。
その瞬間クリスに笑みがこぼれた。
『爆裂火炎』
クリスは半身になり死角になっていた右手を突き出し、掌に凝縮された火球をフェリクスに撃ち込んだ。
その瞬間、轟音と共に爆炎が上がり、フェリクスを灼熱の炎が包み込む。
素早く距離を取ったクリスがナイフを構え片手に銃を握り締め様子を伺う。
炎に包まれたフェリクスは地面を転がり炎を消すと片膝をつきながら体を起こした。
「魔法まで使うのか――」
そう呟き顔を上げた瞬間、クリスがナイフを振り上げ眼前まで迫っていた。
振り下ろされるナイフを紙一重で躱す。しかしクリスのナイフは止まらない。振り下ろしたナイフはそのまま跳ね上がり再びフェリクスを襲う。
フェリクスは再び後ろに下がって躱したが、それでもクリスは追撃の手を緩めない。
フェリクスは体捌きと両手を使い、なんとかいなすが、防御一辺倒となっていた。
速い。単純なスピードだけならリオや俺の方が上かもしれないが、こいつは動きが上手い……こっちもやるしかないか――。
なんとかフェリクスが防ぎ続ける中、クリスが一瞬息をついた。
その瞬間、フェリクスは後方に一気に飛び退き右手を掲げる。
追撃しようとしたクリスだったが、フェリクスの動きに戸惑い思わず足を止めた。
「何?……まさか魔法?」
クリスが叫んだ瞬間、フェリクスが右手を振る。
「そのまさかだよ『光熱矢』」
出現した光球は光の矢となりクリスを襲う。
迫り来る光熱矢を紙一重で躱したクリスは肩で大きく息をついた。
「ちょっと魔法使えるなんて聞いてないんだけど」
「それはこっちのセリフだ。あの動きから火球を撃ち込まれるとはな。ハイブリッドってやつか」
「まぁお互い様ね」
クリスは僅かに口角を上げ、腰を落とし構える。
お互い様か……こっちはかなり制限もあるし、リスクもあるんだがな……だが出し惜しみして勝てる相手ではないか――。
フェリクスが再び右手を掲げると光球が現れる。
「またそれ?さっき躱したわよ」
自信に満ちた笑顔を見せるクリスに、フェリクスが静かに返す。
「そうかい」
フェリクスがそう言うと光球は四つに分裂し、クリスは笑みを引きつらせた。
「……いや、待ってよ聞いてないってば」
「躱すんだよな?光熱矢」
フェリクスの元から四本の光の矢が放たれる。
クリスは一本目を躱し、二本目をナイフで弾く。だが三本目と四本目がほぼ同時に迫った。
くっ、無理だ――。
クリスは咄嗟に腕をクロスさせ頭や胸等の急所を防御する。
次の瞬間、クリスの腕と肩に光の矢は直撃し、クリスは後方へと吹き飛び、ふらつきながらもなんとか立っていた。
それを見ていたフェリクスは飛びかかり一気に距離を詰める。
あの女、派手に後ろに飛んで衝撃を逃がしてる――。
フェリクスが剣を振り、クリスを右手一本で横に薙に行く。間合い、タイミング全てが完璧だった。
だがクリスならそれさえも躱すと見込んだフェリクスは空いた左手を握り締めていた。
その、ふらついた足取りでは飛んで躱す事は無理だろ。だったら恐らくしゃがんで躱す。悪いがそこにカウンターで左を合わさせてもらう――。
フェリクスは踏ん張り左手を固く握り締めて、右手で剣を振り切りに入った。
クリスの眼前にフェリクスの刀身が迫る。
クリスが視界にフェリクスを捉える。
完璧に詰められた。下にしか躱せない。だけど――。
クリスが視線を滑らせる。
あの左手で合わせる気ね。だったら――。
次の瞬間、迫る刀身をものともせずにクリスは躱さず、むしろ踏み込んできた。
躱さない――。
フェリクスが握った柄の部分がクリスの顔面を捉える。
そのまま振り抜くフェリクスに吹き飛ばされ、クリスは転がり片膝をついた。
「酷いじゃない、女の顔を殴るなんて。最低ね」
そう言ってクリスは立ち上がると、口端から流れる血を手で拭い冷笑を浮かべる。
「あの状況で自ら突っ込んで来たやつが言うなよ」
クリスから見えない面部の下で、フェリクスもまた苦笑いを浮かべていた。
再び静寂が訪れ、互いに呼吸を整える。




