補給基地③
変わり果てたマシューの前で膝をつきうなだれるリオの背後にガルシアが立つ。
「おい、リオ。立て!こんな所にいたら的になるだけだ」
「……いいじゃねぇか。失う物はねぇんだ。誰が生き残れるか賭けるかい?」
笑みを浮かべながら小さく呟くリオの目は冷たく死んでいるようだった。そんなリオの胸ぐらをガルシアが強く掴む。
「ああ、いいぜ俺達は生き残る。本来なら死にたがりの奴なんかほっとく所だが、俺は今少佐からお前を守るように言われてんだ。だからお前を引きずってでも安全圏に連れて行くからな」
ガルシアの言葉にリオが微かに眉を上げ反応する。
「少佐が?」
「ああ、お前が一人になるから何かあった時、助けられるように遠くから見てろって命令だ。手柄にもならねぇ貧乏くじ引かされてんだよこっちは!」
そう言って強く引っ張るガルシアの手を掴み、リオは俯き目を閉じた。
「……本当、おせっかいだな隊長さん」
小さく呟くと顔を上げ、ガルシアを見つめる。
「貧乏くじ引かせて悪かったな。だけどあんまり強く引っ張るなよ。少佐にガルシアから無理やり触られたって報告するぞ」
「なっ?ふざけるなよお前!だったらこんな所で呆けてないで岩陰にでも身を隠せ」
慌てて手を離し叫ぶガルシアを見て、リオは口角を上げると、再びマシューに目を移す。
すまないマシュー。後でまた来るから少し待っててくれ――。
マシューを見つめそう心で呟き、リオは再び戦場へと戻る。
だがリオが戻る頃には既に補給基地の制圧は寸前まで迫っていた。
やがて補給基地は完全に制圧され、フェリクス達の作戦は見事に完了となった。
フェリクス達がその後押収した戦利品の整理や、負傷者の手当を行う中、リオは一人基地の外で穴を掘っていた。
そこは基地からは少し離れ、小高い丘になっていた静かな場所だった。
そこにマシューの遺体を埋めるとリオは静かに腰を下ろし手を添えた。
「……ごめんなマシュー。結局お前を守りきれなかった。怖かったよな。ごめんな」
手をつき小さく呟く、リオの声は微かに震えていた。
そのまましばらくうなだれていたリオだったが突然顔を上げると、木々が生い茂る林を見つめた。
「覗きはよくないぜ少佐。それともそういう趣味かい?」
リオが呆れたように言うと、フェリクスが苦笑いを浮かべて姿を見せた。
「ばれたか。一応断っとくがそんな趣味はないからな」
「あたいが鷹の目使えるの忘れてるのかよ?」
リオが皮肉を口にしながら微かに笑うと、フェリクスが歩み寄る。
「大丈夫か?一人にした方がいいのかとも思ったが気になってな」
「なんだよ、本当におせっかいだな」
そう言ってリオも近付くと、俯きながらフェリクスの胸に身体を預けた。
ちょっと待て、これは想定外だ――。
戸惑うフェリクスだったが、リオは俯いたままフェリクスの襟をつかんだ。
「マシューは本当に弱くて優しい奴だったんだ。こんな世界であたいとマシューは二人で必死に生きてきた。大した事は望んじゃいないんだぜ。ただ二人で笑って過ごしたかった。ただそれだけだったんだ……」
俯いたまま話すリオの声は微かに震えていた。
「なのに、あいつは殺された。何もしてないのに殺されたんだよ少佐。生きてちゃいけないのかよあたい達は?幸せになんてなれなくても、普通に生きたかっただけなのにそれさえも許されず、あたい達は暗闇の中を必死に生きて来た……なのに最後はこんな仕打ちを……くそだよ本当にこの世界は」
胸の中で声を震わすリオの肩をそっと抱くと、フェリクスにもリオの震えが伝わる。
普段悪態をつき、皮肉を口にする、強いリオではなく、二十歳を迎えたばかりの等身大のリオがそこにいるような気がした。
暫くそのままリオを抱き締めていたフェリクスだったが、リオの震えが止まると静かに声をかける。
「リオ、これからどうするつもりだ?」
フェリクスの問いかけに、リオは顔を上げると背を向けた。
「何も考えちゃいないよ。帰る所もなくなっちまったけど、元から根無し草だ。どうにかするさ」
そう言って静かに目を拭った。
「そうか、もしよかったら一緒に来ないか?君の力を貸してほしい。居場所は提供する。もちろん給料も出す」
「なんだい?あんたもあたいの鷹の目がほしいのか?」
フェリクスの顔を見つめ、リオは苦笑いを浮かべる。
「鷹の目もそうだが……ほっとけないだろお前の事」
そう言って微笑むフェリクスを見て、リオは思わず視線を外した。
「なんだよ、口説き文句かよ?」
「まぁ、そんな所だ」
特に悪びれる様子もなくあっけらかんと言うフェリクスを見て、リオは小さくため息をつく。
多分そんな気もないんだろうけど、天然だな――。
「まぁいいぜ。ただしあたいがくだらないと判断したら抜けさせてもらうからな」
「いいぜ。その時は俺達にも問題があるって事だな」
そう言ってフェリクスが手を差し出すと、リオは今度はしっかりと握り返した。




