清算
フェリクスの元を離れ、単身アジトに入って行ったリオは、まっすぐ奥にある部屋を目指していた。
居住スペースにいた非戦闘員である女性達が、驚きの表情を浮かべて慌てる姿には目もくれず、アジト内を駆け抜けて行く。
やがて、目指していた奥の部屋まで辿り着いたリオは勢いよく扉を開ける。
すると部屋の奥にいたドレフォンは、突然の来訪者に驚いたように振り返り引きつった笑みを見せ、弁明を始めた。
「な、なんだリオかよ、脅かすな。ちょっと手違いがあっただけだ。誤解するな、話し合おうぜ」
ドレフォンは振り向き、ゆっくりとリオの方へと歩み寄ろうと歩き出す。明らかに何かを企んでいるような素振りだった。
だがリオは俯き、目も合わせようとはせずに扉の前に佇んでいた。
「……頭、フェリクス少佐と一緒にあたい達も売りやがったな?なんでだ?」
「ははは、だからちょっとした手違いさ。はじめはフェリクス達だけを売ったのさ。だけど軍のやつらそれだけじゃたいした金は払えないとかぬかしやがってな。だからウチには優秀な鷹の目もいるって伝えたら、そいつを軍に渡せば金だけじゃなく、セントラルボーデン首都の永住権もくれるって言ってきたんだ。誰が断るってんだ?な?」
ドレフォンは弁解を口にしながら現金が詰まったと思われる鞄を片手に、ゆっくりとリオの方へと近付いて来る。
「反政府ゲリラが聞いて呆れるじゃねぇか、頭」
皮肉を込めてリオが冷たい目をしたまま、口角を釣り上げる。
「はは、そんなチャンスは滅多と無いんだ、誰だってそうするだろうさ。だが、軍に渡したマシューの野郎は力を使う事を拒否しやがった。軍は言う事を聞かないマシューを処刑する事を決め、俺の首都への永住権の話までなかった事になっちまった。お前達兄弟を今まで養ってやった恩を忘れやがって。お前達のせいで俺の計画もパーじゃねぇか!」
そう言ってドレフォンは鞄の影に隠し持っていた銃をリオに向けた。
その瞬間、リオが腰に携えていたナイフを抜き振り上げると、ドレフォンの腕は銃を握りしめたまま宙を舞う。
鈍い音を立ててドレフォンの腕が床に落ちる頃には、傷口から溢れ出るおびただしい量の血を見て、ドレフォンは慌てふためいていた。
「……頭、あんた何してんだ?外ではあんたの仲間が沢山死んでるぜ。早く行きな、皆待ってるぜ」
冷たく告げて近付いて行く。ドレフォンは顔をひきつらせながら後退りしていた。
「ちょ、ちょっと待てってリオ。話し合おう。この金も全部お前にやるよ。長年仲良くやってきた仲だろ?」
「ははは、仲良くやってきた仲?互いに利用していただけだろ?生きる場所を与え、そして対価を払う。様々な形でな。都合が悪くなれば切り捨てる、そんな仲だろ?梯子を外したのはあんただ。その対価、今度はあんたが払う番だな」
そう言ってリオは冷笑を浮かべてドレフォンとの距離を詰めた。残った一方の腕で必死に守りを固めるドレフォンだったが、リオのナイフは容赦なくドレフォンを刻む。
「美味しいとこ取りしようとしてたみたいだけど、報いは受けな。わかるか?あんたらみたいな奴らに顎で使われ、汚れ仕事をし、いいように使われてきたあたいらの気持ちが――」
リオが叫び、ナイフを振るうごとに血飛沫が舞い、ドレフォンの悲鳴が響き渡る。
それでもナイフを振るい続けるリオだったが、突然その腕を掴まれ動きが止まる。
「リオ!もう死んでる……それぐらいでやめるんだ。もうそれ以上、そんな奴の返り血で自分を汚すな」
ドレフォンとリオの間にフェリクスが入り、リオの腕を止めていた。
無惨な姿にまで切り刻まれたドレフォンは血溜まりの中に鈍い音を立てて崩れ落ちる。
全身を返り血で真っ赤に染めたリオの腕を掴んだまま、フェリクスは立ち尽くしていた。
「……なんだ隊長さん、来たのかよ?」
「ああ、悪いが一人にする訳にはいかないと思ってな」
「そうかい、お節介だな……」
二人向き合ったまま短く言葉を交わす。空気は張り詰めたように重い。
「リオ、地下トンネルの案内人、出来ればまた頼みたいんだが?」
「……ああ、いいぜ。あたいもあいつらの補給基地に用が出来たからついでに案内してやるよ」
ようやく力んだ腕を解き、二人は再び仲間が待つ地下トンネルへと静かに向かう。




