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共闘③


 二人の男の間に張り詰めた空気が広がり、森の温度はさらに下がっていった。吐く息は白く濁り、頬に刺さるような冷気が漂う。

 フェリクスがじりじりと横に動けば、将校もまた同じように体をずらす。互いに一歩も引かぬ視線の応酬。


「どうした?来ないのか、フェリクス・シーガー」


 挑発的な笑みを浮かべる男に対し、フェリクスは動じず、静かに歩幅をずらし続けた。

 

 スナイパーと連携する気か。だが、その手は読めている――。

 

 男を射線上に置き、狙撃の機会を潰す。膠着は望ましくないが、焦りは死に直結する。フェリクスは冷静に機をうかがった。


 その時、背後から茂みをかき分ける音がした。フェリクスは一瞬だけ警戒心を強めたが、現れた姿を見て小さく息を吐く。


「よぉ、男二人で見つめ合って何してるんだよ?」


 皮肉げな笑みを浮かべたリオが、銃を肩に担ぎながら歩み出てきた。


「リオ……まだ出てくるなと言ったはずだ」


「はは、あたいも言ったろ?〝そいつはあたいにやらせろ〟ってな」

 

 リオは顎をしゃくり、倒れたスナイパーの銃を見せつけるように掲げた。

 

「セントラルボーデンの旦那よ、狙撃手に期待してるんならやめときな。あんたの切り札は、もう眠ってるぜ」


 その言葉に将校の表情が初めて歪んだ。


「まさか……貴様が倒したのか?どうやって……いや、まさか貴様が鷹の目(ビジョンズ)を……?」


 リオの顔から笑みが消え、険しい影が差す。


「だったらどうだってんだ?……お前ら、マシューをどこにやりやがった」


 将校は口元を吊り上げ、嘲るような口調で饒舌に語りだす。


「なるほどな。あのガキがいくら言っても力を見せなかった理由がようやくわかった。……補給基地に連行したのさ。だがどれほど命じても鷹の目(ビジョンズ)を使おうとしない。鷹の目(ビジョンズ)の力は強力だ。味方に置いておけばかなり有利に働くが、そうでないなら脅威でしかない。ならば排除する。それが当然だろう?」


 マシュー……あたいのせいで――。

 

 リオは俯いたまま拳を握り、唇を噛み沈黙する。その小さな震えは怒りなのか、悲しみなのか。溢れ出る感情にリオ自身も分からなかった。


 将校が勝ち誇ったようにリオを見据えた、その瞬間だった。背中に〝トン〟と小さな衝撃を受け、次の刹那、鋭い痛みが胸を貫いた。


「な……」


 振り返った先には、剣を深々と突き立てたフェリクスの姿があった。男の目が見開かれる。


「隙だらけなんだよ、お前は」


 冷ややかな声で告げ、剣を引き抜くと、途端に噴き出す鮮血が地面を赤く染めた。

 将校は胸を押さえながらよろめき、膝をつく。


「……雄弁に語るのは勝手だが、戦場で敵に背を向けるなら、刺されても文句は言うなよ」


 最後の言葉は届かなかった。男は血溜まりに崩れ落ち、その目から光が消えていった。


 フェリクスは短く息を吐き、剣を拭いながらリオへ視線を向ける。


「……少佐、あたいは(かしら)の後を追う」


「俺も行こう」


 歩み寄ろうとするフェリクスを、リオは片手で制した。その瞳には、燃えるような怒りも、深い悲しみもなかった。ただ、感情を削ぎ落としたような冷たさだけが宿っていた。


「あたい一人で行かせてくれ。……決着をつける」


 低く絞り出すような声。リオは振り返らず、駆け出して行った。


 一人残されたフェリクスは立ち尽くす。

 今のリオの瞳は、感情が死んでしまったようだった。

 このまま一人で行かせてよいのか。危うさを感じつつも、フェリクスは答えを出せずにいた。

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