共闘②
森の中は混沌としていた。銃声と悲鳴が絶え間なく響き、木々の合間を赤黒い火柱が貫く。焦げた匂いと土の匂いが入り混じり、雷撃の閃光が一瞬煌めき、静寂を切り裂く。
神出鬼没に現れては剣を振るうフェリクスに、敵兵達は混乱していた。
「えぇい、たった二人相手に何をやっている!これだからゲリラは役立たずなのだ!」
怒声を張り上げるセントラルボーデンの将校に、隣にいたドレフォンが皮肉を返す。
「おいおい旦那、そっちこそ正規兵なんだろ?フェリクスもろともこっちを撃ちまくっといてその言い草はねぇぜ。ちゃんと働いてくれよ」
互いに苛立ちを隠せず罵り合うが、現実は単純だった。
フェリクスの圧倒的な速度に、リオの鷹の目が加われば、平凡な兵士やゲリラでは太刀打ちできるはずもない。
それでも、数の差は厳然として存在する。
木陰に身を伏せたフェリクスは、額を伝う汗を拭いながら息を潜めた。身体の奥に疲労の重みがじわりと広がる。
「ふぅ……さすがに多いな。残弾も残りわずかか。リオ、残りの敵は?」
問い掛けるが、一瞬返答が途絶える。張り詰めた空気が喉を詰まらせる。
「……おい、リオ!」
「……聞こえてるよ」
皮肉を滲ませた声が無線から返る。
「どうした?バテたんなら交代してやるよ。森の木陰で休んでな」
普段通りを装う声色の奥に、どこか焦りが混じっているのをフェリクスは聞き逃さなかった。
「まだ平気だ。……リオ、どうした?」
微かな沈黙ののち、リオの声が低く落ちる。
「……鷹の目で探してるんだが、マシューが見当たらねぇんだ」
フェリクスは眉を寄せ、だが声色は柔らかくした。
「そうか。なら今は敵の位置だけでいい。マシューの事を優先してくれ」
「……ああ。正面に突っ立ってるバカ二人は見えてるだろ?その手前の茂みにゲリラが二人。後方にスナイパーが一人狙ってやがる。隠れてる奴がいるかもしれねぇが、あたいの目に映るのはそれだけだ」
「十分だ。……じゃあ、“あのバカ二人”を狙うフリをして、手前からおびき出す」
フェリクスは地を蹴り、正面へと飛び出した。将校とドレフォンに、無謀な突撃に見せかけ一気に突撃して行く。
背後から銃声が轟き、スナイパーの弾丸が唸りを上げる。
フェリクスは予め知っていたかのように身を翻し、あえてバランスを崩したようにしてみせた。
その隙を狙って、茂みに潜んでいた二人のゲリラがここぞとばかりに飛び出した。
「今だ!」
しかし叫ぶ間もなく、フェリクスの大剣が一閃すると、二人は無力化され地に転がった。
フェリクスは一瞥もせず、ゆるりと歩を進めて将校とドレフォンに迫った。
ドレフォンの顔から血の気が引き、後退りする。将校は歯を食いしばり、氷のような殺気を滲ませた。
「よう、俺たちは高値で売れたか?」
フェリクスの問いに、ドレフォンは引きつった笑みを浮かべる。
「へっ……怒るなよ。ただの商売だ。こっちの旦那の方が報酬が良かったってだけさ」
「そうか。じゃあ契約は破棄だな。……借りは返してもらう」
フェリクスが一歩踏み出した瞬間、ドレフォンは慌てて背を向け、逃げ出した。
だがフェリクスは追う事もなく、代わりに冷気を纏う将校へと視線を定めた。
「追わなくていいのか?」
将校が口角を吊り上げる。
「後でたっぷり詰めさせてもらう。それより……お前は逃げなくていいのか?」
フェリクスが冷たく返し、剣を構えると、将校は右手を突き出した。周囲の空気が急速に冷え込み、白い息が漏れる。
枝葉に付いた露が瞬時に凍り、音を立てて砕け落ちた。
「俺が逃げる?何のためにだ?」
冷笑を浮かべ僅かに身をかがめる。
「氷のウィザードか。だが詠唱を唱える間を、与えるつもりはない」
「くく……来い、フェリクス・シーガー。その自信、私の冷気で砕いてやる」
二人の間に冷気が渦巻き、空気中の水分が結晶となって舞い散る。
じり、じりとすり足で間合いを詰め合う。静寂の底で、緊張だけが研ぎ澄まされていった。




