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密林での邂逅⑦


 激戦の余韻を背に、隊を残して単独で飛び出したフェリクスは、胸の奥にわずかな焦りを抱えていた。


 まだ追いつけないか。リオ、随分と飛ばしているな。

 体力の温存はしたいが……今は追うしかない――。


 先程の戦闘での疲労が残る。それでも、彼女を見失えば全てが水泡に帰す。フェリクスは歯を食いしばり、ただひたすらリオの背を追った。


 地下トンネルを駆け抜け、木々が鬱蒼と生い茂る森へ出たとき、ようやく彼女の姿を視界に捉えた。


「おい、リオ。少し待て!」


 思わずフェリクスが叫ぶ。だがリオは一瞬だけ振り向いたが、速度を緩めることなく前へと駆け続けた。その背を追いすがり、フェリクスはさらに脚へ力を込めた。距離が縮まり、ほぼ並走できるところまで迫る。


「……女性の後を追い回すのは、俺の趣味じゃないんだがな」


 冗談めかした声に、リオは鼻で笑う。


「はっ。あたいもしつこい男は嫌いだよ」


 悪態をつきながらも、その表情はどこか張り詰めていた。


「手厳しいな。だがリオ、単独で動くな。危険だ」


「ふん、さっきまで一人で突っ込んでた奴が言うかよ。説得力ねぇな」


 皮肉交じりの返答に、フェリクスは苦笑しつつも真剣な眼差しを向ける。


「確かにそうだな。……で、何があった?」


「あんたらにゃ関係ない」


 冷たい声が返る。しかしフェリクスは歩調を崩さず、並走し続けた。


「つれないな。だが、まだ契約は生きているだろう?だったら、無関係じゃない」


 その一言に、リオは一瞬息を飲む。横目にフェリクスを見て、小さくため息をついた。


「……ゲリラの奴ら、裏切りやがった。あんたらをセントラルボーデンに売った上で、あたいも抹殺するつもりだったんだろう。しかも、それだけじゃねぇ。……あいつら、マシューにも何かしやがった。絶対に許さねぇ」


 怒りで声を震わし瞳を燃やすリオ。その横顔を見て、フェリクスは黙ったまま前を見据える。


「……ならば我々も関係なくはない。借りはきっちり返すさ」


 そう言って無線機を取り出し、通信を繋ぐ。


「ヴェルザード、そちらの状況は?」


「……まもなく制圧できます。負傷者は出ましたが、作戦の継続には支障ありません」


「よし。一度トンネル出入口まで後退し、待機せよ」


「戻るのですか……了解しました」


 僅かな戸惑いを残しつつも、ヴェルザードは従う旨を伝え、通信を切った。


 その間も二人は森を駆け抜ける。隊を率いていたときと違い、今はフェリクスとリオだけ。息を合わせた疾走は、奇妙な連帯感を生み出していた。


 一時間ほどで、やがてゲリラの拠点へと辿り着く。


「おい、出てこい!」


 リオの怒声が響き、見張り役の二人が驚きながら顔を覗かせる。


「なっ、リオ?戻って来れたのか……?」


「てめぇら、全員グルか?頭はどこにいる!」


 肩で息をしながら掴みかかり、怒りをぶつけるリオ。そのとき、奥の建物からドレフォンが姿を現した。隣には、セントラルボーデンの将校と思しき人物が並んでいる。


「なんだ……?リオ。お前が戻って来るのは予定にないぞ」


 ドレフォンが怪訝そうに声を張り上げる。その横で、将校らしき男は余裕を浮かべて前へ出た。


「なるほど。戻ったということは、トンネルの待ち伏せは失敗したか。……その全身を包む漆黒のバトルスーツ、貴様がフェリクス・シーガーか?流石と言った所だな。だが、見たところ二人だけか、残りはどうした?」


 嘲るような視線に、フェリクスは一瞬沈黙した後、静かに前へ進み出る。


「お前らの卑劣な不意打ちで、仲間は倒れた。……その無念、必ず俺が晴らす」


 腰の剣を抜き、構える。リオはフェリクスを横目でちらっと見たあと小さく呟く。

「嘘つきめ」

 

 男の合図一つで、茂みや建物の影からセントラルボーデン兵たちが続々と姿を現した。


「降参するなら今のうちだ。お前を捕虜にすれば俺の評価は上がる。討ち取っても同じだがな」


 そう言うと男は不快な笑みを浮かべてリオに視線を移す。

 

「そっちの女は殺すな。聞きたいことがある。だが悪くない女だ、俺の妾として飼ってやってもいいぞ?」


 下卑た笑みを浮かべる男。その言葉に、リオは憎悪を隠さず吐き捨てる。


「……隊長さん、あいつだけはあたいにやらせろ」


「奇遇だな。俺も八つ裂きにしたい気分だ」


 二人は並び立ち、剣を低く構える。空気が張り詰め、戦いの幕が切って落とされようとしていた。

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