密林での邂逅⑥
フェリクスが飛び出した方角から、銃声と悲鳴がこだました。
続けざまに、ガルシアたちが向かった側からも爆音が轟き、トンネル全体が震える。
銃撃音、爆炎、舞い上がる砂塵、視界は奪われ、リオ達は岩陰に身を寄せ息を潜めた。
リオの片手に握られた無線機はいまだ沈黙を保ち、焦燥だけが募っていく。
「……くそっ、どうなってやがる?おい、マシュー!返事しろ!」
苛立ちを抑えきれず、無線機に叫ぶ。しかし返答はなく、リオは舌打ちをして唇を噛む。
返事がなきゃ、鷹の目は――。
不安と苛立ちが入り混じるその瞬間、何かを察したリオは隣にいたエルザの襟首を掴んで引き倒した。
「リオ?」
「伏せろ!」
直後、砂塵を裂いて刃が走り、エルザの前髪を数本散らして岩肌をえぐる。
「か、躱した!?」
驚きの声を上げた敵兵の喉元に、リオがナイフを突き立てる。
「遅ぇんだよ、ノロマ」
呻く間もなく崩れ落ちる敵を冷ややかに見下ろし、リオは吐き捨てる。
そして振り返り、エルザを見据えた。
「エルザだったな?あんた戦闘向きじゃねぇな?だが今はそんなこと言ってる場合じゃねぇ、次からは自分の身は自分で守ってくれよ」
「……リオ、ありがとう」
エルザは震えを押し殺し、銃を握り締める。
だが周囲では銃弾の雨に混じり、氷の礫と炎の閃光が交錯し、悲鳴が飛び交っていた。
「なんで待ち伏せがバレた!?ガキを封じるのに失敗したのか!?」
敵兵の叫びにリオの目が鋭く光る。すぐさま飛び出し、ナイフを構えて声の主に詰め寄った。
「今の、どういう意味だ?」
「ハハッ、お前がリオか。だが知る必要はねぇよ」
リオが繰り出す刃を躱し、挑発的に舌を出す敵兵。その嘲笑にリオは奥歯を噛み締める。
だが次の瞬間、敵兵の視線がリオの背後に向いた。
「ほら、チェックメイトだ」
反射的に振り返る。そこには剣を振り下ろそうとしたもう一人の敵兵がいた。
挟撃を受けるリオ。だがリオは速度を上げ、一瞬で反転し、背後にいた敵兵の喉を切り裂く。そのまま正面へと踏み込む。敵兵は慌てて剣を突き出すが、リオは笑みを浮かべそれを紙一重で躱すと、ナイフを深々と胸に突き立てた。
「誰がチェックメイトだって?こっちはお前らのスピードに合わせてやってただけだ」
崩れ落ちる敵を冷たく見下ろす。その瞳は、血煙の向こうを見据えていた。
無線の沈黙、敵の言葉を思い起こし、胸の奥が灼けるように熱くなる。
マシュー、まさか――。
「リオ、迂闊だって!」
駆け寄ったエルザの声も届かない。リオは憤怒の表情を浮かべ、低く吐き捨てた。
「あいつら……許さねぇ」
そのまま来た道を戻るように駆け出して行く。
「リオ!」
エルザの叫びが響くが、リオは振り返らない。
「どうした!?」
異変に気づいたヴェルザードが声を張る。しかし敵の攻撃も激しく、状況を把握しきれないでいた。
「リオが突然走り出して……」
「あいつ、裏切ったのか?」
ヴェルザードが歯噛みする。だがその場にフェリクスが戻り、息を弾ませながら問いかけた。
「何があった?」
「リオが飛び出していきました。……待ち伏せがあった以上、はめられた可能性もあります」
冷徹に進言するヴェルザード。しかしフェリクスは逆に微笑みを浮かべる。
「だったら捕まえて聞けばいい。俺はリオを追う」
「少佐! いい加減護衛を――」
言い終える前に、フェリクスの姿は既に闇の奥へと消えていた。




