密林での邂逅⑤
「……まぁ、もし答えたくないなら仕方ない。ただ、君が察知してくれたおかげで隊の損失は最小限で済んだ。隊長として礼を言うよ。ありがとう」
質問には答えず、ただ笑みを浮かべて見返してくるリオ。その眼差しには、どこか探るような色が宿っていた。フェリクスは柔らかく微笑み返し、踵を返そうとする。
しかしその直後、明るい声でリオが呼び止める。
「待ちなよ、隊長さん。……少しだけ話そうぜ」
フェリクスは振り返ると微かに口角を上げ、リオの隣に腰を下ろした。
「あんたの言う通り、さっきの力は鷹の目だ。無線の相手、マシューの力さ。あたいはマシューが鷹の目で見た情報をあんたらに伝えた訳だ」
「なるほどな。鷹の目は戦場を俯瞰的に見る事が出来るらしいな。それでもその範囲は限定的な筈だ。それをあの距離で使って見てたのなら大したものだ」
「はは、マシューの鷹の目はかなりトップレベルだとゲリラの奴らも言ってたからな。だからあたいらはゲリラの中にいても重宝されている。出発前に話してたあいつがマシュー、あたいの弟さ」
「恋人にしては少し雰囲気が違うと思っていたが……弟さんだったか」
リオは笑う。だがその瞳はどこか遠くを見ていた。袖口から伸びる華奢な腕には、小さな傷跡がいくつも刻まれている。それは彼女の言葉より雄弁に、これまで送って来た過酷な日々を物語っていた。
ふと、リオが横を向いた。
横顔が洞窟の明かりに照らされ、その輪郭が浮かび上がる。
整った顔立ち、柔和な笑み。普段の勝気な態度とは違う、どこか儚げな美しさがあった。
やはり、こうして見ると、年頃の女の子だな――。
フェリクスは思わず見入ってしまう。
「……なんだよ。そんなにジロジロ見るな」
フェリクスの視線に気づき、リオが毒づく。だがフェリクスは苦笑しながら首を横に振った。
「すまない。女性と二人きりで話していたせいかな。つい美人に見とれてしまった」
「ははっ、上手いこと言うな。そんな台詞で喜びやしねぇよ」
そう口にしながらも、リオの微笑みはわずかに柔らかさを帯びていた。
少しの会話を重ねた後、フェリクス達は束の間の休息に入った。
――
「そろそろ出発するぞ。支度を急げ」
ヴェルザードの号令に、隊員たちは即座に荷をまとめ、あっという間に隊列を整えた。
規律の取れた動きに、リオは思わず小さく笑みを浮かべる。
流石だな。やっぱり、ゲリラとは違う――。
「さぁ、今日も頼む」
「あいよ」
フェリクスの短い言葉に、リオは薄く笑みを返し、片手を軽く上げた。
しかし地下トンネルを進んで一時間ほどが経った頃、フェリクスはリオの表情が険しくなっていることに気づく。
「……どうかしたか?」
声をかけるが、リオは一瞥しただけですぐに前を向いた。
「……なんでもねぇよ」
疲れではない。強がりにしては声音が違う。無線でマシューとやり取りをしている様子もない。では、何だ?――。
リオの指が無線機のボタンを何度も押していることに、フェリクスは気づいた。
やがて、彼女の足取りが明らかに鈍り始め、ついにその場で立ち止まる。
「……くそっ、限界だ。隊長さん!二時方向と九時方向に待ち伏せだ。恐らく他にも隠れてやがる」
「人数は?」
「わからねぇ。ただ、二時方向にはウィザードを含めて三、四人ってところだ」
リオの報告を聞くや、フェリクスは即座に飛び出した。
「ヴェルザード!リオから敵の位置を聞いて対処しろ!」
「おい、一人は無茶だろ!」
リオが叫ぶが、フェリクスは背を向けたまま振り返らない。潜伏する敵が態勢を整える前に突っ込むには、無謀なほど速さが求められる。フェリクスは迷わず選んだ。
「聞いたか?敵の位置と数を伝えろ。ガルシア、ジェーン、あと二人を選んでチームで動け!リオ、早く続けろ」
戸惑いながらもリオは必死に口を開いた。
「九時方向に……狙撃特化の奴らが二、三人!他は……わからねぇ!あんたら本気か?あっちは隊長ひとりに任せる気かよ!」
「聞いたな。ガルシア、ジェーン、行け。残りは守備隊形を維持」
ヴェルザードは冷静に命令を飛ばし、部隊を分けて岩陰へと散開させる。リオの傍らに並んだエルザが、リオへ真剣な眼差しを向けた。
「フェリクス少佐は、私たちに背中を預けた。だから私達も彼を信じるの。……貴女も、ね」
そのまっすぐな瞳に射抜かれ、リオは思わず息を飲み、胸の奥がざわつくのを感じていた。




