密林での邂逅④
予定していた地下トンネルの入口に到着したフェリクス達は、まず周囲を入念に警戒した。
鬱蒼と茂る草木の奥、目を凝らさなければ見過ごしてしまいそうなほど狭い裂け目が口を開けている。人ひとりがやっと潜り込める幅で、奥は闇が広がっている。知らなければ、そこが地下へ続く道だとは誰も思わないだろう。
「さぁ、ここからだ。足元に気をつけな」
リオが素っ気なく告げると、その華奢な体はすぐに闇に溶け込んだ。フェリクスたちは一瞬ためらいながらも、慎重にその背を追う。
トンネルに入ると、じっとりとした湿気が肌にまとわりつき、鼻を突くカビ臭さが漂った。壁に沿って灯された明かりが、濡れた岩肌を不気味に照らす。一行は一列となり、リオの足取りを頼りに暗い道を進んで行く。
やがて小広い空間に出ると、リオが立ち止まり振り返った。
「全員いるな?ここなら休める。隊長さん、どうする?」
「助かる。よし今日はここで一旦休憩だ」
フェリクスの声が響くと同時に、ヴェルザードが見張りを割り振り、隊員たちは手際よく食事の準備を始める。ガルシアとキャスパーが持ち場につき、エルザは負傷したレスターの元へ向かった。
レスターの腕を確かめながら、エルザは淡々と包帯を解く。
「血は止まってるし、骨も大丈夫そう。消毒を続ければ平気だと思うよ」
安心させるような微笑みを浮かべるエルザだが、レスターは顔をしかめ、軽口を叩いた。
「いや、エルザ。熱が出てうなされるかもしれない。その時は一晩、添い寝してくれよ」
にやりと笑って近づいた瞬間、包帯の上から傷口を強く握り込まれる。
「いっ……痛っ!わ、悪かった!冗談だって!」
呻き声がトンネル内に反響する。エルザは冷ややかに見つめて笑みを浮かべる。
「私、手が雑だからさ。ちゃんと看病できないかも。……どう?ヴェルザード大尉に看てもらう?」
そう言うエルザの視線を追ったレスターは凍りつく。背後には、鋭い眼差しをしたヴェルザードが立っていたのだ。
「レスター。看病が必要なら、私が看てやろうか?」
「……い、いえ!大丈夫です!大尉のお手を煩わせるほどでは!」
硬直したまま敬礼するレスターの姿に、周囲の隊員たちは笑いをこらえきれず肩を震わせていた。
そんな賑やかな様子から少し離れ、リオは壁にもたれて様子を眺めていた。笑いあう隊員達を見つめるリオの瞳に映るものは羨望か、呆れなのか?その表情からは読み取れない。
その横に、フェリクスが静かに歩み寄る。
「リオさん、少し話を――」
「待った」
リオは遮るように手を上げると、そのまま腰を下ろし、苦笑いを浮かべる。
「……そのリオ“さん”っての、やめてくれないか?むず痒くてかなわない。リオでいいから」
そう言ってはにかんだような笑みを浮かべるリオを見て、彼女の人間らしさを垣間見たような気がした。フェリクスは目を瞬かせたあと、柔らかな笑みを返す。
「なるほど。じゃあリオに改めて聞きたいことがあるんだが」
「なんだよ。詮索屋は嫌われるぜ、隊長さん」
茶化すような口調。しかし瞳の奥には警戒の色が残っている。それでもフェリクスは構わず言葉を続けた。
「さっきの戦闘で見せた敵位置の把握。ウチの隊員達も普段はあんな感じだが、いくつもの戦場を駆け抜け、くぐり抜けて来た精鋭達だ。そんなあいつらが気付く前に君は敵の存在に気付いていた……あれはひょっとして鷹の目の力じゃないのか?無線の相手の力かな?無線の相手は君が出発前に話していたあの少年か?」
問いかけにリオは答えなかった。ただ、口元に笑みを残したまま、じっとフェリクスの目を見返していた。




