密林での邂逅③
「急に止まってどうした? まさか道に迷ったのか?」
後方から隊員のひとりが茶化すように声を投げかける。しかしリオは振り返りもせず、張り詰めた視線を森に向けたままだった。
「ガルシア、静かにしろ」
フェリクスの声は冷ややかで、冗談を許さぬ響きを帯びていた。その緊張は瞬く間に隊全体へと伝播し、空気が重くなる。リオは無線機を耳に当て、低く言葉を交わしていた。
「……五人だ。左後方に二人、右後方に三人。一定の間隔を保ってついてきてやがる」
フェリクスはすぐに後方へ視線を走らせ、指示を飛ばした。
「ガルシア、レスター、ブレイド、左後方の二人を仕留めろ。キャスパー、ジェーンは俺と来い。ヴェルザード、残りはリオさんを守れ」
「少佐、それでは人数が手薄すぎます。もっと連れて――」
ヴェルザードの忠告を遮るように、フェリクスはにやりと口角を上げた。
「必要ない」
そう短く告げ、面部までバトルスーツを装着すると、疾風のごとく飛び出して行く。
残されたヴェルザードは即座に部下を配置し、リオを中心に守備陣形を整えた。
そんな中リオが手を伸ばす。
「副隊長さん、無線を一つ貸してくれ」
一瞬だけ怪訝な顔をしたヴェルザードだが、迷わず無線機を手渡した。
「妙な真似はするな」
「はっ、あたいだってこんな所で死ぬ気はねぇよ」
軽口を叩きながらも、リオの声にはかすかな緊張が混じっていた。受け取った無線機を片手にリオが呼びかける。
「隊長さん、聞こえるか?……向こうもこっちの動きに気付いた。迎撃体勢に移行してやがる。左後方の敵まで三十メートル。隊長さんの方は五十。上手く身を隠してるようだが、大丈夫か?」
『はは、それだけ分かれば十分だ。……捉えた』
無線越しの声と同時に、森の闇を裂くようにフェリクスが飛び込んだ。最前の敵兵を一撃で打ち伏せる。
キャスパーとジェーンが援護射撃を加え、火球が舞い、銃声が森に轟いた。混乱する敵を前に、フェリクスは一瞬で距離を詰め、残りを制圧する。
瞬きする間の出来事だった。森に潜んでいた敵は為す術なく沈んだ。
キャスパーは構えた銃の引き金に指をかけたまま、徐々に指先の力を緩め、ゆっくりと呼吸を整える。森に銃声と叫びの余韻がこだまし、森は再び静寂に包まれていく。
「こちらは片付いた。ガルシア、そっちは?」
フェリクスが報告を兼ねて無線機で呼び掛けるとガルシアの荒い息遣いが聞こえてきた。
『制圧完了……だがレスターが腕を撃たれました』
「すぐに戻れ」
部隊に戻るとレスターの腕から血が滴っていた。エルザが素早く処置にあたる。
「弾は貫通しています。止血すれば応急処置は可能です」
包帯を巻くエルザの声を聞きながら、フェリクスはリオの元へ歩み寄る。
「リオさん、さっきは助かった。……少し聞きたいことがあるんだが、後でいいかな?」
リオはちらりと視線を向け、すぐにそっぽを向いた。
「何の話さ?」
とぼけるような口調だったがその横顔は険しく、どこか警戒感を漂わせる。
フェリクスは静かに笑みを浮かべた。
「それは後ほど。答えたくなければ答えなくていい」
そう告げると、フェリクスはすぐに表情を引き締め、部下の方へ向き直った。
「ここで立ち止まっていては、また襲撃を受ける可能性が高い。予定通り、地下トンネルまで進むぞ」
隊は再び隊列を整え、リオを先頭にして進み始めた。




