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密林での邂逅②


 現れたリオは、再びフェリクス達に鋭い視線を向けていた。Tシャツの上からアーミーベストを着たラフな格好。そのシャツから伸びる細い腕。百七十センチはある高身長のせいもあり、かなり華奢な印象を受ける。整った顔立ちではあるが、特徴的な切れ長の瞳には警戒心が宿っているようだった。ゲリラの中にいて、少し異質にも感じるその女性をフェリクスは興味深く見つめる。

 その時、フェリクスとリオの視線が交わった。まるでフェリクスを値踏みするようなリオの眼差しは氷のように冷たく、敵意すら含んでいるように思えた。


「じゃあ隊長さん。こいつがリオだ。あんたらの道案内をしてもらう」


「道案内?普通にここを抜けさせてもらえればいいのだが」

 

 ヴェルザードが怪訝そうに眉をひそめる。


 だがドレフォンは豪快に笑い飛ばした。


「ははは、副隊長さんよ。あんたらだけで抜けられるわけがねえ。この森には俺たちが張り巡らせた罠が至るところにある。そいつを避けながら進む必要があるんだ」

 ドレフォンの声が低く響く。

「さらに奥へ行けば、森はより深く、まるで迷宮のようなジャングルになる。そこからは地下トンネルを抜けなきゃならん。複雑で、一度迷えば出られねえ。あんたらだけで進めば、一週間あっても向こうには辿り着けねえさ」


 隊員たちは顔を見合わせ、困惑が露わに広がっていく。


「なるほど……それで、リオさんが案内してくれるというわけか」


 フェリクスは一歩進み出て、リオに穏やかな笑みを向ける。だが彼女の表情は一切揺るがず、冷たい視線のまま返してきた。


「まあ、そういうこった。リオが先導すりゃ三、四日はかかるが、一番安全に抜けられる」


 ドレフォンはそう言ってフェリクスの肩を叩き、耳元に顔を寄せた。


「それにな……あんたには別の“サービス”をさせてもいい。なにせ、あいつにはそれくらいの価値しかねえ」


 卑しい笑いが耳を打つ。フェリクスは不快感を覚えながらも表情を崩さず、リオのもとへ歩み寄った。


「リオさん。我々の命運を、しばらく君に預けよう」


 そう言って手を差し出そうとしたが、リオは振り向くことなく踵を返し、歩き出した。


「ふん。どうせすぐ出発なんだろ?支度してくるから少し待ってな」


 その背中は冷ややかで、フェリクスの差し出した右手は宙に取り残された。苦笑ともため息ともつかぬ息をつき、そっと静かに握り締める。視線の先ではリオが奥にいたまだ幼さの残る少年と短く言葉を交わしているのが見えた。


 やがて五分ほどして戻ってくると、彼女は素っ気なく告げる。


「待たせたな。いつでもいい」


 フェリクス達はそのまま出発して行く。拠点を後にし、鬱蒼とした森へと足を踏み入れる。先頭を歩くリオ。そのすぐ後ろに、あえてフェリクスがついていた。本来なら指揮官であるフェリクスは隊列の中央に位置するべきだが、彼は意識して前へ出ていた。


「随分とジグザグに歩くんだな」


 フェリクスが声をかけるがリオは一瞥しただけで、すぐに前へ視線を戻した。


「罠が仕掛けられてるって言ったろ?これでも間抜けなあんたらが引っかからないよう気を使ってやってるんだ」


 嘲るような口ぶりに、ヴェルザードや数名の隊員は眉をひそめる。だがフェリクスは逆に口元を緩めた。


「そうか。それはありがたい。なら無駄口を叩かず、大人しくついて行こう」


 そうして森を進むこと三時間。変わらぬ木々の景色とまとわりつく湿気に、兵たちの集中力も次第に削がれていく。

 そのとき、フェリクスは前を歩くリオの横顔に気付いた。険しさを増し、真剣な眼差しで周囲に視線を巡らせている。さっきまでの嘲笑は消え、研ぎ澄まされた警戒心が漂っていた。


 何だ?――。


 そう思った瞬間、リオが持つ無線機から声が響いた。


『リオ、気を付けて。五人いる』


 幼い少年の声だった。

 フェリクスは一瞬理解できず、困惑の色を浮かべる。


「リオさん……今の通信は?」


「静かに」

 

 リオは低く遮り、足を止めて周囲に目を走らせた。

 

「おい……あんたら、誰かにつけられたりしてないか?」


 張り詰めた声。その気配に、空気が一変した。

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