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黒き疾風


 フェリクス達が戦場に着いた時、そこは地獄絵図と化していた。

 援軍を求めていたヴェルザード大尉の隊はすでに敵に追いつかれ、退避もままならないまま集中砲火を浴びている。

 先に出撃した味方部隊も必死に応戦していたが、数で圧倒するセントラルボーデン軍を前に近づくことすらできない。戦力差は五倍――このままでは持ちこたえられないのは明らかだった。


「ここまで戦力を投入してくるとは……まずいぞ。こちらのウィザードは何人だ?」

「三人です。ヴェルザード隊の状況は不明ですが……」


 報告を聞いた隊長は顔をしかめる。

 ウィザードの数で劣り、兵士の士気も下がり始めていた。

 そんな時、兵士達の中にあって、全身真っ黒という特異な出で立ちのフェリクスが一歩前に出た。


「どのみちソルジャーの働き次第だな。俺が敵の一角に突っ込む。隊長達は援護を頼む」


「少佐! ここは戦場だ。机上の計算通りにいくものか!」


 止める声を背に、フェリクスはすでに前へ歩み出していた。


「だからこそだ。手をこまねいていれば全滅する。……迷惑はかけない」


 そう言い残し、フェリクスは加速する。試作スーツの補助を受けた身体は、ただの技術士官のものとは思えない速さで敵陣へと迫って行った。


――


「ヴェルザード大尉、こちらフェリクス・シーガー少佐。正面の部隊を崩す。その隙に退け!」


 通信を入れた瞬間、ヴェルザードは思わず叫んだ。


「なに!?正面に突っ込むだと!?正気か?」


 三方向から包囲する敵。正面に向かえば、左右から十字砲火を浴びるのは必然だった。

 だがフェリクスはその雨をものともせず駆け抜けた。銃弾も砲撃も魔法すらも、ひらりと舞う彼の速度に追いつけない。


 黒い影が閃き、次の瞬間には敵陣のど真ん中に突入していた。

 剣が閃き、銃声が響く。防御の隙間を縫うように斬撃と射撃を織り交ぜ、フェリクスは嵐のように敵兵を薙ぎ払っていく。


 想定外の突破に、セントラルボーデン軍の指揮系統は混乱した。

 その一瞬を、ヴェルザードは見逃さなかった。


「全隊、右の敵に集中攻撃! 今なら突破できる!」


 味方の猛攻で敵陣形は崩壊し、数で勝っていたはずのセントラルボーデン軍がついに退却を始めた。


――


 補給基地に戻り、フェリクスが試作スーツの点検をしていると、ヴェルザード大尉が駆け込んできた。


「フェリクス少佐、この度は……本当にありがとうございました! 貴方がいなければ、我々は全滅していました」


「いや、俺だけじゃない。この基地のみんなで救援できたんだ。それに……新型のデータも取れた」


 フェリクスは笑みを見せたが、ヴェルザードは崩れぬ敬礼のままだった。


「それでも、あの獅子奮迅の活躍は貴方あってこそです。先ほどの通信時の無礼、罰則は受けます。どうぞ仰ってください」


「無礼? ……じゃあ一つだけ。敬礼とその堅苦しい喋り方、やめてくれ」


 皮肉混じりに告げると、ヴェルザードは直立不動のまま姿勢を正した。

 フェリクスは苦笑しつつも問いを投げる。


「一つ聞きたい。俺が正面に突っ込んだ時、君は退避せず右の敵を攻撃した。俺はその隙に退けと言った筈だがなぜだ?」


「少佐を残して下がるなどありえませんでした。それに、敵の視線は完全に少佐に奪われていました。あの場面、攻撃こそ最大の防御だと判断しました!」


「……そうか。見事な判断だった。逆に、俺が救われたよ」


「ありがとうございます!!」


 終始硬い態度のヴェルザードと、肩の力を抜いたフェリクス。

 二人の温度差は滑稽でもあり、妙に心強くもあった。

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