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記念式典⑤


 ザクスが護るようにリオの前に立ち、フィリップが腕に炎を灯し対峙する中、凛とした声が響き渡った。


「やめんか馬鹿共!」

 

 会場が静まり返り全員の視線が声の主に向けられる。

 そこには青を基調とした特注の軍服に身を包み、険しい表情を浮かべたアイリーンが腕を組んで立っていた。


 アイリーンは会場を見渡し、視線をザクス達に向けるとゆっくり近付いて来る。

 静まり返る会場内にアイリーンの足音だけが響き渡る。彼女の乾いたヒールの音が刻まれる度、緊張感が増していく。

 やがてザクス達の前に立つとフィリップを一瞥する。ただそれだけだが、鋭い眼光に射抜かれたフィリップは言葉を失い萎縮していた。

 そんなフィリップを見つめ鼻で笑うと、その視線を次はセシルに向ける。


「セシル、何があった?簡潔に答えろ」


「は、はい」


 圧を帯びたアイリーンの問い掛けに、セシルは一瞬伸び上がる様に敬礼をすると、話し出した。


 自国の大臣がザクスに尊大な態度で接していた事。それを目にした自分が声を掛けると、更にそこにフィリップが加わり更に侮辱を始めた事。そして限界に達したザクスが手を出した事。


「――そしてフィリップ中佐が立ち上がり、更に騒動が大きくなりそうな所でアイリーン大佐が到着なされました」


「ふん、なるほどな」


 セシルの説明を聞き、アイリーンは頷くとザクスに一瞬視線を向け僅かに口角を上げた。

 しかしすぐに顔を引き締めるとフィリップの前に立ち、鋭い視線を向ける。


「フィリップ中佐。貴様、何をしている?」


「い、いや、違うんです。ザクスが先に手を出して――」


「黙れ!」


 怯える様に言い訳を始めたフィリップをアイリーンが一喝すると、フィリップの言葉は喉の奥で詰まる。

 そしてアイリーンは一歩近付き、声の抑揚を抑えて語り掛ける。


「私は何をしているのかと聞いている。今、貴様が何をしようとしているのか答えろ。何度も同じ事を言わせるなよ」


「……自分は正当防衛の為――」


 フィリップが弁明を口にしようとした時、アイリーンは笑ってそれを遮った。


「はは!正当防衛?聞いた話と少し違うな。貴様がザクスを挑発し、殴られた。違うか?」


「……その通りです」


「なんだ?相手が反撃も出来ん安全圏からしか吠えられんのか?この男は貴様がおもちゃにしていいような男ではないぞ」


 アイリーンの問い掛けにフィリップは俯き唇を噛む。


「ふん、これ以上我が国の品位を下げるな。貴様は部屋に戻れ」

 

 アイリーンはフィリップに見下す様な視線を向け、命令を下す。フィリップは俯いたまま小さく頭を下げ会場を後にした。

 アイリーンは振り返るとそのままザクスの元に歩み寄る。


「ザクス・グルーバー大尉だったか?」


 含みを持たせるような笑みを浮かべて語り掛けるアイリーンに、ザクスも苦笑いを浮かべて応じる。


「ええ、お初にお目にかかります、アイリーン大佐」


 そう言って静かに腰を折ったザクスと横に立つリオを冷たく見つめ、アイリーンは笑みを浮かべる。


「ふん、そうか鷹の目(ビジョンズ)の女もいたか。ウチの者達が失礼を働いたようだが、先に手を出したのはそちらだ。ここらで手打ちでいいだろう?」


「ええ、問題ありません」


 アイリーンの問い掛けにザクスは平身低頭で応じる。


「あの時以来……久し振りに会えるのを楽しみにしてたんだがな……拍子抜けだ。まぁいい、今回は挨拶に来ただけだ、また会おうザクス・グルーバー大尉」


 アイリーンは笑みを浮かべてそう言うと、踵を返し颯爽と歩き出す。


「セシル戻るぞ、着いて来い」


「はい」


 アイリーンに声を掛けられ、セシルも慌ててその場を後にする。


 そのままアイリーンと共に会場を後にし、部屋に戻ったセシルだったが、一連の出来事に疑問を抱き思考を巡らせていた。


 大臣もフィリップ中佐も、そしてアイリーン大佐までもあのザクス大尉を知っている風だった。

 私だけが蚊帳の外?いや、それよりも私の知らない所で何かが渦巻いている――?


 胸の奥のざわめきを抑えきれずにセシルは立ち上がる。

 セシルはそのままアイリーンの部屋を訪れると扉をノックした。


「誰だ?」


 扉の向こうから返って来る凛とした声に一瞬びくついたが、すぐに答える。


「セシルです」


「……入れ」


 ゆっくりと扉を開けて中に入ると、アイリーンが椅子に腰掛け笑みを浮かべてセシルを見つめていた。

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