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記念式典④


 ザクスはセシルと目が合うと柔らかな笑みを浮かべた。


「ああ、セシル。まさかこんな所で君と出会うとはな。今日は旅行じゃないのかな?」


「ふふ、今日は仕事ですよ。私が軍関係者だって事、内緒にしてたのはごめんなさい。ただ悪意があってとかじゃなくて、言うタイミングを逸しただけだからね。それより、我が国の大臣が今、貴方達に失礼な態度取ってたんじゃないかと思ったんだけど」


 自国の大臣が知人に対して傲慢で失礼な態度を取ったのではないかと心配し尋ねるセシルに、ザクスは笑みを浮かべながら小さく頭を振った。


「いや大丈夫。こういう場だ。少しは気分も高揚してしまうんだろう」


 そう言って笑うザクスだったが、セシルはそれでも心配そうな表情を浮かべていた。


 その様子を見つめていたリオは小さく息をついた。


 一瞬目を閉じると、敬礼し声を掛ける。


「……それでは私は仕事もありますので」


 そう言って踵を返したリオを、慌ててザクスが呼び止める。


「おい、リオ、ちょっと待て」


 歩みを止め、微かにリオが振り返った時、また別の声が割り込んだ。


「セシル、そちらは君の知り合いか何かかな?」


 少し鼻につく嫌味な声。

 その声に視線を向けると、癖のある前髪を指で遊ばせながらフィリップが立っていた。セシルは一瞬眉をひそめたが、すぐに真顔に戻し綺麗な敬礼をする。


「フィリップ中佐。こちら私の友人であるルカニード軍のザクス・グルーバー大尉です」


 しっかりとした口調で紹介するセシルだったが、それを聞いたフィリップは口元を嘲るように歪めた。


「ザクス?そうか、君がザクス・グルーバー大尉だって?ははは、なるほどなるほど。それで?君みたいなのがこの式典で何をしてる?あまり我々の周りをうろついてほしくはないんだがな」


 明らかに侮辱するように笑うフィリップに対し、ザクスは俯きながら奥歯を噛み締め、拳を握り締める。


 傍らにいたセシルは不快感をあらわにしながらフィリップに詰め寄った。


「フィリップ中佐……私の友人に対して、あまりにも失礼ではありませんか?階級は確かに貴方の方が上ですが――」


「はっはっは。階級?そんな物は関係ない。言うなれば人としての位や存在価値かな。勝者と敗者。どう足掻いた所で負け犬は――」

 

 フィリップが嘲笑し、蔑む視線を向けた時だった。


「貴様!」


 リオが震える拳を握り締めフィリップに向かって一歩踏み出す。


 だがザクスが咄嗟に間に入り、リオの腕を掴んで止めた。


「止めろ」

「……限界ですよ」


「それでも堪えるんだ……」


 リオとザクスが短く言葉を交わす。

 不穏な空気が流れる中、フィリップが更に高笑いをし、その視線が、リオに向けられた。


 フィリップが一歩、リオにゆっくりと近づく。


「なんだ女?負け犬は負け犬だ。貴様らは我々に従ってればいい」


 リオの顔を舐めるように見つめる。侮蔑と、何か別の感情が混じった視線。


「その卑しい目つきで――」


 その瞬間だった。


 ザクスの中で、何かが弾けた。


 自分への侮辱なら耐えられた。何を言われても、我慢できた。


 だがリオに向けられた侮辱を含む、蔑んだような言葉には我慢出来なかった。


 気づいた時には、身体が動いていた。


 一歩踏み込み拳を握る。


 そして――。


 ドン、と鈍い音が響いた。


 フィリップが、大きく吹き飛び、会場が静まり返る。

 ザクスは拳を振り抜いたまま、立ち尽くしていた。


 まずい、やっちまったか――。


 ザクスが苦笑いを浮かべる中、フィリップが立ち上がる。口から血を流し、痛む頬を抑えながらザクスを睨みつけた。


「貴様……俺を……殴ったな……!ただで済むと思うな!」


 フィリップが詰め寄り拳を振り上げた。


 その視線が一瞬、リオに向く。ザクスは咄嗟に前に出た。


 拳が振り下ろされる。だがザクスは避けなかった。


 先に手を出したからな。それにこれで、警備が動く――。


 会場入口の方に一瞬視線を向けた。


 次の瞬間拳が、顔面に叩き込まれた。


 ザクスは大きく吹き飛び、会場がざわめく。悲鳴も聞こえる。


「少佐!」


 リオが駆け寄り、声を掛ける。


「大丈夫ですか?」


「ああ……」


 ザクスはリオに抱えられゆっくりと身体を起こすと、入口を見つめる、


 リオは立ち上がり全てを切り裂くような鋭い視線をフィリップに向けていた。

 

「待て!」


 リオが飛び出そうとするのを、ザクスが抱き留める。


「離してください!」


「駄目だ!」


 二人がもみ合う。


「何事だ!」

「殴り合いか!?」

「誰か止めろ!」


 ざわめきが波打つように会場に広がっていく。

 警備も気付き駆け寄ってくる。


 だが、間に合わない。


 その時フィリップが腕を振り、炎を灯す。


「フィリップ中佐!」


 セシルが叫び慌てて駆け寄る。


「何をするおつもりですか!ここは式典の場です!」


 だが怒りに打ち震えるフィリップの耳には届かず、ザクスを睨みつけている。


「俺を殴った……その高い代償を払わせてやる!」


 一触即発の空気が会場を支配する。

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