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記念式典③


 リオが一人壁際で静かにグラスを傾けていた時だった。

 会場入口の方が僅かにざわめいたのに気付き、注意を向ける。

 そこには厳重な警備に囲まれたセントラルボーデン政府高官達が闊歩していた。


「……あらあら、どこに行っても相変わらずな態度ね」


 俯き、前髪で顔を隠すようにして、小さく呟いた。

 

 高官達は参加している各国要人達と握手を交わしながら、ゆっくりと会場内を歩き回っている。


 こっちには気付かないでほしいんだけどな――。


 リオがその様子を壁にもたれながら静かに見守っていた。だがそれに気付いた一人の高官が笑みを浮かべながらゆっくりと近付いて来る。


 ちっ、そう上手くはいかないか――。


 俯き顔を覆い隠す前髪の隙間から視線で追うリオの前に高官は立ち、獲物を見つけたように粘着質な笑みを浮かべた。


「階級は少尉か。少し顔を上げてもらえるかな?」


 リオの襟元にある階級章を見つめ高官は笑みを浮かべながら語りかける。


「……何かご用でしょうか?」


 リオは冷たい笑みを浮かべてゆっくりと顔を上げると、見下したように、にやにやと笑う男と目が合った。


「私はセントラルボーデンの大臣を務めておるカートという者だ。少尉、君の名を聞こうか、一応な」


 高圧的な態度で見下す様な視線。リオは僅かに奥歯を噛み締めながらまっすぐに見つめる。


 こちらに気付いている癖にわざわざその言い草……しかし――。


 リオが会場に視線をやると先程の場所でザクスはまだ女性達に囲まれていた。


 私に気を取られているなら寧ろ引き付けるか――。


「……リオ・フレジャー少尉です。御高名なカート大臣にご挨拶が出来て光栄です」


「ふふふ、やはりそうか。ふざけた態度だな。お前の上官はどこにいる?私達がわざわざ来てやってるのに挨拶にも来んとわな。貴様らは自分達の立場がわかっているのか?」


 嘲笑を含む物言いに、リオの顔からもさすがに笑みは消え、眉をひそめる。


「……ええ、もちろんです。ですから今こうして大人しくしているんですよ」


「ふん、しかしその目つきは反抗的にも受け取れるがな」


「すみません。目つきは生まれついてのものなんで」


「ふふふ、お前達の立場、今から私の部屋ではっきりと教えてやろうか?」


 にやにやとした醜悪な笑みを浮かべるカートに対し、リオの我慢が限界に達し一歩足を踏み出した時、カートの背後から声が響く。


「これはカート大臣。自分の秘書官が何かありましたか?」


 カートが振り向き、リオも視線を向ける。

 そこには笑みを浮かべたザクスが立っていた。


 ザクスはリオの視線を遮るように、すかさずカートとリオの間に入る。


「ふん、ザクス・グルーバーか。貴様は秘書官の教育も出来んようだな。所詮戦う事しか能のない男よ。もう少し身の程をわきまえたまえ。そして我々のおかげで貴様らは生かされているという事を忘れるなよ、ザクス・グルーバー」


 カートは蔑む様な視線を向け、見下す様な捨て台詞を吐き、鼻を鳴らすと護衛を連れて身を翻した。


 それを静かにザクスとリオは見送る。


「……大丈夫か?」


 ザクスがリオに語り掛ける。

 リオはやや表情を柔らかくさせ、いつものような笑みを浮かべた。


「はい。あいつぶっ殺していいですか?」


「笑顔で物騒な事を言うな」


 ザクスが呆れた様に(たしな)めるが、リオはそれでも笑みを浮かべていた。


「だって出来るだけ笑顔でいとかないと、また目つきが悪いとか難癖付けられますし。それよりせっかく私がアレ引き付けていたんだから、その隙にさっきのお嬢さんでも連れて部屋に逃げ込めばあんな嫌な奴の相手せずに済んだのに。一石二鳥ですよ」


「……どっちもややこしくしかならんだろうが。だいたいあの状態でお前をほっとける訳ないだろ」


「まぁ、間に入ってくれて助かりましたけどね、ありがとうございます。あのままだったら私、本当にあいつ殴ってましたから」


 笑みを浮かべてそんな事を言うリオを見つめてザクスは軽く頭を抱える。


「……頼むから騒ぎは起こさないでくれ」


「ええ、努力しますよ。私ずっと我慢させられてますから慣れたもんです」


「……すまない」


「本気にしないで下さい。私までいたたまれなくなるじゃないですか」


 二人揃って苦笑いを浮かべていた時、会場の喧騒を縫うようにして女性が近付いて来ると、突然声を掛けてきた。


「あ、あの大丈夫でした?」


 その可憐な声の主に視線を向けると、そこには紺色のシンプルなドレスに身を包み、心配そうに覗き込むセシルの姿があった。

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