記念式典②
軍事パレードも終わり日が傾きルカニードの街が夕焼け色に染まる頃。
記念式典はパレードから王宮でのディナーパーティへと場所を移そうとしていた。
「はぁ、いよいよか。正直気が滅入るな」
ザクスがため息をつきながら支度をしていると、リオが後ろから声を掛ける。
「そんなため息ばかりつかないで下さい。こっちまで気が滅入ります。あとパーティの名簿、ご覧になりました?」
小言を含んだ問い掛けに、ザクスは苦笑しながら頭を振る。
「いや、見てないな」
「まぁ、そうでしょうね。セントラルボーデンは今回ルーシェル元帥はパーティに参加せず一人帰国の途につくそうです。変わってフィリップ中佐という人物と政府高官、警備が数名参加するそうですが一人、問題の人物が含まれています」
そう言って真剣な眼差しを向けてくるリオを見て、ザクスは首を傾げる。
「誰だ?あのセシルって子か?」
「いえ、セシルの名前はないので警備かと。問題はアイリーン・テイラー大佐。急遽、彼女も参加するそうです」
「……まじか……」
報告を聞きザクスは天を仰ぐ。
三年前のあの日、圧倒的力で立ちはだかった敵と、形は違えど再び相見えるかもしれない。
「……貴方はそれ程直接対峙してませんよね?私はあの化け物とやりあったんですよ?私だって憂鬱になります」
いつもより低いトーンで不満を口にするリオの脳裏に三年前の光景が蘇る。
――
血と硝煙の匂いが漂い、爆発と兵士達の叫びがこだまする中、傷つき、倒れていく仲間達がいた。
「ははは、中々魅力的なお話だな。確かに死なたくはない……だけど生憎今の居場所が案外気に入っててね。あんたを倒して生き残らせてもらう」
リオが笑いながら中指を立てて啖呵を切ると、アイリーンの高笑いする声が響き渡った。
「はっはっは、いいな小娘、やってみせろ」
背後では轟音と共に巨大な雷が地を突き、空は白く閃いた。
――
遠くを見つめながらあの日を思い出すリオにザクスは歩み寄り、ポンと軽く肩を叩いた。
すぐに現実に戻される。
「確かにそうかもな。でも君はあの時より大人になって雰囲気も変わった。気付かれないんじゃないか?」
「どうですかね?まぁ隅の方で目立たないよう、大人しくしときますよ」
肩をすくめて笑うリオを横に従え、ザクスはパーティ会場へと足を向けた。
ザクス達が会場に入ると、既に中では気の早い人達で溢れていた。
ザクスはリオを引き連れ、奥へと歩みを進める。
シャンデリアの光がグラスに反射し、笑い声と楽団の旋律が交錯していた。
ザクスは静かにグラスを取り、周囲を見渡す。
各国の代表、有力者、著名人、数百人の思惑が、ひとつの部屋で渦を巻いていた。
純粋にパーティーを楽しむ者もいれば自らの権力をひけらかす者もいる。そしてそんな者達とのパイプを作ろうとする者まで、様々な思惑が渦巻いている。
そんな中ザクスが静かにグラスを傾けていた時だった。
「お久し振りです、グルーバー大尉。こんな所におられましたか」
そう言って恰幅のいい紳士が歩み寄って来る。
誰だ――?
ザクスはにこやかに握手を求めてくる中年紳士を見て、記憶を探りながらそれに応じる。
するとその紳士の手招きに応じ、奥から二十代前半と思われる女性が優雅に歩いて来る。
「いやぁ実はこの子、ウチの娘なんですがこのような場に慣れてなくて浮いてしまってまして、もし宜しければ話し相手にでもなってやってくれませんか?」
そう言って紹介された女性は綺麗に着飾られた淡いピンクのドレスを纏い、にこやかな笑顔を見せ丁寧に一礼する。その所作や先程の振る舞い等を見てもとても慣れてないとは思えなかった。
「いやぁ、自分のような者がこんなに綺麗なお嬢さんの相手など務まるとは……」
ザクスが謙遜しながら、なんとか角が立たないように断ろうとしたが、更に別の声が割り込んだ。
「あら、ザクス大尉お久し振りです。私の事、覚えていらっしゃいますよね?」
ザクスが視線を移すとそこには緑のドレスを身にまとい、茶色い巻き髪をアップした細身の女性が立っていた。
きつい目つきに濃いめの化粧を施したその女性は、すぐに自らの胸を押し当てるように腕を組んでくる。
女性はルカニード国内でも有数の大企業の社長令嬢であり、以前からザクスとの距離を詰めようと事ある毎に自分の存在をアピールして来ていた。
「あら、先程は別の方と楽しそうにしておられたのによろしいんですか?」
「私は以前からザクス大尉とは約束がありまして――」
女性同士の静かで激しい戦いに挟まれるザクスは、困惑しながら傍らに立つリオに視線を送る。
しかしリオは笑みを浮かべながら綺麗な敬礼をして見せた。
「では大尉、私は壁際で一人大人しくしてますので」
そう告げると一人歩いて行く。
「……おい、助けろ」
ザクスが声をひそめて助けを乞うがリオは僅かに振り返り口角を上げると、小さく舌をちょろっと出し、そのまま歩いて行った。




