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記念式典


 セシルとの意図しない出会いから二週間が経ち、記念式典当日を迎えたルカニード王国の街は、祝祭のざわめきに包まれていた。

 ザクスはルカニード軍本部にある自身の部屋で椅子に座り遠くを見つめながら珈琲を口に運ぶ。


「あら、どうしました?壁に何か付いてますか?」


 横にリオが来て皮肉めいた冗談を口にするがザクスは僅かに苦笑し、再び遠い目をした。


「我慢すればいいと言ったものの、いざその時が迫ると憂鬱にもなるな」


「ご自身で言ったんですからね」


「分かってるさ。だから我慢して耐えるだけだ」


 憂鬱そうにため息をつくザクスを見つめ、リオが微笑む。


「我慢して耐える。……立派ですがいつまでそうして耐え続けるんですか?」


 皮肉めいたリオの問い掛けに彼女の本心も見え隠れする。だがそれに気付かないふりをしてリオの視線を外した。

 

 だがリオは今回は許してくれなかった。


「……ふぅ、大尉。失礼します」

 

 彼女は正面に立つと、まっすぐ見据えてくる。


 そこにはいつもの人を食ったような笑みはなく、真剣な眼差しを向けていた。

 自然とザクスもリオと向き合う。


「私達は大尉が歩まれる道をついて行くつもりです。それが茨の道でも、道無き道でもです。ですが大尉が歩き出してくれなければ私達はどうしようもありません……貴方はずっと立ち止まっているんです。貴方がどんな目に遭ったか私は近くで見てきました。辛いのは分かってるつもりです。ですがあの戦争で悲劇を味わったのは貴方だけじゃないって事も分かって下さい。私だって……そろそろ新たな道を歩き出しませんか?……少佐」


 リオは時折唇を噛むような仕草も見せながら、最後は綺麗な敬礼をしたまま優しい笑みを浮かべていた。


「……リオ、いつもすまない。言いたい事は分かる。少しだけ一人にしてくれないか」


 ザクスはそう言って椅子にもたれ掛かる様に天井を見上げる。


 リオは黙って一礼すると背を向け、静かに部屋を後にした。


 部屋を出たリオは誰もいない廊下を一人静かに歩き拳を握り締める。

 そして耐え切れずに突然壁を叩いた。

 誰もいない廊下に鈍い音が響き渡る。


「本当は言いたくなかったんですよ。でもこれ以上見たくはなかったんです。悲劇のヒロインを気取る貴方を」


 震えるようなリオの呟きは、誰もいない静かな空気に溶けて消えた。

 微かに痛みが残る拳を見つめ、一息つく。


「……ふぅ。ちょっとらしくなかったかな……」


 リオは髪をかき上げ、いつも通りの笑顔を浮かべると、ゆっくりと歩き出した。


――

 やがて記念式典は始まり各国の軍事パレードをテレビが伝えていた。


『ここルカニード王国では現在メインストリートでルカニード軍を先頭に世界連合混合軍やラフィン共和国の軍まで一緒になり合同軍事パレードを行っております。正に世界的祭典と呼ぶに相応しい光景となっており……』


 ザクスの部屋でもテレビからの中継は流れており、その様子を眺めていた。

 ザクスは記念式典への出席は求められたが軍事パレードへの参加は「技術士官が現場の兵を差し置いてパレードに出席するのはおかしいのでは」と言って拒否していた。


 実際パレードは各国の精鋭達が参加しており、どの国々も一糸乱れぬ素晴らしい行進を見せていた。


「見知った顔はいませんね」


 後ろから響いた声にザクスが振り返ると、そこにはいつも通りの笑みを浮かべたリオが立っていた。


「ノックぐらいしてくれ、驚くだろ」


「すいません。でもノックしたって返事してくれないじゃないですか」


 リオの言葉にザクスは言葉を返さず、僅かに口角だけを上げる。

 テレビではラフィン共和国の軍が行進していた。


「……ヴェルザードやエルザはさすがにパレードには参加してないな」


「参加するなら連絡ぐらいは来ます。だってあのヴェルザード大尉ですよ……貴方がここにいる事は皆わかってるんですから、彼らが参加出来るはずがないでしょう」


 リオが苦笑いを浮かべてそう言った時、テレビはセントラルボーデン軍を映し出す。


『今セントラルボーデン軍のルーシェル・ハイトマン元帥が姿を見せました。にこやかな表情をされています。その佇まいからは洗練された物を感じます』


 その光景を見ていたザクスとリオだったが一瞬固まり、食い入るようにテレビに近付く。


「おい、この子……」


 そこには群衆ににこやかに手を振るルーシェル元帥の横で、凛とした姿で立つセシルも映り込んでいた。


 二人して息を飲み、顔を見合わせた。


「これも巡り合わせでは?」


「……どんな巡り合わせだよ……」


 リオの問い掛けにザクスは深いため息で返した。

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