長老会②
「そ、そんな訳が……私がそんな事を……!」
「おや、そうか?」
長老の声が、嘲笑に変わる。
「不思議なことに、貴様の支援者たちはその日全員、パーティーを欠席していた。あの襲撃を避けるように見事にな」
「そ、そんな……本当にそんなの偶然でして……」
「我々の見立てでは、貴様はテロリストの後にいた人物からクリスタルを利用したバトルスーツの情報を貰う代わりに我が国の有力者約百名を生け贄に捧げた。しかもそれでライバル関係だったウー将軍の力が衰えるのだから貴様は一人勝ちといった所か。実に美しい筋書きだな。さぁ後の弁明は取り調べ室でしろ……衛兵!! ジョン・ハワード将軍をすぐにでもお連れしろ」
合図と共に衛兵がなだれ込み、即ジョン・ハワード将軍を拘束すると部屋の外へと連行して行った。
「ち、違う!話を……私は――」
狼狽するジョン将軍が叫び続けていたが、誰もそんな言葉に耳を傾ける者などいるはずもない。
「さて。これで“悪”は一掃された。元帥の任命についてだが、我々はルーシェル・ハイトマン将軍を推挙する」
長老達の声を聞き、ルーシェル将軍は静かに頭を垂れた。
「……身に余る光栄です。世界の平和の為、謹んで拝命いたします」
「異論はありません」
ウー将軍も静かに頷く。
「よろしい。では今後、セントラルボーデン軍はルーシェル元帥の指揮のもと、再編を進めよ」
二人の将軍は素直に頷くとベールの向こうにいる長老達に深々と頭を下げる。
その後二人の将軍は部屋を後にすると、それぞれの部屋へと戻って行く。
――
「お疲れ様でした。どうでした?」
ルーシェル元帥が部屋に戻ると秘書官のマリオン・グラッチが迎える。
「うむ……ジョンの奴が拘束されたよ」
「そんな、まさか……」
ルーシェル元帥が眉間に皺を寄せて難しい顔をして伝えるとマリオンは一瞬だけ口に手を当て驚いた様子を見せる。
「……まさかそんなに上手くいくとは」
マリオンが笑みを見せ問い掛けるとルーシェル元帥は何も言わず片方の口角を上げ頷いた。
「それでジョンの秘書官はどうなった?彼女本人が出て来ると少々厄介だが?」
「彼女は行方不明のままになるでしょう。テロリストの獣人達が派手に暴れてくれたおかげで死体安置所は今もパンク状態です。バラバラの死体が一人分増えたぐらいでは誰も気付かないでしょう」
「ふっふっふ、確かにそうだな……これで秘書官とテロリストどもが《《繋がっていなかった》》と証言できる者はいなくなった訳だな」
「はい。後は残したメモや状況証拠等からジョン・ハワード将軍の陰謀説が勝手に出来上がっていくでしょう」
ルーシェル元帥が椅子に座り優雅に葉巻を咥えて火をつけ、狡猾な笑みを浮かべる。マリオンは傍らに立ち、冷ややかな笑みを見せていた。
「あとはカストロ中隊だな」
「えぇ、もちろん全員何も知らされてないようですが……どうされますか?処分しようと思えば出来ますが」
「カストロ隊長を拘束し、ジョンから何か聞いてないか調べるか。こちらにとって不都合がなければ互いに良いのだがな。隊は解散させるか。隊員どもは放っておけ。……これから世界を動かすのだ。取るに足らん駒どもだ、どうでもいい」
「承知しました」
二人は静かに、グラスを合わせた。
音もなく響く乾杯の音が、夜の闇に溶けていく。
この日、セントラルボーデン軍はひとりの男の手に落ちた。
やがて数ヶ月後、その軍は新たな旗を掲げ、進軍を開始する。
世界の均衡を壊す、最初の一歩として。




