新兵器③
「え? 何がわからないの? 簡単よ。こうやって、えいや!ってやるの」
セシルが右手を振ると、一陣の風が起こり、地面に小さな引っ掻き跡を残す。
「いや、わかんねぇって……もっと、こう、コツみたいなのはないのか?」
「コツって言ってもねぇ……私、物心ついた時から普通に出来たからさぁ。天才故に、凡人に教えるのは難しいわぁ」
ジョシュアが大げさな身振りで訴えるが、セシルは首を振り、口角をわずかに上げてため息をつく。
その二人の様子に、アデルは焦っていた。せっかくの試作品が、このままでは成功しているのか失敗しているのかもわからない。
「セシル、頼むよ。お前は天才だから詠唱を省略して魔法を使えるかもしれない。でも本来、詠唱は魔法をイメージしやすくするためのものだろ? だからジョシュアにも、その辺から教えてほしいんだ」
アデルは必死にセシルを持ち上げ、指導を引き出そうとする。
「なるほど……確かにそうね。アデル、あなた中々わかってるじゃない」
セシルが満面の笑みを見せると、ジョシュアは安堵のため息をつく。
「ジョシュア、まずはイメージよ。風を身に纏う感じを思い浮かべて。それから、腕を振ってつむじ風を起こすイメージを持つの」
セシルの具体的な指示に従い、ジョシュアは腕を振る。すると微かな風が呼応するように起こった。
「あら、そよ風程度だけど起こせるようになったわね。あとはもっと集中して、精度と威力を上げるのよ」
セシルの顔も僅かにほころぶ。
その後何度か挑戦するうちに、ジョシュアもコツを掴んだのか、的としている木を揺らす程の風なら起こせるようになっていた。
「集中……よし、次はあそこにある木を倒すイメージで……」
ジョシュアは木を見据え、手をかざし、意識を集中させる。
一陣の風が吹き、やがてそれは轟音を立てて竜巻へと変化する。うねりを上げ木を飲み込み、竜巻が消えると、そこには枝を失い、幹に無数の切り刻まれた痕が残された。
「……す、すげぇ。これが魔法の力か」
ジョシュアは木と自分の手を交互に見つめ、興奮を隠せない。
「何喜んでんのよ? 今みたいな竜巻なら、あの木くらい根こそぎ倒してほしかったわね」
セシルは笑みを浮かべつつ、鼻を高く上げてツンとした態度を取る。
「まぁまぁ、初日にしては順調じゃないか。ジョシュア、今の感覚を忘れるなよ」
アデルも笑みを浮かべ、努力を称える。
「よし、もう一度……ん?」
ジョシュアが勢いで魔法を放とうとしたが、今度は何も起こらなかった。先ほどの微風すら生じない。
「え?……なんでだ?」
「これは……」
アデルが背後に回り込み、ジョシュアのクリスタルを確認する。
「……やっぱり、魔力切れだ」
「魔力切れ?」
「そう。ここまで練習で何度も風を起こしてきただろ? 最後に竜巻までやったから、もう使い切ったんだ」
眉間に皺を寄せ、少し残念そうにアデルは告げた。
「あ、そうなのか。じゃあ……セシル、また魔力注いでくれ」
「はぁ!? 何簡単に言ってんのよ!私は充電器か何か?」
ジョシュアの軽いお願いに、セシルは大きな瞳を見開き、不快感を露にする。
「あ、いや、そんなつもりじゃ……」
「いや、まぁ、ジョシュアも悪気は無いんだから、そんな怒らなくても……」
「悪気がなくても、イラッとしたことには変わりないでしょ。だいたいアデルも自分のバトルスーツ試したいだけなんでしょ? 何で私が協力させられるのよ!」
セシルの怒声に、アデルとジョシュアはたじろぐ。
「いやあの……協力してくれてる事には本当に感謝してる。だから後少しだけ助けてくれ」
「……へぇ、なるほど。それでジョシュアは?」
アデルが低姿勢で頼み込むと、セシルは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「あ……た、頼むよ。セシルの協力が無いと、俺たち二人じゃどうしようもないんだ」
「ふん。初めからそれくらい敬ってくれたらいいわ。今日はもう一回ぐらいは協力してあげる」
セシルがクリスタルに手を当て、魔力を注ぐ。アデルは心の中でふと気付く――このスーツの弱点は、燃費や扱いやすさではなく、供給役のウィザードに頭を下げて頼み込む必要がある点だ、と。
後日、アデルが試作したクリスタル内蔵式バトルスーツは正式に承認され、そのバトルスーツの開発はジョシュアのいる技術開発局付き試作試験部隊、カストロ中隊の正式な任務となった。




