長老会
ジョン将軍を先頭に三人の将軍達は長老達が待つ最高のセキュリティレベルを誇る最奥の部屋へと入室して行く。
そこで待つのは五人の長老達。
薄いベールのような物で遮られ、その表情をうかがい知る事は出来ないが奥で悠々と鎮座している。
「お待たせいたしました」
将軍たちが声を揃えて頭を垂れると、長老の一人が低く笑った。
「ふ……よい。我々も今日は気分が良い」
低く落ち着いた声が響く。
「今回のテロ事件。百名近い犠牲者を出したにも関わらず、よくぞ抑え込んだ。迅速な対応、そして成果は称賛に値する」
長老の言葉にジョン将軍は満面の笑みを浮かべる。
しかし、その直後に続いた言葉が、空気を一変させた。
「だがお前の開発した新型バトルスーツ、どこからその技術を得た?という声が上がっておる。ジョン・ハワード、答えよ」
一瞬、部屋の温度が下がったように感じた。
ジョン将軍は一拍置き、ウー将軍を横目で睨みながら嘲笑うように口角を上げる。
「その件については……機密事項であります。長老会から明確にせよと命令があれば従います。ただ、魔法を軍の力に転用する。それこそが我が軍の未来。私は我がセントラルボーデン軍の戦力を上げる為に、クリスタル内蔵の新型バトルスーツの開発を進めてまいりました。結果を見て頂ければ、すべてご理解頂けるかと」
長老たちはしばし沈黙する。
やがて、一人がゆっくりと頷いた。
「なるほど、確かに結果は大事だ。そして我々も、次の段階に進む時が来たと考えておる。ゆえに、三人の将軍の中から一人を元帥に任命することにした」
その瞬間、静寂が訪れる。
ウー将軍は拳を握り締め、ルーシェル将軍は目を伏せる。
ジョン将軍は笑った。まるで運命が自分に微笑んだかのように。
だが、次の一言は予想外なものだった。
「そういえば、ジョン将軍。貴様の秘書官、実に優秀だったと聞くが、今はどこにいる?」
「ひ、秘書官ですか?え、ええ……今は休暇中で、代理の者が――」
「ああ、そうか。……残念だ。ぜひ話を聞きたかったのだがな」
長老の声が低く響き、微かに笑みを含む。それはまるで何かを知っているかのような含みを持っていた。
「さて今回の件。いくつかの謎が残っておる。まず、襲撃した獣人たちが、こちらの動きを完璧に把握していた点だ。報告では、現在調査中との事だがジョン・ハワード。お前の見解を聞こう」
重く沈んだ問いに、ジョン将軍は一瞬だけ目を伏せた。
だが、すぐに表情を整え、静かに答える。
「内部に協力者がいたのではないかと考えます」
その声は冷たく、どこか愉悦を含んでいた。
部屋の奥で、誰かがわずかに笑った気がした。
重苦しい沈黙の中、長老の一人が低く呟いた。
「なるほど。あれ程こちらの動きを正確に把握していたのだからそう考えるのがまぁ妥当だな」
長老の声は冷たく、淡々とした調子で続いた。
長老は静かに頷き、そして、声の調子を変えた。
「しかし内通者がいるとなれば我々としても放っておく訳にもいかぬ。そこで我々は徹底的に怪しい者を調べさせた。するとある人物が浮かんだのだが、そいつは行方をくらませおったのだ」
その言葉と同時に、背後の空気が変わったような気がした。
「な、なんと既に容疑者を特定してましたか。誰です?我々の知っている人物なのですか?」
ジョン将軍は少し戸惑いつつも冷静に尋ねる。
「もちろんだとも」
長老の声が急に鋭くなる。
「その名はメアリー・グラス。貴様の秘書官の名だジョン」
その瞬間、ジョン将軍の顔から血の気が引いた。
「な、何を馬鹿な……!」
「……“馬鹿な”、だと?」
ベールの向こうから、冷気のような声が返る。
「気を付けろ。長老会に対して無礼な言葉を吐くことは、命を賭して詫びる覚悟が必要だぞ」
「い、いや……今のは失言でした。取り消させていただきます。だが、彼女がそんな……そんな裏切りをする理由など――」
「理由、か。確かに興味深いな」
長老は楽しむように笑った。
「たとえば、自分の上司のライバル達を賊の手で始末できるとしたら?そして、その混乱の中で上司が頂点に立てるとしたら?」
「ジョン、貴様……本当か!」
堪えきれず、ウー将軍が立ち上がる。
「ウー将軍、落ち着け!」
ルーシェル将軍が間に入り、宥める。だが、彼自身の表情もまた冷ややかだった。




