紅蓮の蹂躙
本隊が待機している場所を目指してジョシュア達が車に揺られていると、前方の空に立ち上る黒煙が目に入った。
「あれは?」
思わずジョシュアが呟き、車内にも緊張が走る。
するとカストロの声が低く響いた。
「全員、気を引き締めろ。様々な状況を照らし合わせて本隊に何らかの異常事態が訪れていると思われる」
隊員達は静かに息を飲み、張り詰めた空気が全体を支配する。
車内で座る隊員一人一人の顔にも疲労が色濃く滲んでいた。誰も口を開かず、重い空気が漂う。
ジョシュアも重い空気に押し潰されそうになりながら思慮を巡らせていた。すると横に座るマーカスが軽くジョシュアの肩を叩く。
「あまり深刻に考えるなよ。本隊も戦闘中だから連絡が取れないだけさ。だってゲルト少佐率いる魔法兵団にあのスティーブン中隊も待機してるんだぜ」
そう言って明るく笑うマーカスに、ジョシュアも笑って答える。
「確かに。俺達が戻ったら『何しに戻った?』とか言ってゲルト少佐に怒られるかも」
ジョシュアとマーカスの軽口で、車内の空気が幾分か和んだ。
実際本隊で待機しているのはゲルト少佐が率いる魔法兵団の小隊だけではなく、三年前のラフィン戦争を生き抜き、高い戦果をあげた歴戦の勇士達から成る精鋭部隊、スティーブン中隊も控えていた。
そんな精鋭部隊がいるんだ、問題があるはずがない――。
ジョシュアはそう自分に言い聞かせていた。
しかし本隊が待機していた場所が近付くにつれ、抱いていた不安が現実のものとなっていく。
遠くから銃声が響き、爆発音が轟く。
車窓からは炎に包まれた移動式基地が目に付いた。
「……そんな……」
車内に誰かの絶望にも似た、悲痛な呟きが静かに響く。
「全員気合いを入れろ。出撃だ」
車両を止め、カストロが号令をかけると、車内から次々に隊員達が飛び出して行く。
無論、ジョシュアも銃を握り締め車外に飛び出すと、体勢を低く構え、周りを見渡す。
焼け焦げた匂いと硝煙の匂いが鼻につき、遠くで響く銃声に、誰かの悲鳴と叫びが混ざり合う。
ガルフ達と対峙していた時とはまた違う緊張がジョシュアを襲っていた。
「……これが戦場」
静かに呟くジョシュアにマーカスがそっと近付き、肩に手をかける。
「いいか?落ち着けよ、神経を集中させろ。周りを見るんだ。俺とお前、普段通りの実力出せば簡単にやられる訳がない」
そう言って笑みを浮かべるマーカスを見て、ジョシュアもまた笑みを浮かべた。
その時、遠方で巨大な火柱が上がった。
それは自然に上がるような物ではなく、明らかに魔法による物だった。
ジョシュア達が注意深くその火柱を見つめていると、火柱は徐々に変化していき、やがてそれは巨大な火竜へと変化していった。
「な、なんだよありゃ……」
隣に立つマーカスはそう口にすると、呆然と立ち尽くしていた。
だがジョシュアは意を決したかのように、その火竜に向かって駆け出して行く。
その火竜が放つ圧倒的威圧感と禍々しさを感じ取り、ジョシュアはそれが敵であると判断した。
やがてジョシュアが駆けつけると、目の前に広がる光景に凍りついた。
ジョシュアの目の前ではゲルト少佐が片膝をつき、既に左腕を失い、半身を鮮血で赤く染め肩で息をしていた。
ゲルト少佐の視線の先には燃え盛る火竜がいた。
その火竜はまるで意志を持っているかのように大きな口を開けて威嚇しているようだった。
その火竜の傍らには仮面を付けた男が立っていた。
男の身長はやや低くく、黒くゆったりとした服ではっきりとはわからなかったが、袖口からのぞく腕等から推測しても細身であり、口から上の部分を仮面で被っていた。
そのあらわになっている口元は嘲るように口角を釣り上げている。
「なんだ?まだいるのか?」
男が見下したように笑って言うと、ジョシュアは剣を握り締める。
「てめぇが親玉だな?」
ジョシュアの言葉に男は声を上げて笑う。
「はっはっは。古臭いセリフだな。ああそうだ。俺がアナベル。シャリアの生まれ変わりにして世界を焼き尽くす者だ」
「何がシャリアだ、ふざけるなよ」
ジョシュアが声を張り上げるが、アナベルは微動だにせず、余裕のある笑みを浮かべて立っていた。




