ガルフ・シュタット②
ある日、ガルフが仲間たちと食事をしていると、敵対するギャング団が総攻撃を仕掛けてくる。
「ガルフさん、このままじゃ……」
「数が多すぎます、ガルフさん!」
鉄製のテーブルを盾に、仲間たちは必死に告げる。ガルフは静かにうなずいた。
「……いいか、ミアにはよく言っておけ。後は頼んだ」
そして、ガルフは咆哮と共に人狼へと変身する。圧倒的な力で敵を蹂躙し、恐怖で戦意を喪失させた。その姿は伝説の怪物の如く、死体の山の中に立ち尽くしていた。
「結局、最後はこうなるか……」
化け物として恐れられ、また一人になる覚悟をしていたガルフが少し寂しげに呟く。だが仲間達は羨望の眼差しで見つめており、この時ばかりはガルフも戸惑いを見せる。
結局人狼の姿であろうと仲間にとってガルフはリーダーであり、そんな仲間達はガルフにとって守るべき存在だった。
結局ガルフはサウロという街を拠点にし勢力を拡大し続けていく。そんなガルフの前にある男が現れる。
「ここのリーダーは貴方ですか?」
長身で気品あるスーツ姿の男。荒くれ者たちの前でも自信に満ちた振る舞いから、只者ではない事はすぐにわかった。
「ああ、そうだ。お前は?」
「私はバロンです。よろしければ裏で話を――」
ガルフは笑みを浮かべ、席を立った。バロンの正体には気付かないが、どこか同族めいた気配を感じていた。それはライカンスロープ同士の共感だったのかもしれない。
バロンと共に人目の少ない場所へ移動したガルフは、まだ警戒を解けずにいた。
「一体何の用だ?てめぇは誰だ?」
「先程も申したでしょう、私はバロン。話すより、こうした方が早いですかね」
そう言い、バロンは人虎へと姿を変えた。ガルフは驚くこともなく、自ら人狼へと変身する。
「はっはっは、虎かよ。なるほど同族ってわけか。それで、何の用だ?」
「ふっふっふ、噂通り人狼でしたか」
バロンは、先日壊滅させたギャング団から広まった「ガルフが人狼」という噂を説明した。
「まぁ、俺は噂がどう広がろうと気にしちゃいないがな」
両手を広げ、ガルフは意に介さず笑った。
「……そうですか。では、我々ライカンスロープの秘密を教えましょう」
「秘密だと……?」
先程まで余裕を見せていたガルフの表情が、一転して怪訝なものになる。
「はい。実は我々ライカンスロープはそもそも――」
「──マジかよ……」
バロンの告げる衝撃の事実に、ガルフは困惑の色を隠せなかった。
「だから、噂が広がれば中央政府から狙われるかもしれない。……同族として忠告に参ったまでです」
ガルフは思案した。自分一人なら何とかなるが、仲間やミアを巻き込みたくはない。
「……はっはっは、ここに来てアイツらが重荷になるか。……一人の方が楽だったか。いや、今更考えても仕方ねぇな」
結局、ガルフはミアと子供を中立国である隣国ルカニード王国にある、はずれの街に避難させることにした。
「なんで行かなきゃいけないの?あんたがいれば大丈夫でしょ?」
「念のためだ。すぐに迎えに行く」
その後ミアの提案で、親子三人で写真を撮りに行き、その後潜伏させることにした。
「ふん、家族写真か……ガラでもねぇな」
ミアをルカニードに残し、帰りの車内で一人そう呟くガルフの顔はどこか晴れやかだった。しかし苦笑いするガルフの電話が突然鳴り響く。
「おお、俺だ。どうした!?」
「ガルフさん!!帰って来ちゃ駄目だ!!そのままミアと――」
電話の向こうからは仲間の声は焦燥に満ち、激しい銃声と爆発、悲鳴が背景で聞こえてくる。
通話は途切れ、何度呼びかけてもその後応答はなかった。
サウロの街に戻ったガルフの目に飛び込んだのは、炎と煙、銃声と爆発音が交錯する惨状だった。
「ふ、ふざけるな……なんだこれは」
恐怖、驚愕、怒り――全てが入り混じる中、ガルフは走り出した。
アイツらはどうなった?無事か――?
瓦礫に埋もれた町のメインストリートをかき分け、アジトに向かう。しかしそこにあったのは瓦礫と、横たわる仲間達の遺体だった。
「ふん。ようやく登場か。お前がいないせいで随分と被害が拡大したぞ」
軍の指揮官らしき男が、ニヤつきながら血の臭いが立ち込める瓦礫の中に立っていた。
「……てめぇら……俺達だってここまではしねぇぞ」
怒りに満ちたガルフは、怒涛の如く人狼へと変身。血に染まりながら、一人一人敵を血祭りにあげていく。
その後、森の中で目を覚ましたガルフは全身に激痛を感じ、動けずに倒れる。
「ようやく気が付きましたか」
バロンが静かに立ち、腕を組んでこちらを見ていた。
「……どうなってる?」
「貴方はあの人数を相手に大乱戦を繰り広げました。最後は力尽きましたが、ギリギリ助け出しました」
「クソっ……まだ足りねえ。暴れ足りねえぞ!!」
ガルフは片手で顔を覆い、もう一方で地面を何度も殴る。
「ええ、わかりますよ。奴らは調子に乗り過ぎですね。手伝いましょうか?」
バロンは静かに手を差し出し、ガルフは何も言わずその手をがっちりと握り返した。
その日、一つの町が消滅し、一つの反抗勢力が生まれた。




