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激突④


「マーカス! 援護して!」

 

 セシルが後方へ大きく跳躍しながら叫ぶ。


「り、了解!!」

 

 突然の呼びかけにマーカスは一瞬戸惑うも、すぐに銃を構え引き金を引いた。


「だからそんな物は効かねえんだよ!」

 

 距離はあるが、サミュエルがマーカスに向かって叫ぶ。無論マーカスもわかっていた。しかし、援護を要請された今、できることは銃で援護射撃することくらいしかない。


「じゃあコレは?」

 

 距離を取り、セシルがニヤリと口角を上げ呟くと、周囲の風が舞い踊る。


風の切裂き魔(ウィンドリッパー)

 

 セシルを取り巻く風が、砂埃を巻き上げながらカマイタチの如く幾重にもなりサミュエルを襲った。


「くっ!」

 

 サミュエルは咄嗟に首をすくめ、腕を交差させ防御体勢を取った。鋭い風刃が次々と鱗を刻み、血飛沫が舞う。


 やがて風が止むと、全身に切傷を負いながらも立ち尽くすサミュエルがいた。


「耐えたぞ、小娘」

 

 サミュエルは至る所に血を滲ませながらも、致命傷には至っておらず、鋭い視線を向けていた。


 しかし、サミュエルが防御を解いた瞬間、足元に手投げ弾が転がっている事に気付き、驚愕の表情を浮かべた。


「……しまっ──」

 

 その瞬間叫ぶ間もなく、手投げ弾が轟音を上げて爆発した。爆風と爆音、巻き上がる砂埃が辺りを覆う。至近距離で巻き込まれたサミュエルは遺跡の壁まで吹き飛ばされた。


「クソが……」

 

 吐き捨てるように叫ぶサミュエル。その隙を見逃すはずもなく、セシルは一気に懐に潜り込んでいた。


 剣に風を纏わせ、己の身体とともにサミュエルに突き立てる。


「ぐはっ……」

 

 胸を貫く剣。だかサミュエルの目は光を失ってはいなかった。セシルを睨むその目が、怒りと冷静さを同時に宿す。

 セシルはすぐに剣を引き抜き距離を取ろうとした。だがサミュエルの体に深く突き刺さった剣は抜く事が出来ず、セシルの動きが一瞬固まる。


「……!!」

「セシルちゃん!」

 マーカスが叫ぶ。


 その瞬間、鈍い衝撃音とともにセシルの華奢な身体が吹き飛ばされ、十数メートル先まで転がる。


「やっと捉えたぜ……ははは……」

 

 胸に残された刺さった剣を引き抜き、尻尾を振るサミュエルが笑う。


 剣を突き立てた際、セシルは相手の手足や顔の位置を把握し、反撃に備えていた。しかし尻尾を失念しており、一瞬判断が遅れ攻撃を完全に避けることはできなかった。尻尾の一撃から咄嗟に右腕を間に入れて衝撃を多少和らげるのが精一杯だった。


「……はぁ、はぁ……駄目、右腕は折れた。あばらもやばいか……」

 

 右腕は動かす事も出来ず、全身に激痛が走る。そんな中でも、上体を起こし冷静に身体を確認する。

 

「ははは……辛そうだな、小娘。さぁ楽にしてやろうか」

 

 サミュエルがにじり寄る。右腕を押さえ俯くセシルに迫るが、その足取りも重く、サミュエルも大きなダメージを受けていることは明白だった。


「小娘って、成人してるレディに失礼ね……あとさっきのセリフ、完全に殺られる奴のセリフよ」

 

 セシルはウィンクして笑う。


 気配を察したサミュエルが振り向くと、そこにはマーカスが迫っていた。右腕を振り回すサミュエルを、マーカスは素早くしゃがんで躱す。


「その尻尾よね?私を弾き飛ばしたの?刻め『風の切り裂き魔(ウィンドリッパー)』」

 

 背後に迫ったマーカスに振り向き、背を向けたサミュエル。セシルは冷たい目で呟き、放った風の刃でその尻尾を両断する。


「ぐあぁぁぁぁ!!」

 

 サミュエルが叫ぶ一方、セシルは冷淡な笑みを浮かべた。


「もう終われよ、トカゲ野郎」

 

 マーカスはサミュエルの懐に潜り込むと手投げ弾を胸の傷口にねじ込む。それを見て二人は距離を取った。

 必死にもがくサミュエルだったが爆発に間に合わず、血煙と肉片が飛散する。砂埃が晴れるとそこにはサミュエルの両足だけが立ったまま残されていた。


「大丈夫か、セシルちゃん?」

 

 マーカスが駆け寄る。


「まぁ大丈夫よ。それよりジョシュアが心配。クリスタルに魔力込めるから援護して来て。私は少し休んだらすぐ行くから」

 

 肩で息をするセシルの顔には汗が吹き出ていたが、笑顔を作っていた。


「岩陰に座って休んでろよ。ヒヨっ子助けたらすぐ戻ってくるから」

 

 マーカスは親指を立て駆け出していく。


「ははは……リザードマン相手に泥仕合してたくせによく言うわね」

 

 セシルは岩陰に身を潜め、痛む脇腹の治療を始める。


 なんでこんな所で痛い思いしながら……治癒魔法使えたら良かったのになぁ。服も早く着なきゃ、こんな無様な姿、誰かに見られたくないもんね――。


 セシルは無事な左手一本で軍服を着ながら、力尽きるように岩陰に倒れ込んだ。

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