潜入⑤
「ひとまずカストロ中隊長に報告しましょう」
声を潜めてボーラがバスケスに指示するがバスケスは戸惑いの表情を浮かべる。
「ボーラ、まずい。地下だから隊長たちに連絡が繋がらない」
バスケスが持っていた通信機器の電源を幾度となく押すが、何度やっても外部と繋がる事はなく、焦りの表情を見せる。
「冗談でしょ?」
ボーラが聞き返すが、その時一人の男が声を上げた。
「おい、あそこ!誰かいるぞ!」
「捕らえなさい!」
ローブの女が叫ぶと、信者たちが一斉に走り出す。
「バスケス!あなただけでも地上に出て!」
「なんで俺一人なんだ!」
当然のようにバスケスが声を上げるが、ボーラはその鋭い瞳を更に尖らせ、バスケスを見つめる。
「あなた一人の方が速いでしょ!ここで二人とも捕まったら作戦は失敗よ」
「了解。ただし無理はするなよボーラ」
「これは作戦。必ず成功させる」
ボーラの覚悟を汲み軽く拳同士を合わせると、バスケスは駆け出して行く。
ボーラは振り返り、迫る信者達を見つめた。
「さすがに一般人を手にかけたくはないわね。上手く加減出来るかしら?『立ち上がれ、炎の壁』」
ボーラが唱えると炎の壁が立ち上がり、信者達の行く手を阻んだ。
「時間稼ぎさせてもらうわ」
ボーラも踵を返し走り出した。
その瞬間だった。
「油断したなウィザード」
背後から声に振り返ると、無精髭の男がすぐ後ろに迫っていた。
「いつの間に……」
ボーラが構えるより一瞬早く男の銃口がボーラを捉え、洞窟内に銃声が響き渡る。
咄嗟に身を翻し火球で反撃するが、即席攻撃では威力は限定的だった。火球は男の顔を包んだが、僅かに怯ませる程度ですぐに消えてしまった。
「女!どこに行った!」
男はボーラを見失い激昂し叫んでいた。
その一瞬の隙にボーラは岩陰に身を潜める。脇腹に手をやると、血がべっとりと付いていた。
「はあ、はあ……」
ボーラの呼吸は荒くなり、脂汗が吹き出てくる。
「辛そうじゃねえか」
気付くと男がボーラの前に立ち、勝ち誇ったように笑う。
「ほっといても死にそうだから、そっとしといて」
「背の高い女は好みでな。楽しませてもらおうか」
そう言って男が卑劣な笑みを浮かべ一歩踏み出した瞬間、男の足元に魔法陣が浮かび上がり、炎が男を包んだ。
「ぎゃああああ」
男は火だるまになり地面を転げ回り、醜い悲鳴がこだまする。
「くだらないこと考えるから。私、罠魔法の方が得意なのよ」
ボーラは笑みを浮かべたが、額から噴き出す汗が止まらず、滴り落ちる。
「こんな所で何やってるんだろう……地下を這いずり回って。こんなんだから階級も上がらないのかな」
立ち上がったが脇腹からの出血は止まらず、足元は定まらないままふらついていた。
「いたぞ!侵入者だ!」
意識が遠のく中、無数の信者たちの声が聞こえた。
「こんな最後って……せめてもう一回旅行でも行きたかったな」
苦笑いを浮かべながら岩に身を預け、慣れない銃を構える。
その時、傍らから静かな声が割り込んだ。
「旅行なら作戦が終わったら行こう。俺、行きたい所があるんだ」
突然の声に驚くと、ふらつくボーラを支えるように、バスケスが横から抱きかかえた。
「……何よ。人の独り言、勝手に聞かないでくれる?」
「聞こえたんだから仕方ないだろ。もう少し我慢してくれ」
バスケスはボーラを抱き上げ、追手を振り切るように駆け出した。




