潜入③
夜になり、カストロ中隊は作戦通り通信担当の者を残していくつかの車両に分乗し遺跡へと出発する。
「よし、いいか?こっちのグループのリーダーは俺だ。現地で何か起こった場合は、俺の指示に従えよ」
車内でマーカスが皆に指示を出す。
戦闘力ではジョシュアやセシルの方が上かもしれないが、新人のジョシュアは実戦経験が乏しく、セシルも本来は隊員ではない。そこで試作型バトルスーツを身に纏い、豊富な実戦経験を持つマーカスがこの隊を率いることになったのだ。
「じゃあマーカス隊長、よろしくお願いしますね。私に何かあったら助けてくださいよ」
「当然だ。危なくなったら俺の後に来い、何があっても俺が守るぜ」
セシルが上目遣いで分かりやすく甘い声でマーカスにお願いすると、マーカスは得意げに笑う。二人のやり取りを、隊員たちは抑えきれない笑いとともに見守った。
やがて車両は続々と街の東、森の入口に到着した。
「ようし、ここからは徒歩だ。隊列を乱すな」
カストロが見渡し全員に指示を出す。
各小隊が固まりながら歩みを進めて行く。
そうして暫く森の中を進むと、木々が途切れ、少し開けた場所に出た。正面には石製の階段があり、奥には古びた建造物の影が見える。
「どうやらここが噂の遺跡のようだな。思ったより古そうだ」
カストロが周囲を見渡しながら呟く。
「旧暦でも古い部類に入る遺跡ね。それに思ったより広そう……で、この先どうするの?私に考古学はわからないわよ」
セシルが笑みを浮かべながら腰に手を当て尋ねると、カストロは顎髭をさすりながら小さく唸った。
「うむ、想像以上に広いな。仕方ない手分けして探索しよう」
カストロの指示の元、数名ずつに分かれて遺跡内を探ることになった。
しばらく探索を続けたセシルとマーカスは、屋根のない開けた場所に出た。
「……ねぇマーカス。なんか星空が綺麗な場所に出たけど、ロマンチックな演出かしら?」
「いやぁセシルちゃん、こんなロマンチックな場所で二人きりになれるなんて素敵だなぁ」
マーカスが頭に手をやりながら笑う。
「ふふふ、本当ね……でも残念、二人きりじゃないみたいよ」
セシルは周囲に鋭い視線を配りながら、笑みを浮かべる。
「え?何だ?どういうことだ?」
慌てて周囲を警戒するマーカス。
すると物陰から、サングラスに派手なアロハシャツ姿の男が姿を現す。
「はっはっは、勘がいいじゃねぇかお嬢ちゃん。気配は消してたつもりだったんだけどな。ところで、かなりの上玉だ。どうだい?俺の妾にならないか?」
「あはは、面白い冗談ね。残念ながら貴方は好みじゃないわ」
セシルは冷たい笑みを浮かべ、挑発する。
「そうかい。お前みたいな気の強い女を服従させてみてぇな。気が変わったら言えよ。死ぬ前にな」
男は言い終えると、人狼の姿へと変身する。横にいた者も虎の頭をした人虎へと変化する。
「じ、人狼!?それに人虎まで!?」
マーカスが二体の怪物を前に言葉を失い、後ずさりする。
「あら、獣風情が私を好きにしようっての?本当に冗談じゃないわ……躾がなってないワンコね」
セシルは腕を組み、不敵な笑みを浮かべていた。
「おいおい、ガルフよ。すげぇ言われようじゃねぇか」
さらに後方から低い声が響き、闇の中からトカゲの姿をしたリザードマンが現れる。
「ちょっとちょっと、ここって何?動物園?アナベルってサーカスでも開くつもり?」
次々と姿を現す怪物たちに言葉を失うマーカスに対し、セシルは笑みを浮かべ、挑発の声を重ねる。
「はっはっは、いつまでその強気が続くかな。服従させた時が楽しみだぜ」
「ふふふ、来なよワンコども。私がきっちり躾てあげる」
大きな口を開け、下卑た笑いをするガルフ。指をクイクイと曲げ、挑発するセシル。
遺跡の闇の中、一触即発の緊張が辺りを支配する。




