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潜入②


 ジョン将軍からバレスタ潜入を言い渡されて数日後、カストロ中隊は作戦通りバレスタに到着していた。


「さてと……まずは街の様子を確認する。目立つ行動はするなよ」


 カストロが低く釘を刺す。


「了解です。まずは情報収集に徹します」


 ジョシュアが頷き、仲間たちも静かに街へ歩を進めた。


 そのとき、後ろから声が響いた。

 

「お、お姉さん、めちゃくちゃ可愛いねぇ。観光か?」


 振り返ると、セシルが地元の男に声をかけられていた。眉をひそめたセシルは不快感をあらわにする。


「え、ああ、よく言われる台詞ね。悪いけど今は忙しいから残念」

 

「なんだよ、高慢な女だなぁ」

 

「もう少しマシな捨て台詞はないの?」


 男たちが苛立ちを募らせる中、セシルの足元で不自然に風が吹き、砂塵が舞い始めた。片方の口角を上げ、冷淡な笑みを浮かべ、ブロンドの髪をなびかせて立つセシルの姿はさながら魔女のようだった。


「こ、こいつ……まさかウィザードか!?」


 男たちは驚き、たまらず走り去る。


「ふん……最後までくだらない奴らね」

 

「いや、ちょっと待て、一般人に魔法使うなよ!」

 

 ジョシュアが慌てて声をかけるが、セシルは冷ややかな視線を送る。


「冗談よ。威嚇しただけ。ああいう浮ついた男は趣味じゃないの」


 ジョシュアは頭を抱えるしかなかった。


 更に日差しの強い街に嫌気が差したボーラは、黒い長袖にサングラス、フェイスベールと完全防備で愚痴をこぼす。

 

「日が落ちるまで宿で休まない?日焼けしたらどうするのよ」


 結局、どうしても目立つセシルとボーラをバスケスが拠点のモーテルまで送ることで、ひとまず落ち着いた。


 その後、中隊は街を手分けして情報収集を進めて行く。


 やがて日が落ちると手分けして情報収集をしていたカストロ中隊の面々も、続々と拠点のモーテルへと帰ってきた。今回、カストロ中隊は街にある一軒のモーテルを丸々借り上げ、作戦の拠点としている。


「あら、お帰りなさい。どう?有力な情報でもあったの?」


 ボーラが上階から降りてきて、平然と問いかける。


「あ、まぁ、皆が手に入れてきた情報を集めて精査しているところさ」


 さすがのカストロも一瞬言葉に詰まったが、すぐに気を取り直して説明を始めた。


「そう。昼間はちょっと体調が整わなくて任せちゃったけど、ここからはしっかり働くから任せてね」


 昼間、『日焼けしたくない』と言っていたボーラの言葉に、ジョシュアは少し驚きの表情を浮かべる。だがボーラ自身も、他人に仕事を任せて自分は動かなかったことは自覚しているようではあった。


「じゃあ、いざという時には頼りにしよう。それと、もう一人の主力セシル少尉は?」


「勿論私もいるわよ、カストロ中隊長。そろそろ私も働かなきゃね」


 上から響く明るい声にカストロが振り返ると、階段の上からセシルが応じて降りてきた。


「ふふふ、二人とも頼もしい限りだ。さっきも言った通り、皆の情報を持ち寄っているところだ」


 カストロが椅子に深く腰掛け、作戦の手筈を説明する。


 情報によれば、街の東にある森の中の遺跡が怪しい場所ではあった。


「様々な情報から、まずはこの遺跡を探ることにしようと思っている。二人の意見は?」


 カストロが手を向け、セシルとボーラに問う。


「確かに怪しいわね。遺跡とカルト集団。いかにもって感じだわ」

 

「私も同じ意見」


 セシルの言葉にボーラも頷き同調していた。


 強気な笑みを浮かべるセシルにジョシュアが真剣な面持ちで歩み寄る。


「セシル、今回は少数で挑むんだ。バトルスーツは着た方がいいんじゃないか?」


 バトルスーツは身体の動きを補助し、防御力も高める。しかし慣れなければ動きづらく、ウィザードたちの中には着用を避ける者もおり、セシルもそんな一人だった。


「え、いやよ。だってこの軍服の方が可愛いもん。敵の攻撃を喰らわなきゃいいのよ」


 セシルは平然と言い切る。確かに赤い軍服は特注で、それは彼女のプライドでもあり優秀さを反映している。標準的なバトルスーツは地味で、セシルには耐えられないらしい。


「可愛いとか可愛くないとかじゃなくて……」

 

「何よ!気分が乗らなきゃ魔法にも影響出るんだから」

 

「じゃあバトルスーツの上から軍服を着れば?」

 

「余計に着膨れして動きづらいじゃない」


 不毛な問答に、カストロは割って入り終わらせる。


「よし、ひとまず作戦は遺跡を調査しゲルト少佐に報告する。いいか、俺たちの任務はあくまで潜入と調査だ。テロリスト共の尻尾を掴んだらまずは報告だ。わかったな?」


「了解!!」


 全員が力強く答える中、セシルとボーラは不敵な笑みを浮かべる。その表情を見て、カストロは作戦そのものよりも、二人の独断専行に一抹の不安を覚えた。

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