潜入
「今回の説明は以上だ。質問がなければ兵舎で出撃に備えるように」
秘書官の声が部屋に響くと、カストロ中隊の隊員たちは無言で立ち上がる。
「君たちの働きにかかっている。幸運を祈るよ」
ジョン将軍の声に、カストロ中隊は敬礼を返して部屋を後にした。
部屋を出て歩を進める隊列の後ろから、突然鋭い声がかけられる。
「おや、カストロ中隊の皆さん。その様子だと次の任務が言い渡されたようですね」
慌てて振り返ると、そこには魔法兵団のゲルト少佐が薄笑いを浮かべて立っていた。
「今しがた聞かされました」
カストロが答えると、ゲルト少佐は静かに頷いた。
「なるほど……カストロ中隊長、ジョシュア少尉。二人、我々の所まで来ていただけますか?」
カストロとジョシュアは互いに顔を見合わせ、若干の戸惑いを見せる。
だが、ゲルト少佐は気にも留めず歩を進めて行く。
「お前たちは先に戻って準備を整えておけ」
残りの隊員たちに声をかけ、カストロとジョシュアは慌ててゲルト少佐の後を追った。
通された一室には、セシルとボーラの姿もあった。
「ようこそ、カストロ中隊長、ジョシュア少尉。今回のバレスタ潜入作戦について、ここから先は他言無用で頼むよ」
ゲルト少佐の口元は微笑むが、目は冷たく笑っているようには見えなかった。
カストロとジョシュアは黙って頷く。
「さて、何故今回の任務がカストロ中隊に任せられたか説明しよう。ジョン・ハワード将軍が配下の者に戦果を上げてもらいたいからだ」
ゲルト少佐の言葉が静かに室内に響く。
「先の襲撃事件で犠牲者は多くがウー将軍の支援者に集中し、ウー将軍は力を削がれた。その結果、他二人の将軍にはトップの座に立つチャンスが生まれた。ジョン将軍は、君たちカストロ中隊に戦果を挙げさせれば、自ずと自身の評価も高まると考えているのだ」
「……自分たちはジョン将軍の手駒にされている、ということですか?」
ジョシュアの声には戸惑いが混じる。
「ははは、我々軍人は常に誰かの手駒だよ、少尉。今回の期待は大きいが、それだけに失敗は許されない」
ゲルト少佐は口角を上げ、含み笑いを浮かべた。
「しかし、我々も本気だ。シャーン少尉の仇も討たねばならない。だからカストロ中隊にはセシルとボーラも同行する。これは少々強引にでも承認させた。私は本隊として作戦に参加し、バレスタから離れた位置で待機している。先遣隊はカストロ中隊に任せる」
カストロとジョシュアは力強く敬礼して応えた。
外へ出ると、基地内の廊下を歩くジョシュアの足取りは重かった。
「何、そんな顔を強ばらせてんのよ!」
後ろから軽やかな声がかかる。慌てて振り返ると、セシルが笑みを浮かべて立っていた。
「いや……俺たちの結果次第で軍のトップが決まるかもしれないんだぞ。さすがに荷が重いだろ」
ジョシュアは顔を強ばらせながら思わず苦笑する。
「へぇー、さすがね。その若さで軍の今後を背負うつもりなんて」
「な、そんなもん背負いたくはねぇよ!」
「だったら考えすぎなきゃいいじゃん。分かる?一人が出来ることなんて限られてる。誰もあんた一人に全てを期待しちゃいないわ。まずあんたはあんたのやるべき事をやる。それぞれが自分の役割を果たす。それが作戦ってものじゃない?」
セシルは勝ち誇ったように笑い、胸を張る。
「はっはっは、セシル少尉の言う通りだ。さぁ、早く帰って準備するぞ」
カストロがジョシュアの背中を軽く叩き、促す。
ジョシュアはその背中を押されるように、再び歩を進めた。
基地の廊下に漂う緊張と策謀の影を感じながら、ジョシュアは次の戦いへの覚悟を固めた。




