シエラ③
街に繰り出したジョシュアとシエラは少しノスタルジックな雰囲気が漂う喫茶店で、他愛もない話に花を咲かせていた。
「あはは、そうなんだ」
「ああ、俺は今まで魔法なんかも使った事なんかないから最初訳がわからなくてさ。なのにセシルは『何がわからないのよ?』なんて言って笑うんだぜ」
ジョシュアの話を聞きながら笑っていたシエラだったが、一息「ふぅ」とつくと、ジョシュアに真剣な眼差しを向ける。
「私はたいして運動能力も高くないし、ましてや魔法なんかも使えない。オールドパーソンズに近いんだけどさ」
そう言ってシエラは微かに微笑みかける。
二百年前の人類覚醒時に能力が覚醒しなかった人々も多数いた。そんな旧人類のまま覚醒出来なかった人々はオールドパーソンズと呼ばれ、軽んじられる事は今でもあった。
「だからあの時助けてくれたジョシュアをつい頼っちゃうんだ」
そう言って頬を微かに赤く染め、上目遣いで見つめてくるシエラを見て、ジョシュアも思わず息を飲んだ。
「いや、気にしないで。いくらでも頼ってくれていいから」
「本当に?」
「もちろんさ」
ジョシュアが胸を張って答えると、シエラは満面の笑みを浮かべる。
「私さ、三年前の戦争で住む家だけじゃなくて、恋人も家族も失ったから頼れる人がいなくてさ」
そう言ってシエラは当時を思い出すかのよう悲しげな瞳で遠くを見つめていた。
「あの、よかったらこれからも俺の事頼ってくれていいから」
ジョシュアが少し照れながら言うと、シエラはジョシュアを見つめ微笑む。
「ありがとうジョシュア。じゃあこれからもよろしくね」
そう言うシエラを見つめ、ジョシュアは照れながら笑っていた。
その後二人は食事や歓談をした後、ウインドウショッピングを楽しみ、夕方にはシエラを自宅まで送り届けた。
「明日からまた訓練や任務があるから今日はこの辺で」
「そっか、ありがとう。今日は楽しかったよジョシュア。また連絡するからね。危ない事も多いんでしょ?気をつけてね」
「ああ、大丈夫。また会えるよな?」
「ふふ、当然でしょ」
二人は笑顔で別れ、シエラは去って行くジョシュアの背を見送っていた。
「……今日は本当に楽しんじゃったな。ジョシュア、私さ……」
シエラは一人呟き、寂しげな瞳で去って行くジョシュアを見つめる。
胸の奥が少し、締め付けられるような気がした。
――
数日後。
軍本部ではジョン将軍に秘書官が静かに報告していた。
「将軍、例のテロリスト共ですが、どうやらバレスタという街に潜伏しているようです」
「確かなのか?」
「はい、かなり確度の高い情報です。どうしますか?」
秘書官の問いかけに、ジョン将軍は顎に手をやり一瞬考えた後、にんまりと口角を上げる。
「カストロ中隊を集めろ。奴らの次の任務が決まった」
「はい、すぐに招集します」
秘書官が綺麗な敬礼をし、部屋を後にすると、ジョン将軍は椅子に深く腰掛け、一人笑みを浮かべ策略を練っていた。
やがて集められたカストロ中隊が部屋で待機していると、扉が開き、ジョン将軍が姿を現す。
カストロ中隊の隊員たちは整然と敬礼し、将軍を迎える。
「うむ、ご苦労。ではまず例の新型バトルスーツのデータはどうなっている? 約束の一週間はもう経った筈だが?」
ジョン将軍は眉間に皺を寄せ、カストロを見据える。
するとジョシュアが一歩前に出て、しっかりと報告する。
「ご報告します。先日の襲撃の際、新型バトルスーツを装備して実戦に臨みました。魔法兵団に匹敵するような魔法戦闘も可能で、実戦でも十分な性能を確認できました」
「なるほど……良い報告だ。では次の任務だ。テロリストの連中は、バレスタという町に潜伏しているとの情報がある。ここからは秘書官に説明を任せる」
将軍は満足そうに頷き、秘書官を指さした。
「カストロ中隊の皆さん、バレスタをご存知ですか?」
秘書官が問いかけると、マーカスが恐縮しながら答える。
「治安の悪いスラム街ってイメージですが」
「間違いではありません。バレスタには以前からシャリアを信仰する者がいて、テロリストを率いているアナベルという者も、『シャリアの生まれ変わり』だと称しています。両者が結びつくことも不思議ではありません」
「え、それだけですか?」
マーカスがさらに身を乗り出し尋ねるが、秘書官は嘲ったような笑みを浮かべた。
「もちろん違います。タレコミ情報です。スラムの者は金次第で口を開きます。最近、仮面をつけた連中の出入りが目立ち、カルト教団はこう言っているそうです『遂にシャリア様が復活した』と。あなた方には、バレスタへの潜入をお願いしたい。テロリストがカルト教団と結びつき力を増す前に、こちらから叩くのです」
「ちょ、ちょっと待ってください。我々だけですか?」
カストロは信じがたい任務に思わず声を上げる。
「さすがに無茶は言いません。まず潜入して情報収集を行い、少し離れた位置で待機している魔法兵団をはじめ本隊に連絡を入れる。状況に応じて本隊が攻撃に出ます。あなた方は本隊と合流し、敵を討つのです」
新兵器の試験が主な任務だったカストロ中隊にとって、これは特務隊さながらの任務。隊員たちは息を呑み、言葉を失った。




