策略
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再びセントラルボーデン国内。
襲撃の翌日、セントラルボーデン基地内には事件の余韻が色濃く残っていた。
最上階、厳重な警備が敷かれた一室。三人の将軍が並び、低い声で策略を巡らせる。
「今回の一件、痛恨の極みだな。テロ行為で誘い出され、手薄になった所を見事に衝かれた」
隻眼のルーシェル・ハイトマン将軍が重々しく言うと、すかさずジョン将軍が口を挟んだ。
「しかも誘い出された部隊の一つは壊滅させられたとか?アイリーン大佐が出撃しておきながらなんという失態だ?」
「アイリーンの部隊は壊滅させられたリバットに向かった部隊ではなく、空振りに終わったジュランテルの方に向かったそうだからな。アイリーンがリバットの方に向かっていれば結果は違っただろう」
ジョン将軍の苦言にルーシェル将軍が反論すると、ここまで口を閉ざしていたウー・フェイフォン将軍が口を開いた。
「それよりもテロリスト共を簡単に国内に入れた事の方が重要だ。人の庭に入って来てやりたい放題やって消えおった。このまま済ませてみろ、笑いものになるぞ」
怒りを押し殺すように吐き捨てるウー将軍を一瞥してジョン将軍は口角を釣り上げた。
「襲撃してきたのは人狼という噂だ。そいつらとは私の部下が一戦交えたそうだし、そのまま賊の討伐はさせよう。まぁそいつらは私に一任してもらおうか」
そう言ってジョン将軍がその場を纏めると、ゆっくりと立ち上がった。
残った二人の将軍は部屋を後にしようとするジョン将軍を静かに見送る。
ふん……ウーの奴、相当頭にきているな。今回の犠牲者はほとんどウーの後ろ盾をする議員や支援者だ。この機に乗じて主犯格を私の手で討ち取れば私の立場は揺るぎないものになる――。
思惑を巡らせ、ジョン将軍はゆっくりと部屋を後にした。
ジョン将軍は技術開発局を配下に置き、独自の情報網で戦略を立てる事を得意としていた。
ルーシェル将軍は魔法兵団を主に配下に置き、ウー将軍はソルジャー達を纏めていた。
三人の将軍はセントラルボーデン軍の頂点に立つ存在であり、これまで絶妙な均衡のもと権力を維持しセントラルボーデンという大国の軍事力を指揮していた。
だが、先の事件でその均衡は微かに揺らいだ。ジョン将軍はその機を逃さず、静かに動き出す。
「どうでしたか?」
部屋を出て笑みを浮かべるジョン将軍に、秘書官が歩み寄る。
「ふん、予定通りカストロ中隊をテロリスト共の討伐に向かわせる。テロリスト共の尻尾は何か掴んだか?」
「はい、現在バレスタという街にシャリアを信仰している連中が集まって来ているという噂がありますので、まずは諜報員を現地に派遣しました」
「よし、裏取りが出来次第カストロ中隊を向かわせろ」
「はっ!」
嬉々とした表情を浮かべ、ジョン将軍は策略を練っていた。
――
一方同じ頃ジョシュアは、シエラの自宅を訪ねていた。
扉が開くと、柔らかなベージュのワンピースに身を包んだシエラが笑顔で立っていた。
褐色の肌に艶のある黒髪ロング。大きくくりっとした瞳がぱっと明るく開き、彼女の華奢な体つきと相まって、どこか年齢より幼くも、大人の女性らしくも見える。
「少尉さん、お待ちしてました。さぁ、どうぞお入りください」
その明るさに押されるように、ジョシュアは一瞬目を泳がせた。
「いや、そんな……中まで入らなくても、ここで結構ですよ」
慌てて言うジョシュアに、シエラはぱちりと瞬きをしてから、さらに満面の笑みを浮かべた。
「えっ、でも立ち話もなんですし。お茶くらい出しますから、ね?」
その瞳で見上げられ、軽く袖をつままれた瞬間、ジョシュアは観念する。
「……わかりました。少しだけ」
押し切られるようにして、ジョシュアはシエラの家へ足を踏み入れる。




