初陣⑥
ジョシュアは胸に抱いていた女性をそっと地面に下ろすと優しく頭を撫でる。
「怖かったでしょう?大丈夫でしたか?」
優しく問いかけるジョシュアに対して、女性は顔を強ばらせながら小さく頷く。
「はい……ありがとうございました」
まだ恐怖で震える女性の肩にジョシュアがそっと手を乗せる。
「もう大丈夫です。自分達がついていますから」
そう優しく語りかけながらジョシュアは通信機を手に取る。
「こちらジョシュア。カストロ中隊長聞こえますか?」
「……こちらカストロ。ジョシュア少尉どうした?」
通信機からはカストロの低く落ち着いた声が返ってきた。襲撃を受けた会場に向かった筈なのにカストロの落ち着いた口調に、ジョシュアは微かな違和感を覚えながら現状報告をする。
「拐われた女性二人は無事保護しました。ですが実行部隊と思われる奴らには逃げられました。驚く事に相手は人狼でした」
ジョシュアの報告を聞き、カストロは一瞬沈黙すると、ゆっくりと口を開く。
「……なるほどな。人狼か。だったらこっちの地獄も納得がいく」
「地獄ですか?」
聞き返すジョシュアにカストロは苦々しく言葉を絞り出す。
「ああ……そうだ。この会場にどれほどの人がいたのか、誰がいたのか、確認するだけでも膨大な時間と忍耐が必要だ……なんせ、どれが誰のパーツかわからないんだからな」
言葉に詰まり、カストロは深いため息をつく。
カストロの目の前にはまさに血の海と化した惨状が広がっていた。会場には数十人にものぼる遺体が散乱し、バラバラになった腕や足等が散らばっていた。
会場全体に血や肉の焦げた匂いが立ち込め、現場に着いた一人の女性兵士はたまらず物陰まで走り嘔吐していた。
「……それって……どういう意味ですか?」
カストロ達の状況がいまいち把握出来ないジョシュアが尋ねる。
「言葉の通りだ。とりあえず、こっちはもういい。お前達は一旦戻って待機だ。俺達もすぐに戻る」
ジョシュアの問いに、短く返答するカストロ。その表情には困惑と恐怖が色濃く映っていた。
このまま終わるわけじゃない……これは宣戦布告。始まりだ――。
息を飲み立ち尽くすカストロの前を担架に乗せられた男性が運ばれて行く。
「生存者もいるのか」
カストロが呟くと、傍らにいたマーカスが静かに口を開く。
「戦闘の最中、シャンデリアに吹き飛ばされて逆に助かったみたいですよ。なんかサウロの生き残りがどうとか、うわ言を言ってたみたいですが」
マーカスの言葉を聞き、カストロが首を傾げる。
「サウロ?……昔ギャング同士の抗争で無くなった街じゃないか」
不穏な影をカストロは感じていた。
――
ジョシュアは通信を終えると救助した女性に改めて目を向ける。
「一度貴女達からお話を聞きたいんですが、ひとまず護衛しながら家までお送りします」
ジョシュアの言葉を聞き、女性は柔らかな笑みを浮かべた。
「はい、お願いします。私はシエラ・モス。保護地区に住んでます」
保護地区。
それは三年前のラフィン戦争で住む場所を失った人々が暮らす地区だった。
「保護地区の方でしたか。自分はジョシュア・ゼフ少尉です。さぁ行きましょうか」
こうして運命の出会いを果たしたジョシュアはシエラを連れて、暗く静まり返った街を歩いて行く。




