初陣③
他の男たちが武器を手に来場者を襲う中、ガルフは素手で無慈悲に命を奪っていく。
来場者たちが会場中を慌てふためき右往左往する中、ガルフは笑みを浮かべ闊歩していた。
そんなガルフの前に中年の男性が立ち、大声を上げた。
「な、なんなんだ貴様らは?こんな事をしてただで済むと――」
男性の声を遮る様に、ガルフが男性の首を鷲掴みにすると、口端を大きく釣り上げた。
「なんなんだってか?俺はサウロって街にいたんだよ。そこで全て奪われたんだ」
「サウロ……十数年前に無くなった街じゃないか……」
男性は苦しそうに顔を紅潮させて呟いた。
その時、ガルフの背後から声が響く。
「おい、その方を離せ」
ガルフが振り向くと、シャーンが険しい表情を浮かべ、腕を突き出す様に構えて立っていた。
「なんだ、てめぇ?警備兵にしては雰囲気が少し違うな」
「俺は気が短いぞ。その人を離せと言ってるんだが」
シャーンが突き出した腕を振ると、シャーンの周りには次々と氷の礫が結晶化していく。
「はっはっは、なるほどウィザードもいたか。なんだお前は置いていかれた口か?」
片方の口角を上げてガルフは問いかける。
「ふふふ、貧乏くじを引いたかと思っていたが、手柄が舞い込んで来るとはな。俺の手柄はここで上げさせてもらう!さっさとその人を離せ!」
「うるせぇな。離せばいいんだな?」
そう言ってガルフはニヤリと笑うと掴んでいた男性を高々と放り投げた。
「なっ?貴様!」
宙を舞う男性をシャーンが視線で追う。
その瞬間、既にガルフはシャーンの目の前まで迫っていた。
手刀で突きかかるガルフ。しかし寸でのところで、その手刀は止まった。
シャーンの前にいつの間にか透明な氷の壁が立ちはだかっていたのだ。
「ちっ、面倒くせえ奴だな。しっかり防御は張っていたか」
ガルフは顔を歪め、忌々しげに吐き捨てた。
「姑息な奴だな。パワーやスピードだけで押してくる相手は楽だ。さぁ、今度は俺から行くぞ」
シャーンは再びガルフに目を向け、構えを取る。
投げ飛ばされた男性は、天井から吊り下げられたシャンデリアに突っ込み動かなくなっていた。
『氷の礫よ、大気より集まりて敵を撃て!』
左手をかざし詠唱を唱えるシャーンの周囲に、氷の結晶が集まり始める。やがてそれは無数の氷の弾丸へと姿を変えた。
「さぁ、躱せるか?『氷の弾丸』」
同時に無数の氷弾がガルフを襲う。
「ははは、躱すまでもないわ」
ガルフは素手で氷弾を迎え撃つ。数発はかすめて体に当たるが、その強靭な身体にはほとんどダメージが及ばなかった。
「どうした? もう終わりか?」
ガルフが笑いながら挑発する。
「ああ、準備は終わりにしよう」
再び左手を構えるシャーン。
『冷徹な針』
その瞬間、周囲の水分が鋭い氷の針となり、四方八方からガルフを襲う。
「がはっ……」
その針は太く、つららのように重く硬い。咄嗟にガードするガルフだったが、手や腕を貫かれ、腹や足にも刺さり、片膝をつく。
「……やってくれるじゃねえか。氷の弾丸は餌巻きかよ」
片膝をつきながらも、ガルフは血を流しつつシャーンを見つめ微笑む。
「呆気ないな。そんな力でここまで来るとは笑わせる」
シャーンは眼下のガルフを見下ろし、冷ややかに言い放った。
「はっはっは、じゃあそろそろ本気で行くか」
しかしガルフは傷をものともせず立ち上がり、全身の筋肉が軋むように姿を変えていく。
目付きは鋭く、体内の骨格ごと変質したかのように体躯はさらに巨大化した。服を破って現れるのは毛に覆われた強靭な肉体。口端は大きく裂け、指先の爪が鋭く伸び、その変貌は明らかに人間の領域を超えていた。
「な……人狼か」
初めて目の当たりにする怪物に、シャーンは一瞬たじろぐ。大きく裂けた口から舌を出してガルフは笑う。
「ははは、遊びは終わりだ」
ガルフは地を蹴り、一瞬でシャーンの眼前まで迫る。シャーンは防御の為、再び氷の壁を張り巡らせた。
しかしガルフの手刀は氷の壁を簡単に打ち砕くと、そのままシャーンの体を貫いた。
「がはっ……!」
目を見開き、口から血を吐くシャーン。ガルフは血まみれの右腕をシャーンの体から引き抜き、薄ら笑いを浮かべる。
「呆気ねぇな。笑わせるなよ、そんな力で警備してんのかよ?」
シャーンは力なく足元に倒れ込み、会場には悲鳴と喚きが響き渡った。
倒れたシャーンの周りには砕け散った氷が散乱し、赤く染まった床にゆっくりと溶けていく。




