プロローグ
この物語を手に取ってくださった皆様、ありがとうございます。
ネットで公開しているので「手に取って」という表現が正しいかは少し置いておくとして――。
実はこの物語は、数年前に自分が書いていた作品を改めて書き直したものになります。
もしその頃に偶然読んでくださっていた方がいらっしゃったなら、冒頭の数ページで
「これ、読んだことがあるぞ?」と思われるかもしれません。
ですが、物語は途中から新たな方向へと進みます。
以前の展開を期待してくださっていた方には申し訳ありませんが、今回は異なる結末へと向かい、主要キャラクターたちの運命も変わっていきます。
まったく別の物語として、その違いも楽しんでいただけたら嬉しいです。
この物語を読もうと思ってくださったすべての方に、楽しんでいただけるよう精進いたします。
陰謀と策略が渦巻く灰色の世界で、二人の男達とその周囲の人々が織りなす運命の物語。
少し重い場面もありますが、それでも人は愛し、生き、未来を選んでいきます。
少し長いお話ですが、最後までお付き合いいただけたら幸いです。
それでは、『灰色の王国』でお待ちしています。
赤羽でした。
旧暦20XX年——
新型ウイルスが世界を席巻した。瞬く間に数億の命が奪われ、人類は絶望の淵に立たされた。
救世主として現れたのは、セントラルボーデン国家が開発したワクチンだった。全人類の九割に行き渡ったその薬は、確かに死の病から人々を救った。
だが、代償があった。
「百メートルを三秒で駆け抜けた」
「素手でコンクリートの壁を砕いた」
「指先から炎を生み出した」
世界各地から、信じ難い報告が続々と舞い込んできたのだ。
ワクチンを接種した者の八割に、何らかの身体能力向上が見られた。そして残る二割のうち、一割の者には——常識を超越した力が宿っていた。
人々は歓喜した。『我々は進化したのだ』と。
力を得た者たちは二つに分類された。身体能力が向上した者を「ソルジャー」、超常的な力を操る者を「ウィザード」と。
しかし、どれほど人類が進化しようとも、争いが止むことはなかった。いや、むしろ激化した。
そして——
「この腐った世界など、滅ぶがいい」
炎を操るウィザード、シャリアがその言葉と共に人類への宣戦を布告したとき、世界は真の地獄を見ることになる。
彼が従えていたのは、人だけではなかった。伝承にしか存在しないはずのゴブリンや人狼といった異形の者たち。まるで、この世界の理そのものが歪み始めているかのようだった。
これを迎え撃つ為にセントラルボーデン国家を中心とした連合軍が結成され、数で圧倒する連合軍の勝利は確実視されていた。
だが「最強の魔導士」と呼ばれたシャリアの力は、人智を超えていた。
戦いは熾烈を極め、連合軍は精鋭をシャリア本人に、圧倒的物量を他の敵に向ける戦術を取った。長期戦になれば数で勝る連合軍が有利——そう誰もが思っていた。
追い詰められたシャリアが最期に見せたのは、自らの命と引き換えにした最大級の爆炎魔法だった。
その爆発は大地を揺るがし、灼熱の炎は街を焼き尽くした。そして灼熱の炎にその身を焼かれ、シャリアは倒れた。
辛くも勝利した連合軍だったが、その疲弊は凄まじく、生き残ったシャリア軍を追撃することもできなかった。指導者を失ったシャリア軍は人の手が届きにくい北の大地へと姿を消していく。
パンデミックにこの争いもあり、人類の半数が失われた。
後に『世界超常戦争』と呼ばれることになる、最初で最大の悲劇だった。
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戦後、セントラルボーデン国家を中心とした世界連合が樹立され、世界の七割の国々がこれに加盟した。
旧い暦は廃止され、シャリアの悲劇を過去の物へとする為、この年を元年とする新世紀『ネオジェネシス』——N.G.0001年が始まった。
核兵器の全廃、高威力魔法の禁術指定、化石燃料から魔力への動力転換。世界は、二度とあのような悲劇を起こさないために生まれ変わろうとした。
それから約二百年——
N.G.0197年、世界連合の一強支配に反発する国々もあり、その中でも豊富な資源と独自の技術を持つラフィン共和国が異を唱え戦争を仕掛けた。独自技術で開発したバトルスーツを武器に、一時は連合軍を圧倒したものの、国力の差は如何ともし難く、一年に及ぶ泥沼の戦いは連合軍の勝利に終わった。
この戦争により、連合軍以外の国々にも一定の発言権が認められたものの、両陣営に深い遺恨を残すことになった。
そして三年後——
N.G.0200年。世界超常戦争から二百年という節目を迎えた時、物語は静かに動き出す。




