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第88話 「血の魔神 その①」


「余力を残す必要はねぇ――正真正銘、最終決戦だ!」


ゾルデが吠えるように叫んだ。


「威勢が良いな。いいだろう……かかって来い。

見どころがあれば、お前らも眷属として命を拾ってやろう」


魔神が両手を広げた瞬間、膨大な紅のオーラを噴出させる。


クロードの時とは比較にならない。

肌が粟立つ。取り込んでいる血の量が、明らかに異常だった。

なにより、それで正気を保っていることが恐ろしい。


「――いざ!!!」


フレイヤの身に着ける蛇王鎧が、眩い光を放つ。

美しい白の大剣――《蛇王剣バジリスク》を抜き放ち、

魔力を注ぎ込むと、刀身は毒々しい紫色へと姿を変えた。


魔神は、その刃を受けなかった。


闇で出来た外套がいとうも、影に潜む技も光を発した状態のフレイヤとは相性が悪い。

何より、その劇毒を秘めた大剣を嫌がった。


――ふわりと、後方に避けた直後。


さっきまで魔神の立っていた地面が、陥没するほどの地割れを起こした。

超重量の武器から繰り出される破壊。

迂闊にも見える突撃。だが、依然のような危うさはなかった。


それに、すぐさま追従してくるであろう仲間がいることを知っていたのだ。


「せりゃあ――!」


阿吽の呼吸で、クロエがサポートに入る。


空振りしたあとの致命的な隙を、相手に突かせなかった。


両腕に纏わせた紅のオーラによる、徒手空拳。

異様に良い眼を活かした、ギリギリの肉弾戦。

相手の攻撃を見切り、躱し、適切なカウンターを繰り出す。


それが、彼女が辿り着いた戦闘スタイルだった。


とはいえ、相手は魔神。


一瞬の判断の誤りが、致命傷となる。

クロエは、かつてない集中力を見せて、その攻撃に対処した。


「――《怒りの神雷》」


短く唱えた、ゾルデの身体から蒼白い雷が迸る。


限界まで行われる身体強化。

そして、極限まで高められた反射神経。


「――雷葬・断罪の舞」


人外じみた加速で、魔神へと躍りかかった。

双剣から繰り出される手数の多さは、さすがの魔神ですらも捌き切れない。


その皮膚へ、僅かな傷を刻んでいく。


「驚いた。人間が、ここまで動けるとは……」


魔神の見せた、素直な驚嘆。

いや、喜びの表情。


「では、これならどうかな?」


全身を覆う血の鎧が、即座に構築される。

それを隠すかのように、闇で縫われた外套がたなびく。


クロードの時とは比較にならないほどの、完成度の血鎧。


そして、手には血の双剣が握られた。


「さて――もう一度、舞って見せろ」


同じスタイル。挑発するような言葉。


ゾルデは、頭に血を昇らせたわけではない。

それでも、行かない訳にはいかなかった。


――ガガガガガガッ


その攻撃速度には慣れたとばかりに、完全に受け切る魔神。

隙を縫うようにフレイヤとクロエも手を貸すが、見事に見切られて行く。


「――ちっ! これでも無理か!」


思わず舌打ちが鳴る。


攻撃を与えても、あの防御の前ではどこまで通るか分からない。

それなのに、そもそも当てることさえ出来ないのだ。


スタミナも当然、吸血鬼が勝っている。

長引く程、不利になるのは明白だった。


「終わりか? ならば、こちらの番だな」


フレイヤへと向けられた右腕。

そこから、まるで時雨のような血の弾丸が放たれる。


大剣に身を隠すように、防ぐ。

しかし、狙いは視界を閉ざすことだった。


距離を詰められた彼女は、凄まじい蹴りによってガード越しに宙へ吹き飛ばされる。


「――フレイヤ!!」


光が遠のく。

魔神の纏う闇が、一層深く、濃くなった。


まるで、漆黒の風呂敷を広げたようだった。


覆いかぶさるような闇。

鋭い棘のようなものが、何本も突き出てクロエを狙う。

いくら見切れていても、不可避の攻撃は防げない。


魔神は、しっかりと相手の得意とする戦いを理解し。

その上で、それを防ぎ、崩しを入れた。

力だけでゴリ押すことも出来たが、より効率的で、圧倒的な戦法だった。


闇が視界を塗りつぶし。

その刃が、クロエの柔肌に突き刺さろうとしていた。


「――光よ!」


しかし、それは予想外の動きだった。


半端者の吸血鬼であるクロエ。

そんな彼女が、光魔法を使えるなどとは、想像だにしない。


すでにクロエから眼を離し、ゾルデの追撃に備えようとしていた魔神は見てもいない。


強烈な闇魔法だろうと、ただの光魔法が打ち消してしまう。

絶対的な相克。


「――《朱撃・破軍》!」


纏っていた闇の外套すら打ち消し、渾身の一撃。


血鎧など意にも介さず、衝撃が内部へと突き抜ける。


「……ぐうっ。貴様!」


初めての有効な一撃。


振り向いた魔神の顔が、苦痛に歪む。


「――《雷葬・無明》!」


そこへ、次はゾルデの奥義が炸裂する。


背中に背負っていた大太刀《無銘》。

マグナから受け継がれた刀が、魔神を捉えていた。


血鎧すら裂く、神速の技。


それは確かに、肉へと届き、血しぶきを上げた。


「はああっ!! ――《蛇王紫毒刃》!!」


ダメ押しとばかりに、吹き飛ばされたばかりのフレイヤは、毒の斬撃を飛ばして見せた。


毒々しく紫に変色していた刀身が、再び美しい白色に戻る。


「がああっっ――!!」


魔神は、叫び声を上げた。


「おのれ、貴様らあああ!!」


全身から迸り、大気すら震わす魔力の波動。


まるで、すべてを拒むかのように、全方向へと血の巨大な刃が放たれる。


周囲の建造物が、ことごとく崩れていく。

舞い上がる土煙が、視界を塞いでいった。


一振り。


右腕を強く振るった風圧で、その土煙を吹き飛ばす。


傷を苦し気に抑えていた魔神は、わずか数秒の時間でその傷を癒して見せた。


「はぁ、はぁ……強烈な毒だな。ここまで激しいのは初めてだ。

だが、もうそれは効かんぞ?」


そう言いながらも、蛇王の劇毒を克服していた。


――ノアと同様。

受けてから、抵抗を獲得するまでの時間が異様に速い。


「素晴らしいぞ……お前達。

礼だ。ここからは俺も全力を出させてもらおう」


血の蒸気を吹き上げながら、魔神は不敵に言った。


ゴードンの時と同様に、自身の血を燃料に身体能力を上げているのだと、即座に察する。


一つ違うのは――

その身体の周囲に、いくつもの深紅の液体が重力を無視して漂い、絶えず形を変え続けていた。


全身の細胞が、限界まで警報を鳴らしている。


一瞬たりとも目を逸らせない状況。

それを、魔神は理解していた。


「――《絶対魅了アブソリュート・チャーム》」


双眸そうぼうが妖しく光る。


その視線から――誰一人として、逃れられなかった。


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