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第84話 「決戦の地へ」


「お前ら――大丈夫か!!」


ゾルデの張り詰めた声。


突然の出来事に、さすがの彼も露骨に動揺していた。


「……あぁ。もう、大丈夫みたい。

何だったんだよ、今のは……」


胸の奥に残る不快な熱。

だが、先ほどまでの、猛烈な衝動は嘘のように引いていた。


「王が、我々すべての血の眷属を呼び寄せたのでしょう。

恐らく、ほとんどの者がその命令に抗えず、北へ向かったはず」


ジークハルトが静かな声で言った。

その目だけが鋭く細められ、遥か遠い北の地へと視線を向けていた。


「どうりで……血の制約を使われた時に似た感覚でした。

でも、予定ではあと一ヶ月ほどあったはずでは?」


クロエが胸元を押さえながら、息を整えている。


「そればかりは、私にも分かりませんね。

とにかく……闇夜の宴を前に、人間の血を集める可能性があります。

休眠明けは、非常に渇きますから……」


妙に実感のこもった口ぶりだった。

現に、最近休眠から目覚めた時がそうだったのだろう。


「くそっ――リゼン!」


ゾルデが即座に振り向く。


「すぐさま主要な者たちに、緊急招集をかけろ!

バルバルは、聖銀旅団のメンバーへ伝えに行け!

場合によっては、三国同盟の軍団が配置につくまで、お前らだけで足止めが必要になるやもしれん」


矢継ぎ早に指示が飛び、周囲の兵士たちが一斉に走り出す。


一介の冒険者になった今でも、彼の言葉には絶対的な重みがあった。

これまでに積み上げた信頼とは、それぐらいで揺らぐものではないらしい。

誰もが、異論を唱えることなく速やかに従っていく。


「――悪いな、ノア。首都の美味い飯は、また今度だ」


申し訳なさそそうに笑うゾルデ。


その言葉は、すなわち。


戦いの狼煙が上がったことを意味していた。


「別に、構わないよ」


両手を組んで身体をグッと、大きく伸ばす。


「……飯ってのは、戦いの後の方が美味いからね」


俺はニヤリと笑った。


「――そうだな。勝って、勝利の美酒といこう!」


ゾルデもまた、獰猛に笑ったのだった。





◇◆◇




今回の作戦は――大規模包囲殲滅である。


ハッシュベルト国北部。

海へと突き出した大陸の端。


そこに、吸血鬼たちの本拠地がある。


対するはハッシュベルト国、キャメル国、ジパーン国の三国同盟軍。

南側より展開し、包囲網を築きながら北上する手筈だった。


だが、この作戦には無視できない障害があった。


夏季となり、吹雪の影響はなくなったのは良いが、依然として大量の魔物の生息する森がある。

これだけの規模で森に入れば、間違いなく魔物たちを刺激し、戦闘は不可避となる。

かといって、街寄りで包囲網を構築すれば範囲が広がり、敵に抜けられる危険性が高まってしまう。


吸血鬼を逃さぬ位置で、じっくりと包囲網を完成させる。

その上で精鋭のみで、本拠地へ急襲を仕掛けるのが当初の予定だった。


しかし――始祖覚醒の兆候を受けて、意見が割れた。


敵が一丸となって動き出した場合。

最悪の光景が脳裏をよぎる。


本拠地に敵が集結した今、限界まで敵に近づき包囲網を築こうという攻めの意見。

しかし、その配置に付くまでに、吸血鬼たちが動き出していた場合には大きなリスクを孕む。

一丸となった敵とすれ違った場合、防衛ままならぬ市街地へ吸血鬼が雪崩れ込むことになる。

そうなった場合、市民を巻き込んだ市街戦だ。

相手にとっては、いくらでも補給できる餌場での戦闘となり、人間にとっては不利を極めるだろう。


千載一遇の好機を取るか。

チャンスを逃す結果になっても、確実な防衛を取るか。


答えは、すぐに出た。


市民の命を賭ける選択肢など、認められない。


まず兵士たちは、全軍で北寄りの街と村すべてを防衛に着かせる。

その上で、敵側の想定される主要侵攻ルートを封鎖しつつ北上することとなった。

敵に遭遇しなければ、速やかに想定していた包囲網のポイントを目指す。


一方、元々拠点襲撃を行う予定だった精鋭部隊は別行動となる。


各国から選抜されたA~Sランク以上の冒険者たち。

彼らは、六部隊に分かれて、決戦の地を目指す。


キャメル国からは、一部隊。

フレイヤの父――アウグスト・ラインベルク率いるキャメル軍。

全騎士団長を統括する総帥自らの参戦。

その報は、軍内に小さくない衝撃を与えていた。


それだけ、クロードによる吸血鬼被害が大きいのか――それとも娘の存在か。

恐らく後者だろうが、理由はともかく、これ以上ない戦力であることに疑いはない。


続いて、ジパーン国からも一部隊。

ゴードンのせいで発生していた魔物大移動による被害。

それに対応していた冒険者たちが、気炎万丈で名乗りを上げた。

「あの時の大恩を、ここで返す」

その言葉には、一片の濁りもない。

トモハスさん兄妹も、駆け付けてくれていた。


そしてハッシュベルト国は、四部隊と一人。

一人とは、灰の魔女のことで、単独で動くことが許可されている。

吸血鬼狩人のプロフェッショナル――聖銀旅団。

王宮兵士部隊と、熟練の冒険者たちによる部隊。


最後の一つが、俺たちサンライズの部隊だった。

たった五人しかいない部隊。

しかし、戦力としての質は明確だった。


かくして、戦いの火蓋は――静かに、切って落とされた。



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