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第54話 「鈍感」


「ただいま戻りましたー」


「おかえりなさい、ノアさん。

――って、ちょ、ちょっと、どうしたんですか、その恰好は!?」


「ほぉ……なかなかの装備を揃えて来たな」


「途中で頭がおかしくなっちゃって……結局、あれやこれや買いまくっちゃいました」


俺が申し訳なさそうに言うと、ゾルデは肩を揺らして笑い。

クロエはこめかみを軽く押さえ、やれやれといった表情を浮かべた。


「フレイヤはまだ寝てるの?」


「いいや、少し前に旅団のメンバーがやって来てな。

フレイヤと共に王城へと向かって行ったぞ」


――おぉ!

リゼンさんたち、聖銀旅団の面々も到着したのか。

つまり、傷の方も癒えたということだ。どうりで、ゾルおじの機嫌がいいわけだ。


「――じゃあ、ちょうどいいや。

二人にプレゼント用意したんだけどさ、フレイヤには特に何も買ってなくて……。

ほら、びっくりするくらいお嬢様じゃん?」


何か買おうとは思った。

だが、庶民が買うような物を渡して、場違いにさせたらどうしようという気持ちが勝ってしまった。

フレイヤなら笑って受け取ってくれる気もするが、不安になって結局ひよった。


子煩悩なアウグストさんのことだ。

きっと、欲しい物は一通り与えられているに違いない。


「お前からプレゼントだなんて、一体何の冗談だ?」


「普段の指導の御返しだよ。俺はこう見えて義理堅いんだ。

……といっても、ただの俺の血なんだけどさ。吸血鬼を釣ったり、悪いことに使いたいんでしょ?」


試験管のような細長い瓶。

中には俺の血が入っており、コルクでしっかりと栓をしてある。

それが二本だ。


共に行動する間は、別にいらないかもしれないが。

ゾルおじがいつか、この冒険者パーティー《サンライズ》を抜けた時に使うだろう。

聖銀旅団に渡してもらっても構わないしな。


「――良いのか!?」


「別に、好きに使ってくれて構わないよ。最初は俺の血を悪用するつもりだったんじゃないの?

いつまでも、血をくれって言って来ないからさ」


「言っただろ。同じパーティーにいる間は、信用してくれて構わないと。

仲間から血をねだる奴がどこにいる?」


ゾルデは一瞬視線を逸らし、

それから、深く息を吐いた。

 

「――だが、感謝する」


短く、だがはっきりと。

そう言って頭を下げ、瓶を受け取った。

どうやら、ゾルおじも相当な義理堅さらしい。


「そして、クロエにはこれね。あんまり高いのは嫌がるとは思ったんだけど……

とっても似合う奴を見つけてさ」


そういって取り出したのは、ピンクトルマリンの収納指輪ストレージリングだ。

指輪型を選んだのには、別に深い意味はない。


「えっ? えっ……!? ――指輪!?」


「そうだよ。収納指輪ストレージリングだから、魔力を流せば色々と格納できて便利だよ」


「いりません!」と拒否されないかビクつきながら、反応を伺う。


「これを……私に……」


「この宝石、ピンク色で可愛いよね。ほら、クロエの髪色と同じで可愛いじゃん?」


「…………」


これは、どっちの反応だ?


クロエは、そっと指輪を手に取ると、嬉しそうに微笑む。

しかしいつまでたっても指にはめようとしないので首をかしげる。


「指輪、つけないの? ……もしかして、気に入らなかった?」


「そんなことないです! 凄く可愛いし、とっても嬉しい。

でも、その……どの指に付けたらいいのか、迷ってしまって」


「指? 魔力を流せばどの指にもピッタリなサイズになるよ?」


「ノア……お前、本当にデリカシーが無いな……」


「え!? なんでゾルおじにそんなこと言われなくちゃいけないの!?」


「いいか。こういうのは黙ってお前から指にはめめてやればいいんだ」


「ええ? でも女の子ってそういうのは自分で決めたいんじゃないの?」


「お前……いや、よく考えたらお前はまだ子供だったな」


「はあ?」


「ゾルデさん、いいんです。ノアさんにそういうつもりがないのは、私もよく分かっていますから」


ゾルおじの謎の言動に戸惑っていると、クロエが困ったように笑った。

なんだ? なぜか俺だけ話に付いていけていない気がする。


「指輪の場所は……ここに決めました」


クロエが指輪を左手の人差し指に嵌め、魔力を巡らせる。

指輪は僅かに動き、ぴたりとその指のサイズに収縮した。


「私、一生の宝物にします。ありがとうございます」


クロエは、自らの人差し指に光る指輪を見て、瞳を潤ませていた。


「……えっと、とりあえず喜んでもらえたってことでいいのかな?」


「勿論です。嬉しいに決まってるじゃないですか。こんなに、嬉しいことありませんよ……」


やはり、収納指輪ストレージリングは冒険者の夢。

ここまで喜んでくれるとは思わなかった。とはいえ、クロエはやはり涙もろいようだ。


ほがらかな気持ちになった後、他に何を買ってきたのかを聞かれ。

小金貨7000枚分の刀を買って来たこと伝えた瞬間、絶句されたのは云うまでもない。




◇◆◇



二日目の夜になっても、動きはなかった。


キャメル国の兵士たちにも捜索を依頼することは出来るが、あまり大人数だと相手にも警戒されてしまう。少数精鋭で挑み、発見し次第、信号弾を上げる手はずだった。

聖銀旅団も参加した広範囲捜索だったが、結果は不発。


静かすぎる。

それが、逆に不気味だった。


「どう思いますか、ゾルデさん?」


現団長のリゼンが問う。


「ノアの血にも釣られねぇ……だが、俺の勘が――奴はまだここにいると言ってる」


「でも、俺たちが来てからは被害者の報告がないんでしょ?

場所を移した可能性も考慮して、近辺の街や村に被害者が出ないか調査してるけど、そっちも異変なし」


そう、被害者が出ていない。


体内に血をため込んでいるので、そこまで頻繁に血を摂取しなくても、しばらく死ぬことはない。

とはいえ、段々と渇きは訪れる。

ましてクロードは、眷属を大勢抱え込んでることが予想される。

その全員が、血を飲んでないなど有り得るのか?


「まだ二日目、焦る時間じゃねぇ。とりあえず夜間の見回りは継続。

兵士たちに協力してもらって、さらに近隣以外の街でも吸血鬼被害が出ていないか調査を依頼する。

同時に、日中潜めそうな空き家などを調べつくす。人海戦術で炙りだすぞ!」


キャメル国の兵士たちと合同作戦が可能になった最大のメリットだ。


少数精鋭の聖銀旅団では、人海戦術などなかなかできない。

まして、他国の街中を調べるには許可を得るだけで手間だ。

その点、女王の名の下に動ける兵士たちは違う。


もどかしさを感じつつも、俺たちは日中は休み、夜間に備えた。



◇◆◇



三日目の夜。

四日目の夜になっても敵は現れない。


「……どうなってんの?」


すでに、空き家などはしらみ潰しにしている。

なんで、見つからない?


「恐らく、クロードは魅了チャームを使って潜んでいる」


ゾルデが静かに口を開く。


「人間に紛れ込み、洗脳で口を塞いでいるんだろう。

それこそ、血を吸われた被害者にも黙らせていれば、殺さない限り事件は表立たないからな」


「つまり、被害が見えてないだけで、敵は動いているってこと?」


「そういうことだ」


背筋に、冷たいものが走る。


「全ての家を探し回るか……。めちゃめちゃ広いけど」


「いや、奴らが根城にしそうな場所は、ある程度限られるだろう。

恐らく、狙うならば貴族のような屋敷だ。

こないだの交易都市襲撃の時の眷属たちは服装もドレス姿だった。

夜会や舞踏会に紛れていても、おかしくねぇ」


「そんな……そこまで人間社会に潜り込むなど、有り得るのですか!?」


リゼンは、思わず声を上げた。


「あくまで可能性の話だ。だが――調べてみる価値はあると踏んでいる」


ゾルデの獣の勘と憎き相手への理解がそういうなら、有り得るのだろう。

その言葉に、誰も反論しなかった。


「――フレイヤ。今の話を、アウグストさんに伝えてもらっていい?

相手は魅了で洗脳して口封じしている可能性と、貴族の屋敷に潜伏している可能性をさ」


「かしこまりました!」


背筋を伸ばして返事をすると、フレイヤは即座に駆けて行った。

徹夜明けだというのに、足取りはまったく鈍らない。

彼女はタフネスで、頼りになる。




◇◆◇




――その日の夕方。


とある貴族の屋敷へ向かった兵士たちが、音信普通になったという報せが届いた。

その瞬間、場の空気が凍り付く。


その屋敷が“当たり”だった。


「くそっ……」


ゾルデが舌打ちする。


「直に夜になる。周辺の住民の避難を急げ!

中へは、俺とノア、クロエ。そして旅団からは、リゼンとバルバルで突入する。

フレイヤは兵士と旅団のメンバーは、その屋敷を囲んで待機だ。

万が一外に出てきても、絶対に逃がすな!」


矢継ぎ早に指示が飛ぶ。


「光魔法で屋敷外周を照らして、決して絶やすな! 敵を闇に紛れさせるなよ。

その他の指揮は、アウグスト総帥に任せる。フレイヤはそっちに付け。

屋敷外にも眷属を配置してるかもしれねぇからな……決して、油断するな」


命令と同時に、皆が走り出す。

兵士も聖銀旅団にも、迷いはない。


ゾルデが、こちらを振り返った。


「お前らも、覚悟は出来てるな?」


その眼は、今まで見たことがないほど鋭かった。

長年追い続けた因縁が、ようやく手の届く場所にある。

しかも、これ以上なく万全な形で。


「手柄は譲るよ。リリーさんの仇を取ろう」


強く頷き合い。

俺たちは、決戦の場へと駆けた。



主人公とヒロインの恋愛要素を、求める勢と求めない勢がいるので難しい。

一応、この程度に抑えておくつもりでいます。ご容赦ください。


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