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第51話 「女王陛下謁見」


フレイヤの家は本当に富豪だ。


騎士としての仕事だけでなく、土地を持ったり、他の事業にも手広く手を出しているらしい。

すれ違うメイドたちも、数えきれないほどで、誰が誰だか分からなくなる。


そして――ふと、思った。


フレイヤのパパなら、あの《神鹿の凍角》を買い取ってくれるのではないかと!

ここを逃せば、あれは一生、収納指輪ストレージリングの肥やしとなってしまう。

死蔵なんて、あまりにも勿体ない。


フレイヤにお願いして、パパに俺たちが寛がせてもらっている客室へ来てもらう。

ゾルおじにも同席してもらったのは、その価値を俺自身が分かっていないからだ。

安く見積もられるようなら、止めてもらうための保険である。

クロエだけを蚊帳かやの外にするわけにはいかず、結果、全員集合という形になった。


「夜分に、呼び出してしまって申し訳ございません。

本来なら、こちらから伺うべきなのですが――」


「なぁに、そんなこと気にせずとも良い。で、相談とは何かな?」


アウグストさんは嫌な顔一つせず、笑顔でやってきた。


可能なら買い取って欲しい物がある。

そう前置きして、俺はおもむろに収納指輪ストレージリングからそれを取り出した。


巨大な魔石出来た鹿の角。

表面は溶けることのない氷に覆われ、冷気とともに、息を呑むような輝きを放っている。


「な、何だね――これは!?」


「おい、ノア! こいつを、一体どこで手に入れた!?」


驚愕。

これを他人に見せるのは初めてだ。

やっぱり、そういうリアクションになりますよね。

久しぶりに見たけど、自分でもちょっとビビってる。

強すぎる存在感と、畏怖すら感じる美しさ。


「えっと、多分相当ヤバい魔物の角なんですけど。

魔石換金所に出す訳にもいかず、ずっと閉まってたんですよね……えへへ」


「これを、私に買い取れと?

……いやはや、驚いた。これほどの物を持ちだすとは」


暫く無言で眺めた後、頭を悩ませた答えは意外なものだった。


「これに値を付けるのは難しいですな。何せ比較対象が存在しない。

片角が折れているとはいえ、どんなに少なくとも白金貨5枚は下らんでしょう」


……白金貨?


白金貨って何でしたっけ。

たしか小金貨が10枚で大金貨。

大金貨が10枚で白金貨だった気が……。

つまり、何枚だ? 大きい方の角だけで小金貨が500枚以上ってことか?


「ちなみに、その折れた方の角もこちらに……」


「な、何と……! ならば価値はさらに跳ね上がるでしょうな。

出せなくはないですが、私個人で買い取るには資金を集めねばなりません」


おいおい、嘘だろ。

やっぱり死蔵か? この感じだと、魔石換金に持って行っても、どの道無理じゃねぇか!


「――ですが、もしかしたらどうにかなるかもしれません。

明日、女王陛下と謁見されますから。そこで鑑定士に見てもらい、国に買い取ってもらうのです」


「……はにゃ?」


「国家予算を使って買い取るのです。これは間違いなく国宝レベルの代物ですから。

女王陛下の裁可が必要ですが、首を縦に振る可能性は、十分にあるかと」


マジか。

マジかーー!!!


話が随分と大事になって来たぞ。

ゾルおじは、完全にドン引きした顔で俺を見ているし。

クロエは可愛い顔で、頭の上に大きな「?」を浮かべている。


こうして、明日の謁見は、俺にとってさらなる一大イベントとなったのだった。




◇◆◇




そして王城。


目の前の王座におわすは、玉座に深く腰掛けながらも、背筋の一切崩れない女王。

年若く見えるが、その瞳は静かで、鋭い。

感情を表に出さず、すべてを測る者の目だ。


まずは、先日の交易都市での大規模襲撃についての感謝。

被害を食い止めた功績を称え、褒賞として魔鉱石を下賜かしする、と告げられた。


さらに――

十数年前から断続的に起こっていた吸血事件が、ここ最近になって急増していること。

被害者は、若く、美しい女性に限定されていること。


女王の声は淡々としていたが、その内容は重い。


これについては、すでに聞いていた通りだ。


こちらが把握している、吸血鬼クロードの特徴や行動傾向を共有。

そのうえで、王国と協力体制を敷き、クロード討伐作戦を実行する流れとなった。


作戦の指揮を執るのは、騎士団総帥であるアウグストさん。

元聖銀旅団団長のゾルデは、吸血鬼退治の専門家として助言する立場となった。


正直に言うと――

俺の頭は、この後の《神鹿の凍角》の売却のことで埋め尽くされていた。


悪いが、話の半分も入ってこない。


やがて、ゾルデたちの重要事項の擦り合わせが終わり、

空気が、ふっとこちらに向いた。


アウグストさんの合図で、鑑定士が数名呼び出される。

俺は深呼吸ひとつして、収納指輪ストレージリングから《神鹿の凍角》を取り出した。


――ざわっ。


女王陛下、宰相、そして多くの王宮近衛兵たちから、抑えきれない感嘆の声が漏れる。

鑑定士たちは時間をかけ、角を調べ上げる。

形状、重さ、素材、宿る魔力――

息を詰めるような沈黙の中、彼らは互いに意見を交わし、やがて結論へ至った。


「――我々の鑑定結果では、これは二本合わせて、小金貨1500枚相当が妥当かと考えます」


は、はにゃあああ!!??


驚き過ぎて、口から魂が飛び出しかけた。

チラリとゾルおじを見ると、彼は静かに頷いた。

つまり、その金額なら問題ない、という合図だ。


俺の想像を、遥かに超えている。

それだけあったら何が買えるんだ? 家も余裕で行けちゃうよね?


「ノア殿。その金額でも売却の意思は変わりませんか?」


アウグストさんに声を掛けられて、我に返る。

王だけは眉一つ動かさず、静かにそれを見つめていた。


「えっ――は、はい!

是非とも、女王陛下に買い取って頂けたら、光栄に思います!」


誠心誠意、腰を90度に折って頭を下げる。

これで断られたらどうすんだ!

値引きしていくのか? それともアウグストさん買い取りを泣きつくしかない。


「もちろん、喜んで買い取らせて頂きますが。

これほどの品を、我が国へ手放してよろしいのですか?」


微かな驚きとともに、女王の口元が緩んだ。

そりゃもう、よろしいですとも!


「是非とも、よろしくお願いします!」


「分かりました」


女王は一つ頷き、はっきりと告げた。


「《神鹿の凍角》、確かに我が王国が預かりましょう。

代金は、即日支払わせます。宰相――分かりましたね?」


こうして、俺は《神鹿の凍角》と引き換えに、小金貨1500枚分の大金を手に入れたのだった。



◇◆◇



女王陛下との謁見が済んで、俺たちは城下町を歩いていた。


すでに昼は過ぎている。


――あの金欠だったノアはもう居ない。


俺は今や、大金持ちなのだ。

大きな布袋の中には、ぎっしりの金貨の山だ。

初めてみた白金貨が10枚。大金貨30枚、小金貨が200枚入っている。

街でも使いやすいように両替してもらったが、おかげで重いったらありゃしない。


歩くたびに、リュックがずっしりと重い。


店に並ぶあらゆる物が、急に安くみえる。



新しい武器、新しい服、あれやこれや欲しい物が全部手に入る。

何て言うか、どれも安すぎて誤差に過ぎない。実質無料みたいなもんだ。


俺はもう無敵だ。この世のすべてが手に入る。


クロエにも色々と買ってあげたい物があるんだった。


「クロエ、何でも欲しいもの言ってね。遠慮なんていらないよ。げへへっ」


下卑た笑いを浮かべる俺。


「別に何もいりません! 私も冒険者ですから、自分のお金で手に入れます」


「そんなことを言わずにさぁ~。

何か、貢がせておくれよぉ~!」


使い切れないほどの大金を持ってしまった。

豪遊しない訳にはいかないだろう。

俺がこの街の経済を回すのだ。


「見ろクロエ……。人は金で簡単に狂う。お前はこうなるなよ」


「はい。ゾルデさん!」


見るなぁ~。

そんな目で俺を見るなぁ~。

成金によって、脳がおかしくなってしまった俺。

クロエは可哀想なものを見る目で見つめていた。


「だが、今日の昼飯くらいはノアに奢ってもらうとしよう」


ゾルおじが、ふっと笑う。


「ノア殿。ご馳走様です!」


そういって笑うフレイヤさんたち。


「そうですね……それなら良いかもしれませんね!」


……あれ?


俺が金持ちになっても。そのせいで、ちょっと壊れても。

三人とも、いつも通りだ。誰も距離を取らないし、態度を変えない。


そうか……大金を持ったからって、無理に別の人間になる必要はないんだ。

今まで通り生活して、今まで通り俺らしく生きていけばいい。


「そうだね。そうしよう!

ルミナスに来たからには、海の幸をこれでもかってほど食べなきゃね!

それを楽しみにしてたのに、すっかり忘れてたや」


吸血鬼退治よりも美味しい物!

大金よりも美味しい物!


それが俺の生き方だった。


クロエの顔が、ぱあっと明るくなる。


気付けば、心地良い潮風が街に吹いている。

そこは美味しそうな、焼き魚、貝、香草、潮の匂いで満ちていた。


ああ。

金は人を狂わせる。


でも、仲間がいれば――

ちゃんと、元に戻してくれるらしい。


クロエ、ゾルデ、フレイヤ――三人の顔を見て、俺はそれを実感したのだった。


――《白金貨》

高純度の白金プラチナで出来た硬貨。

白金貨は、もともと「国家級取引」用に鋳造された貨幣。

国宝の売買、領地の譲渡、戦争賠償、王家直属の報奨金――

一般人が日常で触る想定として作られてはおらず、大変貴重。


金の採掘量には限りがあり、

高額取引を金貨のみで賄うと流通が不安定になるため、

流通量を意図的に抑えられる上位貨幣として製造された。

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