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第50話 「首都ルミナス」


昼過ぎ――ついに辿り着いた。

大陸の西端、キャメル国の首都ルミナスだ!


遠くには、どこまでも続く青い海。

潮の香りが風に交じり、ウミネコの鳴き声が高く響く。

白壁の建物が陽光を弾き、街全体がきらきらと輝いて見えた。


「これが海か……! 想像してたより、ずっとデカいな!」


「あれ全部、塩水なんですか!? すっごく綺麗……!!」


クロエの目が宝石みたいに輝いている。

初めて見れば、驚きもするだろう。


「そして、あの巨大な白亜の建物が王城です。

あちらに、女王陛下がいらっしゃいます」


フレイヤが指し示した先には、街を見下ろすようにそびえる城。

威圧感よりも、気品と威厳が先に立つ。

すげーや。あそこにこれから行くのか……。


「この後はどうする? いきなり謁見って訳にはいかねぇ。

少しは身なりというものを整えにゃならん」


「えっ……ゾルおじにも、そういう感性あったんだ……」


「お前は俺をなんだと思っている。血と焚火臭ぇ身体で、女王に会えるかよ」


「たしかに。女王様に会うのに、この格好は酷いですよね……」


小川で軽く拭いただけの身体。 髪は埃っぽく、服も旅の色が染みついている。

王城に入れば、衛兵に止められても文句は言えない。

不敬罪で処される一歩手前くらいには、小汚い。


「でしたら、まずは我が屋敷に案内いたします。

我が家には風呂もありますし、服も綺麗に洗ってもらいましょう。

もちろん、滞在中は、どうぞ泊っていって下さい」


屋敷に風呂!?

しかも、俺たち全員の寝床も用意してくれるだって!?

すっかり忘れていたが、フレイヤは正真正銘のお嬢様だった。


「いいのか? さすがに悪いだろ?」


「何を言ってるんですか! この国に来ていただいたのも、我々が望んだこと。

父もそういうに決まっています!」


「まぁ、正直……宿代を浮かせられるのは嬉しいです」


俺は素直に伝えた。

吸血鬼狩りでちょっと稼いだが、旅支度などでも消費した。

節約できるところは、節約したい。


なんせ、ここは港町。

絶対美味いもんだらけだ。お金は魚介類を腹いっぱい食う為に使いたい。


「ふふっ。でしたら決まりですね!

支度の間に、従者を走らせて我らの到着を城へ伝えましょう」


この時は軽い気持ちだった。

お言葉に甘えて、空いている部屋を一室借りれたらいいな、くらいのもんだ。


俺たちは、フレイヤ・ラインベルクがどれほどのお嬢様かを理解していなかったのだ。





◇◆◇




……マジでビビった。


フレイヤを完全に舐めていた。

いや、ラインベルク家を、か。


なんだこのデカい屋敷は!!

門からして城壁みたいだし、敷地が広すぎる。

噴水はあるわ、庭は整いすぎてるわ、 ここ、本当に個人宅なのか?


そして、案内された風呂もバカデカかった!!


天井が驚くほど高く。

湯は常に循環し、色鮮やかな花びらが浮かんでいる。

石造りの獅子像から湯が流れていた。


風呂上りには、当然のように肌触りの良すぎる真っ白なタオル。

極楽湯に浸かった後は、客室へと案内された。

テーブルもソファーも全てが高そうだ。

壁にかけられた絵画も、全然分かんないけど凄そうなことだけは分かる。

出された飲み物は、甘くて爽やか。 添えられた菓子は――なんと、チョコレートだ!


「これ……美味すぎないか?」


クロエと感動しながら食べている横で、

ゾルデは、こっそり包んでポーチにしまっている。

きっと後でまた食べたいのだろう。そんなことをするとは意外だ。


途中、当主であるアウグスト・ラインベルクが城から戻り顔を見せた。

柔らかな物腰だが、立ち姿だけで只者ではないと分かる。

今日は旅の疲れを癒すように、と。女王との謁見は明日の午前十時となった。

さすが……気配りまで一流だ。


夕方になりアウグストさんとお兄さんたちも帰宅。

夕飯には、見たこともない料理が次々と並んだ。


これが貴族のフルコースか!


まさに、至れり尽くせり。上げ膳据え膳とは、このことだ。


食事中は、旅路でのフレイヤの様子を、何度も聞かれた。

それだけ心配していたのだろう。このもてなしは、感謝と安堵の表れだ。


そのフレイヤ本人は――


鎧を脱ぎ、上質なワンピース姿。一つ縛りにしていた髪も、綺麗に結われている。

戦場の騎士とは別人のような、美しい令嬢だった。

母親も見事な美人で、これが遺伝かと納得する。


驚きの連続の一日となった。


そして明日は、女王陛下との謁見。

それが終わったら、王都の観光を予定している。

フレイヤは、滞在中も俺たちに同行することとなった。


「慣れない土地でしょうから、案内役に使うといい」


アウグストさんの計らいだ。

滞在中ということなので、クロード討伐までは一緒にいられるという事だ。


それを聞いたフレイヤは――

抑えきれない喜色を浮かべ、 子供のように小さく跳ねて喜んでいた。


鎧に身を包み、剣を振るう時とはまるで別人だ。

その無邪気さに、思わずこちらまで頬が緩む。


親友のように打ち解けたクロエも、隣で本当に嬉しそうに笑っていた。

吸血鬼の血が混じっていることを、隠して生きている。

きっと、友達を作ることなんて、どこかで諦めていたのだろうから。

その笑顔を見れるのが嬉しい。


――この先も、フレイヤが仲間として一緒にいられたら。


そんなことを考えるのは、きっと贅沢だ。

分かってはいるのに、胸の奥に小さな願いが、そっと残った。





◇◆◇





――夜。

その部屋では、一本の蝋燭だけが灯っていた。


揺れる炎に照らされ、二体の吸血鬼が向かい合う。

細く伸びる黒い影が、壁に歪んで映っていた。


「よくここが分かりましたね……ニコラ。

誰にも教えていないはずですが?」


「クフッ……情報通の友人がいるもので」


「そうか。どうせ、あの薄汚いドブネズミだろう。

それで、いったい何の用だ? 私は今、忙しい」


クロードは苛立ちを隠そうともせず、吐き捨てる。


「これは失礼」


ニコラは肩をすくめ、貼り付けたような笑みを崩さない。


「いえ、例の王の血を継ぐ者――王子と呼ばれてるあの子が、この街に入ったという情報がありましてね。クロードさんにも、一応伝えておこうと思いまして」


「何故この場所がバレている。まさか、お前の仕業か?」


憤るクロードを見て、ニコラは愉快そうに目を細めた。


「まさか、まさか。貴方は派手に動き過ぎただけのこと。

それに、あの襲撃の夜。貴方の眷属が、居場所を漏らしたようですよ? ご存じない?」


「ふざけるな……! 僕の下僕たちはそんなことをしやしない。

決して裏切れないように、魅了を何重にもかけているからね」


「ところが――貴方の魅了は、王子の力で上書きされかき消されたようですよ。

あの雷の吸血鬼狩人の婚約者ですよ。

残念でしたねぇ……彼も今、王子と共にここに向かっています」


「そんな馬鹿な……あの男は死んだはずだ。

貴様、適当な嘘を付くな!!!」


怒声が部屋に響き、その覇気で空気が揺れた。


「……おぉ、恐ろしい。ですが、それが事実かどうかはすぐに分かること」


ニコラの表情は崩れない。

貼り付けたような笑みのまま、頭に血を昇らすクロードを愉快に眺めるだけ。


「では、情報は伝えましたよ」


ニコラは踵を返す。


「闇夜の宴も近い。紅月の王が目覚める前に……どう動くかは貴方次第。

クフフフッ」


不気味な笑い声を残して、ニコラの姿は闇に溶けた。

部屋に残されたのは、クロード一人。


「有り得ない……あんなガキが、僕の魅了をかき消しただと!?

それに、またあの狩人か! なんてしつこい男だ。いい加減、さっさと死ねぇ!!」


金髪の頭を掻き毟り、血走った目で親指の爪を噛んだ。


「……もういい。どいつもこいつも僕の邪魔ばかり。

僕は選ばれた者。それなのに、どうして……どうしてだ!」


吐息は荒く、言葉は次第に意味を失っていく。


「うるさい、うるさい! 僕に指図するな!

紅月の王を下し、次の世界の王は、この僕だ!!」


クロードは決断する。


下僕ども全員に、さらなる血を与える。

大半は耐え切れずに死ぬ。だが、耐えきれたなら絶大な力を得るだろう。

死んだ者たちの血は、一滴残らず回収すればいい。


「使えない下僕共だ。誰一人残らずとも構わない。

僕には紅月の姫がいる……!! どの道、全て吸いつくして集めるんだ」


狂気に染まった瞳が、爛々と輝く。


「新世界では、僕が認めた者だけの楽園を作り直せばいい……!

アハ、アハハハハッ!!!」


壊れたような笑い声が、暗い部屋に反響する。


その瞳に、かつて“魅惑の夜侯”と呼ばれた面影はない。

自らの器を超えて血を集め続けた結果、精神はすでに侵されていた。


狂気の怪物は、

闇の中で――いつまでも、いつまでも笑い続けていた。



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