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第48話 「もしかして、変態ですか?」


(なんでゾルデのあの一撃と、俺の渾身のパンチを喰らって平気で立ってるんだよ……!?)


それになに?

さっきの「ありがとうございます。実に、気持ちがいい」って!?


ゾルデですら困惑し、その動きを止めた。


「あのぉ……じ、ジークハルトさんは、不死身だったりしますか?」


「ふふふっ。御冗談を……いくら寿命が長いとはいえ、私もいつかは土に還ります」


「では、もしかして、ただの変態だったりしますか?」


気まずい沈黙が流れる。

さすがに質問がストレート過ぎたか。


「それは、どういった意味で?」


(――ひぃ!!)


相変わらず、笑みを浮かべている。それが逆に恐ろしいったらない。

余計なことを言ってしまったか。

これは完全に、虎の尾を踏みしだいてしまったかもしれない。


「お前が俺たちの渾身の一撃を喰らって、気持ち良いとかぬかすからだろうが!」


おそれ知らずのゾルデは、単刀直入に言った。


「そういうことでしたか。それはとんだ誤解を招いてしまいました。

まぁ、痛みが心地よかったのは事実ですし、スッキリしたので感謝を申し上げたのも事実ですが。

変態ではありません。私はつとめて紳士です」


それって全然誤解じゃないんじゃない!?


どうしよう。

“本物”に出会ったのは初めてだ。

でも、なんだか穏やかそうなタイプだ。

ここまでやっても、怒る様子がまるでない。

少なくとも、話が通じない相手ではなさそうだ。


「えっと……今更ですが、ジークハルトさんの目的を伺っても?」


「王の血に耐えた後継者が現れたと聞きおよびまして。

祝いの言葉とともに、挨拶せねば失礼と思いせ参じました」


「それは、ご丁寧にどうも。なりたくてなったわけではないので、喜んではいませんが」


「おや、そうでしたか。皆、最初は受け入れ難く困惑するものです。

長く生きていると、そうした感情も忘れてしまいますがね」


「じゃあ、用事も済んだようだし。お前を殺すぞ?」


マジかゾルデよ……。

この会話の流れでそれを言える胆力、逆にすげぇよ。


「何故です? 私は“紅月の王との盟約”に従い、人間の血を飲んでいませんよ?」


「えっ、そんなことがあるんですか?」


「簡単に信じるな。信用できない。それに、吸血鬼というだけで殺すに値する」


「……王子よ。この者はお仲間のはずでは? 随分と偏った考えをお持ちのようですが」


「わかりますか? そうなんです。俺もとっても困ってまして」


コソコソと耳打ちしてくるジークハルトに、俺も同様に返す。


「聞こえてるぞ、てめぇら! 紅月の王は、最も多くの人間を吸い殺したまさに魔王。

人間の血を吸わない盟約なんぞ、信じられるか!」


「――王も昔は違ったのです。

あの方が変わられてしまったのは、長い年月と大きすぎる力に耐えかねてのこと」


悔しそうな、苦しそうな表情を見せるジークハルト。


「でも、たしかにそういった血の濃さを感じないんだよね。

人間の血を多く吸っている吸血鬼は、臭いからすぐに分かるし」


「そうでしょうとも。なんなら、私の血を啜り確かめていただいても結構です」


ジークハルトは目の前にひざまずき、頭を下げた。


なんだろう。どうにも悪い奴には見えなくなってきた。

本当に人間の血を吸っていない?

ちょっと誤解はあったようだが、この男は理屈で会話できる。


「ジークハルトも、俺の“王の血”を狙ってる感じ? 眷属になりたいとか?」


「おぉ! 私のような者でも、あなた様の配下に? もし叶うなら服従を誓います。

紅月の王は、すでに我々のことなど忘れてしまわれましたから……」


「クックックッ……じゃあ、とっとと血をくれてやれよ」


ゾルおじは、邪悪な笑い声を漏らした。

おいおい、また眷属になりたがる吸血鬼を、俺の血で毒殺するつもりか?

ここまで話が通じる相手を殺すつもりは無いので、さすがに止めようと口を開く。


「何をおっしゃいますか。血を頂くなど滅相もない。

貴重な王の血――どうか大切になされてください」


しかしそれより先に出たジークハルトからの予想外の返事に、驚愕する。


「え、いらないの?」


「いらない、というと語弊がありますが。貴方様の血は尊い。

簡単に、私のようなものが望んでよいものではありませんから」


見たかゾルデ!

ちょっと変態疑惑はぬぐえないが、ジークハルトは悪い奴じゃない。

少なくとも、血に飢えた獣ではない。

初めて会った時から、そんな気がしてたんだよねー。


「ねえゾルおじ、ジークハルトは信用しても良いんじゃない?」


「……血の制約がなければ信用できん」


「でも彼からは悪意や敵意を感じないし、話も通じる。

それに本当に人間の血を吸ってないみたいだよ」


「ダメだ。こいつを信用するには、力を持ちすぎている」


たしかに、異常な耐久力を見せた。

逆にそれほどの力を持ちながら抵抗しないのは、信用に値する理由にも思える。

正直俺は、もう彼と敵対するつもりはない。

なんというか、王に妄執もうしゅうするだけど哀れな男に見えてきてしまった。

それに、生き方がどことなく俺と似ている。


「じゃあ、俺の手下としてスパイ活動してもらおう。それで信用を勝ち取ってよ」


「スパイ? 何のことかはわかりませんが、あなた様のお役に立てるなら喜んで」


――ニコリと笑う、ビジュの良すぎる男。


「それはお前の同族を裏切るということだが、その覚悟はあるんだな?」


「王との盟約を忘れて人間の血を啜る者たちです。構わないのでは?」


「盟約、ね……。まあ、お前が使える存在なら、俺はお前を利用するまでだ」


「もちろん、かまいませんよ」


「まったく頭が固いんだから。ごめんね、ジークハルト」


「気にしていませんよ。そう思われるだけのことを、我々は行ってしまったのでしょう」




◇◆◇




結局――ゾルデは折れた。


ただし、ある条件付きだ。

その条件とは、ジークハルトの血を貰うこと。


血痕羅針ヘマコンパス》という、灰の魔女だけが作れる魔道具があるらしい。

追跡対象の血液を要するが、それにより居所が分かるのだという。

俺が追われたのも、どうやらその道具の力らしい。


(この男――そんなものを、俺に黙って持っていたのか!?)


どうりで、他国まで逃げたのにすぐに追いつかれた訳だ。

なんて恐ろしい男! 執着深い、まるで蛇のような男だ。

ドン引き! ドン引き!


しかし、ジークハルトは抵抗することなく血を数滴差し出した。

「これで信用を得られるなら、お安い御用です」とのことだ。

それにより、ゾルデは溜飲りゅういんを下げた。


ジークハルトの最初の任務は、吸血鬼界の動向を探らせることだ。

特に、《血薔薇の女王ローゼリア》の配下たちが集まっているという噂について。

また交易都市のような大規模襲撃は避けたい。

その兆候があるなら、ぜひ掴んでおきたい。


俺たちはこのまま首都ルミナスを目指し、クロードを討つ。

ジークハルトはここで別れて、一人で情報収集だ。


「では――王子よ。必ずや有益な情報を持ってまいります」


「うん。期待してるからねジークハルト!」


ニコリという笑みを残して、ジークハルトは闇に溶けた。


「ふぅ……とんでもない配下を持ったもんだな」


「まったくだよね」


それに関しては同意見だ。

人間の血を吸わずに、あれだけの力を秘めている吸血鬼。


彼を仲間として信用するかは、まだこれからだが。

少なくとも、嫌いなキャラではなかった。


敵にならず、これから活動してくれるならありがたい。

なんせ――彼は、初めて自分で選んだ俺の配下なのだから。


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