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第42話 「癒しの光」


(そこそこ強いな。しかも二体同時は……ちょっと面倒かも)


吸血鬼の女たちは、ノアを中心に円を描くように動き回っていた。

的を絞らせず、ひとたび隙を見せれば襲い掛かるつもりだろうか。

とはいえ、脅威と呼ぶには遠い。


「まさか……“王の血”が自ら姿を見せるなんて!」

「ふふっ、これでクロード様に褒めていただける……!」


喜色を浮かべ、興奮すらしている。


「随分嬉しそうにして……もう勝った気でいるわけだ。

でも残念。そのクロードなら、尻尾巻いて逃げたよ」

「馬鹿な……っ! そ、そんな……!」


振り返った女吸血鬼の表情から、血の気が引く。

感覚でわかるのだろう。そこには確かにクロードの気配がない。


「可哀想だけど……君たち、見捨てられちゃったみたいだね」


ノアは抑えていた血のオーラを膨らませて告げた。

ようやく彼女らも力量の差を感じ取ったようだ。

その顔に恐怖が浮かぶ。


「おい、ノア。独り占めする気か?」


傷を押さえながら屋根に立っていたのはゾルデだった。

治癒の途中ゆえにまだ満身創痍だが、眼光だけは鋭い。


「ゾルデ。無理しなくていいよ。そっちで休んでなよ」

「ふざけんな。これ以上お前に貸しなんざ作れるか。お前こそ引っ込んでろ!」

「嫌だね。貸しを返し終わるまでは、俺への攻撃は禁止だからね~」


軽口を叩く二人を尻目に、吸血鬼たちが一斉に飛びかかってくる。


「君たち運が悪いよ。ゾルおじは、今ちょっと怒ってるみたい」

「ゾルおじだと!? てめぇ……コイツらのあとは、やっぱりお前だ!」

「無茶しないでよ。もうポーション残ってないんだし。

……ボロボロの誰かさんにあげちゃったせいでね」


ゾルデに飲ませたハイポーションのことを、嫌味たっぷりに思い出させてやる。


「……よくわかった。お前は本当に俺を怒らせたいらしい」


次の瞬間、蒼白の雷がゾルデの全身に噴き上がる。


《怒りの神雷》――

ゾルデの代名詞ともいえる、最高位の身体強化魔法。


「な、なんて魔力量……!」

「早く逃げるわよマリーゴールド!」


焦り、背を向けようとする吸血鬼たち。


「あぁ〜無理無理。ゾルおじは執念深いんだから」


退路に回り込み、ノアが立ちはだかった。

前門の虎、後門の狼だ。逃げ道はない。


そして、その“手負いの狼”はあまりに獰猛どうもうだった。


「ゾルおじ! 分かってると思うけど、まだ共闘中だからね! 俺は敵じゃないからね!」

「あぁ、分かってるさ。まぁ、手がすべって首を跳ねちまうかもしれねぇけどな!!」


雷光が弾け、夜気が刃のように裂けた。

気づいたときには――マリーゴールドが焼断されていた。


「うわっ……手負いの奴がしていい動きじゃねぇだろ」


ノアがかろうじて目で追えるほどの速さ。

これが《雷帝ゾルデ・グリムアント》。

ハッシュベルト国で知らぬ者はいない、本物の戦鬼。


ノアが内心でゾルデを散々おちょくってきたことを、

静かに、深く、反省しながら――

もう一体が雷閃に呑まれて散るのを眺めていた。




◇◆◇




「すまねぇ、遅くなった……! 大丈夫かお前ら!?」


ゾルデは肩で息をしながら、団員の安否を確かめていく。

そして――クロエが必死に治癒魔法を送り込んでいるリゼンの姿が目に入った。


「嘘だろ……リゼン!!」


転がるように駆け寄る。意識はなく返事はない。

肌は死人みたいに青白く、呼吸も酷く弱々しい。

どうにか繋がっているが、糸一本が切れれば落ちる崖際のようだ。


「向こうは片付いたよクロエ。治癒の方はどう?」

「ノアさん……! 傷が深すぎて、私の初級魔法ではどうにも……。

血も失いすぎてて、このままじゃ……」


言葉の端が震えていた。

魔力切れ寸前のせいか、彼女の額から汗が絶えない。相当頑張ってくれていたのだろう。

クロエの表情を見るだけで、状況がどれほどまずいか分かった。


「誰か、治癒魔法を使える人はいないの!?」


ノアは周囲を見渡す。

対吸血鬼の集団なら、光魔法の使い手も多いはずだ。

だが、皆が顔を伏せた。


「治癒魔法のスペシャリストが、そのリゼンさんなんだ……。

俺たちも魔力を全部つぎ込んじまって、もう残ってねぇ」

「傷が塞がっても、どのみち血が足りねぇ。これじゃ……くそ!」


地面を叩く拳の音が、薄い夜気に響いた。


ノアはひとつ息を吸う。


「そういうことか。ゾルデ……今から俺がすることを見ても攻撃するなよ」

「おい! てめぇ、なにをする気だ!」

「この人を、救うんだよ」


ノアは膝をつき、リゼンの血溜まりに指を触れた。

魔力の気配と温度を確かめるように、口へ運ぶ。


「なっ……! こんな時に!!」


大切な仲間の血を吸われる。

ノアの行動を見て、団員の怒声が飛ぶ。

抜きかけた武器のつばが、月光を弾いた。


「待ってください! これは違うんです!」


クロエが両腕を広げ、必死の顔でノアをかばう。


ゾルデは一瞬だけ驚くが、すぐに冷静な目に戻した。

これは“ただの吸血”じゃない。

ノアが意味もなく――人間でいようと足掻いている今の自分を壊すような行為をする男じゃない。

そんな理解が、ゾルデの胸に薄く灯っていた。

しかし、何をしようとしているのかまでは分からない。


「お前たち、今はコイツに懸けるしかねぇ。

殺すのは、ダメだった時でも遅くねぇ」


ゾルデの一言で、怒りがぐっと押し止められる。


ノアは周囲の視線を気にも留めず、静かに血を分解・吸収・解析をはじめていた。

血がもつ情報――魔力の性質、制御の癖、そして治癒魔法の理論までもが雪崩れ込む。


『光魔法:上級』が、手の中に吸い込まれるように発動可能となる。


そして、火・水・雷・光・闇の"五大属性”と、氷魔法という“おまけ”まで揃ったことになる。

必ずや、何かが起こる確信があった。


魔力の流れが体内で重なり、共鳴を始める。

何かとてつもない力が、生み出されようとしていた。


そして芽生えた力――《全相魔導オムニ・アーケイン》。


あの時、『火・水・雷魔法』が共鳴して習得した、『万象操者エレメンタルマスター』ですら万能感があった。今回はそのさらに上位スキルだと悟る。

魔力の操作が、一切の無駄なく、呼吸みたいに自然にできてしまう。

この力を使い、今からリゼンを救う。


ノアは顔を上げると、クロエに笑いかけた。


「ありがとう、クロエ。あとは俺に任せて」

「ノアさん……!」


限界まで治癒魔法を使い、そして俺を庇ってくれていた。

間違いなく、彼女がいなければ手遅れだっただろう。


「――《癒光聖奏ヒール・オラトリオ》!」


足元に光の魔法陣がひらく。

漂い出した光粒は音を孕み――まるで聖歌のように響く。

細胞が音色に合わせて組み上がり、裂けた肉までもが繋がっていく。


「これは……! リゼンの治癒魔法っ!」


ゾルデが目を剥いた。

理解が追いつかない、そんな顔だ。


それも当然だ。

これはリゼンが生涯をかけて独自に“作り出した”治癒魔法なのだから。

他の者が、まして半人半魔の吸血鬼が使える魔法ではない。


しかし、光の旋律は止まらない。

ノアの魔力が膨大な速度で流れ出て、傷を塞ぎ、欠損した肉の形を整えていく。

その力は、術を生み出したリゼンすら凌ぐ。


本来、光魔法が使える者でも、治癒魔法を使えるとは限らない。

それは、この魔法に求められる精密さに由来する。

生半可な魔力コントロールでは出来ない魔法で、才能が求められるのだ。

それが、最上位の治癒魔法ともなれば尚の事である。


初めて使う治癒魔法が、その最上位の魔法など前代未聞である。

そんな不可能を可能にしたのが、『全相魔導オムニ・アーケイン』による能力強化に他ならない。

まるで、歴戦の大賢者のように魔法を当然の如く扱えるのだ。


しかし、スキルで魔力量まで増える訳ではない。

絶大な効果を発揮する半面、消費する魔力量も甚大だ。

内に溜めていた膨大な血液を、魔力に変換しつつ消耗する。

ノアは出し惜しみすることなく使っていく。


「これでどうだ……!」


完治とはいかないが、傷の大部分が塞がった。

リゼンの呼吸が、ひとつ深くなった。

死の淵からは引き戻しただろう。

だが、依然として油断出来ない状態だ。


「後は血液だ。輸血しないと持たない。俺の魔法で血液を移します!」


その瞬間、周囲がざわつく。

次々と、団員たちが自らの腕を差し出した。


「ノア! 俺の血を使え!」


ゾルデも例外ではない。


「馬鹿言わないで。ゾルデも血が足りてないでしょうが!」

「そうだ兄貴! おでの血を使ってくれ! おでなら全然平気だ!」


ゾルデを押しのけるように、バルバルが前に出る。

たしかに、この巨躯なら一リットルくらい抜いても大丈夫そうだ。


ノアは頷いた。


「血液型が違うと、体内で免疫によって敵だと判断されて攻撃されちゃうんだ。

味見して安全そうな人の血を移します! 誤解して俺を攻撃しないこと!」


血液型や免疫というワードに、誰も理解は追いつかない様子。

それでも、俺たちの行動を見て、信じるに値すると思ってくれたようだ。

彼らは大人しく指示に従い、抵抗することはなかった。


ノアはバルバルの血を舐めて、リゼンとの血の適合を確認。

静かにリゼンへの輸血を始めた。

徐々に温かみを取り戻す肌を見て、団員たちから安堵の声がもれた。


――闇夜の片隅で、ひっそりと命が繋がれた。



久々のステータスを記載します。

万象操者エレメンタルマスター』『属性耐性エレメンタルレジスト』『全相隔絶エレメンタルイミュニティ

勝手に漢字を追加することにしました。

全体的に分かりにくかったら、ごめんなさい。


※バルバルは上級雷魔法使いなので、彼の血を舐めても新たな変化はありませんでした。



名前   :ノア 

種族   :半人半魔の吸血鬼

ランク  :Cランク冒険者

所持品  :『欠けた黒鋼剣ブラックスチールソード

      『魔導鞄マジックバッグ』『収納指輪ストレージリング

      『血命の輪』『神鹿の凍角』

固有スキル:『血神ノ紋章』

獲得スキル:『超聴覚』『超嗅覚』『超視覚』が統合――『真界感知』へ進化

      『魔力探知』と『熱源感知』  が統合――『感覚統合・色域』へ進化


      『火魔法:中級』

      『水魔法:中級』

      『雷魔法:上級』

      『光魔法:上級』

      『闇魔法:上級』

      『氷魔法:極』 


      『全魔法耐性:大』

       

      『影魔法』

      『絶対魅了アブソリュート・チャーム

   

       『火・水・雷魔法』が共鳴――『万象操者エレメンタルマスター』を習得

       『火・水・雷・光・闇魔法』が共鳴――『全相魔導オムニ・アーケイン』を習得

      

      『火・水・雷耐性』が統合――『属性耐性エレメンタルレジスト』へ進化

      『火・水・雷・光・闇魔法』が統合――『全相隔絶エレメンタルイミュニティ』へ究極進化



      『衝撃緩衝』

      『毒耐性:中』『麻痺耐性:中』


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