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第10話「新米冒険者」


「よぉ~し、よく集まったなお前ら。俺は新人の教育担当に選ばれたアンクルってもんだ。

 こう見えてAランク冒険者だ。よろしくな!」

「「よろしくお願いします!」」


ここは冒険者ギルドの訓練室。

アンクルはごつい体に無精ぶしょうひげ、短く刈った金髪が陽に焼けた肌に映える。

背に大剣を背負った姿は、まさに“現役の猛者”といった風貌だ。


「まずは2人の自己紹介をしてもらおうかな」

「はい、カノンです。齢は18歳……剣士志望で、得意魔法は火魔法です!」


カノンは明るい赤髪の青年だ。燃えるような瞳が印象的で、声も芯がある。

彼も俺と同じ、冒険者登録したばかりのEランク冒険者だ。

買い揃えたばかりの汚れを知らない装備が、俺を見ているようで恥ずかしくなる。


「俺はノア。齢は……16才です! 得意魔法は闇魔法です!」


本当は火と雷の魔法も使えるけれど、苦手だから嘘は言っていない。

余計なことは言わないに限る。


「おぅ! よろしくな――ノアは16才か、年齢のわりに若く見えるが、サバ読んでねぇよな?」

「童顔なだけです!」


実年齢は5歳なんて、言おうものなら終わりだ。

見た目はせいぜい13歳。今後を考えて16才という嘘は、ギリギリ通用する設定である。


「じゃあ、さっそく新人恒例のチュートリアルを始めるとするか!」


……さて、なんでこんなことになったのか。


すべては、受付嬢メリアさんの一言からだった。

どうやらギルドは、新人の死亡率低下を目的に「チュートリアル講習」を導入している。

熟練冒険者が指導者となり、実戦訓練に同行しながら基礎を叩きこんでくるらしい。

俺に「ぜひとも受けなさい」と助言を頂いた。


――講習は3日間。

ちなみに参加は無料。

参加は強制ではないが、一応ギルドポイントも少し得られるため、ほとんどの者は参加している。

これを機に、気の合う奴を見つけ、新人同士でパーティーを組むことも多いそうだ。


1日目。

まずは検査と座学から始まった。


検査とは――自分の適性属性を調べる検査だ。

水晶に魔力を流し込み、そこの色で適性属性を判断する。

俺は黒と白の光が渦巻いていた。つまり、闇と光魔法に適性を持っているらしい。

二属性持ちが極端に珍しい訳ではないが、相反する闇と光は珍しいと言われた。

厨二心にぶっ刺さる奴が手に入って嬉しいかぎりだ。


その後は必要装備の講習から始まり、冒険者としての心構え、金銭管理、信用できる店の見分け方などを学ぶ。興味のあることなら、座学でも楽しいものだ。

午後は実際に街を歩きながら装備店や道具屋を巡り、粗悪品を見抜くコツを教わった。

何の知識もなかった俺にとって、目から鱗なことばかり。これは本当にありがたかった。


2日目。

実践――まずは簡単な『薬草採取クエスト』だ。

依頼書の見方、依頼の受け方や、依頼選びのポイントなどを学ぶ。

その後は、実際に草原や森に入って、主要な薬草の見分け方などを教えてもらう。

毒消し草や、食べれるキノコ、森での水の確保方法など――

どれも実地ならではの知恵ばかりで、アンクルさんの見識の深さに驚かされた。

優しい人で、あとで持っている本をいくつか貸してくれると言っていた。


3日目。

最終日は、『Eランク魔物の討伐依頼』だ。

つまり、スライムの討伐である。森に入ってブルースライムをサンドバックにする。

昨日よりも多少は森の深くまで入り、拠点づくりや野営の注意点などを教わる。

午後には、アンクルさんがDランクの魔物を仕留めるのを見学。

魔物の剥ぎ取り方、売れる素材とそうでない素材の違いなどを説明される。

どうやら俺は、宝の山を捨てて歩いていた事実が発覚し、かなり絶望した。


依頼報酬、魔石、素材――その3つの合計が手取りとなる。

報酬だけに釣られて、魔石もない魔物や、売れる部位のない魔物ばかり狙わないように教えてもらった。

「悩んだら、とりあえず剥ぎ取って魔物素材売買所に持っていけ」アンクルさんの金言である。

彼もまた、そうして売れるかどうかを学んでいったのだ。


ギルドに戻り、依頼達成の手順などを再確認しチュートリアルは終了だ。

人との関りも楽しかったし、何よりとんでもなく学びの多い3日間だった。



◇◆◇



――カノンはいい奴だった。


明るいし、話も合う。真面目で、強くなろうという向上心もある。

もしも俺をパーティーに誘ってきたらどうしようか……?

誰かと一緒に行動すれば、俺の“血魔法”は絶対に見せられない。

だから、もし誘われても断ろう。俺はソロ冒険者でいた方が安全なんだ。


でも、もしも“強く”誘われたなら……。

その時は、一緒に冒険するのも悪くないかもしれない。




そんなことを悩んでいた時期が、私にもありました。


カノンは俺なんてまったく誘わなかった。

あっという間に、別のパーティーに入っていた。

しかも、よりによって先輩の美人冒険者に可愛がられてる。

はぁ? なんだあれ、肩とかポンポンされて笑ってんじゃねぇよ。


……いや、別に嫉妬とかじゃないよ。全然。


ただ、なんかこう、心のどっかに空いた穴から、信頼とか期待とか……そういった何かがこぼれていっただけ。チュートリアルが終わったら、皆それぞれの道を歩む。それが当たり前だ。

わかってる。わかってるけどさ。


もうちょっと何かないの?


ギルドの窓口でひとり依頼書を眺めてると、急に孤独を感じる。

みんなの笑い声が、ひどく遠い。


いいもん。俺はソロ冒険者としてやってきます!


この世界では、Eランク冒険者はもちろん、Dランクも新人とみなされる。

つまり「死なないための習慣」が身に付いていない者を指す。

冒険者として1年以上経過し、Cランクに上がれたならば一人前。


この最初の1年間を受付嬢たちは「お祈り期間」と呼ぶ。

可愛い新米たちが死なずに戻ることを、彼女たちはいつも祈っている。


Eランクの死亡率は7%ほど、比較的少ない。薬草採取等で、気づいたら森の奥に入り過ぎて死ぬ。

Dランクの死亡率は25%ほど、討伐依頼が増える。仲間との連携が不十分なくせに、下手に信頼し合って死ぬ。

Cランクの死亡率は18%ほど、経験を積み安定。実力も伸びている。敵もそこそこになるので、適度に死ぬ。

Bランクの死亡率は23%ほど、ここらで上を目指すか、現状維持で満足するかが分かれる。上を目指すと死ぬ。

Aランクの死亡率は10%ほど、装備・経験・実力ともに十分な熟練者たち。敵が強くても、死亡率は低い。

Sランクの死亡率は4%ほど、昇り詰めた天才たち。油断する者など居ない。指導者など、戦いから離れる者も。


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