7 騎士団長と猫
7話
《無限収納》からグロームベアを出す。
「なんと……凄まじいな。レイヴァリア殿がこれを?——いや、聞くべきではないな。忘れてくれ」
騎士団長エレミア・フェルスターは言葉をなくし、目を丸くした。
エレミア殿が緊急性も危険性もないと判断し、他の騎士たちは帰っていった。
重騎士の一人——ワシがぶっ飛ばした大男は、最後までワシを睨んでおったがな。
カカカ。
何じゃあの殺気は。
あれじゃ小虫にも相手にされまい。
ワシがちょっと本気の殺気を放てば、飛んでいる鳥の群れを気絶させることも可能なのじゃぞ?
「……ドラソンめ。自分の行いを棚に上げて、逆恨みしおって——すまぬな、レイヴァリア殿。
あやつはウチの副隊長なんだが、問題行動が多くてな」
「カカカ。よいよい。多少血の気が多くなければ戦士は務まるまい。
で、ワシは集落に入れるのかのう?」
「貴殿、本当に5歳なのか?——もちろん、私の名のもとに許可しよう」
「そうかそうか。感謝するエルミナ殿」
「それで、レイヴァリア殿は街に入って行くあてはあるのか?」
「とりあえず普通に冒険者ギルドに行って、熊畜生を引き取ってもらうついでに冒険者登録をするかのう。それが普通よそ者のなんじゃろ?」
「——おそらくトラブル必至だろう。レイヴァリア殿は目立ちたくないと言うが……。
その姿と年齢に加え、無傷のグロームベアを持って、となるとトラブルにならない未来が見えない」
「む?それは困ったのう」
冒険者ギルドの登録で与えられる『冒険者ギルドカード』なるものは旅人には便利なものらしいので、なんとか手に入れたいのじゃが。
「そこで提案なのだが、私がついていこう。
代わりと言ってはなんだが——」
なぜか下を向いて照れくさそうに顔を赤らめておる。
「その、そなたの獣魔であるアビー殿を触らせてほしいのだ。
い、いや!無論アビー殿が嫌がるのであれば諦めよう。
私は雰囲気がいかついせいか、昔から馬以外の動物に嫌われやすくてな……ふ、ふふ」
「なんじゃそんなことか。
アビーよ、大きくなってエルミナ殿をもてなすが良い」
「にゃー!」
アビーが馬サイズになると、エルミナ殿を体で包みこんだ。
「ふわ!? ア、アビー殿、私が……怖くないのか?」
「にゃ」
「アビー殿……ふぉー! 辛抱たまらん!」
エルミナ殿がアビーに抱きついて、顔を首元に埋めてグリグリした。
「長年の夢が……モフモフに顔をうずめるという夢が、まさかこの年で叶うとは……ふぉー! ああ、もう死んでもいい!」
「あ、あのー。レイヴァリア様……私もいいですか?」とセレナ殿が手を挙げる。
「よいぞ。存分に愛でるが良い」
「やったー! アビーちゃん、こんなに大きくなるなんてすごい! ギューッ!」
女子二人がキャッキャとはしゃぎたてる中、ワシの後ろから申し訳無さそうな声がした。
「あの、嬢ちゃん……俺もいいかな?」