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67 セレーヌ・ヴェルシア

 67話 セレーヌ・ヴェルシア


 セレーヌには巨人族の血が混じっている。


 そのせいで、周りに比べて、セレーヌの体は大きかった。

 食事は、普通の子どもの倍は食べた。


 本当はもっと食べたかった。

 でも、セレーヌが沢山食べると、お父さんとお母さんが怖い顔をするから、我慢していた。


 父親が失踪した後、普通の貧しい平民だった母親は、セレーヌを養いきれなくなり、セレーヌを残してどこかへ消えた。


 わたしがたくさんご飯を食べるから、お母さんはわたしを嫌いになったんだ、と思った。


 その頃からセレーヌは、うまく言葉を話せなくなった。

 人の顔色を伺うようになり、人の悪意に人一倍敏感になった。



 親がいなくなると、セレーヌは孤児院『ピクシーの家』に引き取られた。



 院長のベレニスさんはやさしかった。


『セレーヌは体が大きいから、沢山ご飯を用意しなくちゃね』


 ベレニス院長はそういって、本当に沢山のご飯をセレーヌの為に用意してくれた。


 生まれて初めてと思うくらい、セレーヌはお腹いっぱいご飯を食べた。

 周りの子供たちが、ぽかんと口を開けて自分を見ていた。

 食べ終わった後、しまったと思った。



 怖くなって、セレーヌは逃げた。

 孤児院を飛び出し、林の奥に隠れて泣いた。


 また嫌われてしまった。

 調子に乗って、沢山ご飯を食べてしまったからだ。


 もう孤児院へは帰れない。

 みんなから怒った顔で見られるなんて、怖くて耐えられない。


 こんなわたしなんか、消えたほうがいい。


 そう思ったとき、声がした。


「こんなところにいたのね。探したわよ」

「体がでかいから、すぐ見つかったし。ウケる」

「なにか事情がありそうですけど、とりあえず帰りますわよ。院長先生が心配してますわ」


 そこにいたのは、3人の女の子だった。

 3人は、セレーヌを見つけ、心の底からホッとしてる様に見えた。


 セレーヌはその優しさが……その優しさこそが怖かった。

 優しい人がセレーヌのせいで怖い人に変わる。——それが恐ろしくてたまらなかった。


「か、帰りません。わ、わたしは沢山食べちゃうから……」


 セレーヌが決死の覚悟でそう言うと、3人は顔を見合わせた。


 そして「プッ!」と銀髪の子が吹き出したのを合図に、3人は笑い出した。


「あはは!なにを悩んでいるのかと思ったら、そんなことだったの!?」

「キャハハ!たくさん食べるから帰らないって、超ウケる!」

「ホホホ!思ったよりくだらない悩みで驚いてしまいましたわ!」


 3人の言葉にセレーヌは腹がたった。


「わ、笑わないで!あ、あなた達になにがわかるの!」


 こんなに怒ったのは生まれて初めてだった。

 そんなセレーヌの怒りを、銀髪の子が笑って受け止めた。


「わかるわよ。あんたが考えすぎだってことくらい」


「か、考えすぎ?」


 今度は水色髪の子が言った。


「アンタが他の2倍食べようが、3倍食べようが、院長先生は気にしないし。むしろ喜ぶくらいだし」


 次は白金髪の子が言った。


「ベレリス院長は、子供たちにお腹いっぱい食べさせることに生きがいを感じている変わり者なんですわ。院長が沢山の人から慕われてるお陰で、毎日食べきれないほどの食べ物が寄付されてますの。むしろ食料が余って困ってるくらいですのよ?」


「……わ、わたし、お腹いっぱい食べてもいいの?み、みんなから怒られないの?」


「なに言ってんのよ。そんなの当たり前じゃない」

「文句言うやつがいたら、アタシがぶっ飛ばすし」

「人より沢山食べるのが心苦しいというのなら、人より沢山働けばいいだけですわ」


 セレーヌはビックリして顔を上げた。

 3人の言葉には、嘘も、誤魔化しも、綺麗事もなかった。

 今までセレーヌが怯えていた『人の悪意』を、3人から微塵も感じなかった。


「私はヴィオラよ」銀髪髪の子が手を伸ばした。

「ウチはイリス。これから、よろしくね」水色髪の子も手を伸ばした。

「わたくしはリリエットですわ。よろしく、セレーヌさん」白筋髪の子も手を伸ばした。


 セレーヌは両手で3人の手を握り、起き上がろうとして——


「「「わわわ!」」」


 逆に3人を引っ張ってしまい、全員が地面に倒れ込む。


「だ、大丈夫、みんな?」


 セレーヌは、大きな体で3人を受け止めた。


「……締まらないわね、私達」

「ま、まぁいつも、こんな感じだし」

「お、思った以上に重かったですわ」

「ご、ごめん、重くて」



 この日、セレーヌに3人の親友ができた。


 今にして思えば、このときだったのかもしれない。


 セレーヌが『命に変えてもこの3人を守る』と心に誓ったのは。



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