64 レオン
64話
「っ!?」
レオンは激痛に目を覚ました。
大声を出しそうになったが、歯を食いしばり、耐えた。
怖かったけど、冷静に状況を確認する。
周りは暗く、壁の上にある光取りの窓だけが明るい。
体は……まったく動けない。
暗闇に目が慣れ、よく見ると、両腕を後手で柱にくくりつけられていた。
激痛の元である右親指を他の指で探る。
だが、そこにはなにもなかった。
しばらくして、切り落とされたのだと気付く。
泣き叫びそうになった。
だが声は出さない。
無理やり呼吸を整え、周りを見渡す。
首を後ろに回すと、ミリナとユリが、レオンと同じように柱へ縛られていた。
二人は意識を失っているようだ。
声をかけて起こそうとして、止めた。
眠ったままなら、その方がいい。
怖い思いをするのは自分だけで十分だ。
レオンはそう判断した。
古い建物だった。
長い間誰も住んでいなかったのだろうと、たくさんの蜘蛛の巣や、厚く積もったホコリが、物語っている。
レオンは気絶する前の記憶を思い起こす。
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乱暴を働いた罰として、ギルは昼飯を抜かれたんだ。
僕はパンを隠し持って、ギルを探していた。
ギルは食事にうるさい。
体を大きくして、冒険者になるためだ。
僕はそのことを知っていたので、パンをこっそりあげようとしていたのだ。
だが、どれだけ探しても、ギルの姿はどこにも見当たらない。
昨日は夜遅くまで帰ってこなかったが、今にして思えば、この誘拐劇を誰かと計画していたんだろうな。
そのとき外からミリナの叫び声が聞こえた。
急いで駆けつけると、なんとギルがミリナを抱え、ナイフを突きつけてたんだ。
ユリもいたが、どうしていいかわからないのか、立ったまま動けないでいた。
僕はギルの暴挙を止めようとして……。
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レオンの記憶はそこで途絶えていた。
つまり、誰かに殴られたのだろう。
後頭部の痛みがそれを証明している。
これから僕達はどうなるの?
ギルはどうしてこんな真似を?
ここはいったいどこなの?
そこまで考えると、レオンはあることを思い出す。
もしかして『スノーレギンス』と『ブラッドハウンド』の決闘が関係しているのか?
レオンがそのことを知ったのは偶然だった。
レオンが夜中、トイレに起きたとき、台所から話し声が聞こえたのだ。
『大丈夫なの、ヴィオラ?』
『平気よ、私達すっごく強くなったんだから。クラリス姉さんは心配症ね』
『心配するに決まってるでしょ。相手は『ブラッドハウンド』なのよ?つい最近までAランクだった相手と決闘だなんて、無謀すぎるわ。——もしかして、孤児院のために無理してるんじゃない?』
『無理はしてないわ。でも、元はと言えば私のせいなんだし、ちょっとは力になりたいじゃない』
『あなたのせいって、ヴィオラ、それは——誰か、そこにいるの?』
ここまで聞いて、レオンは聞き耳がバレてしまった。
このときの会話で、ブラッドハウンドとヴィオラ達が決闘をすることを知った。
決闘はいつなの?
どうして決闘するの?
クラリス院長にいくら聞いても、教えてもらえなかった。
レオンの推測が正しければ、レオン達は『ブラッドハウンド』の連中によって人質となったのだ。
他に考えられない。
奴隷として売るのなら、親指を切り落とすなんて論外だもん。
だって、親指のない奴隷の価値は激減するのだから。
わざわざ商品の価値を落とすバカがいるのなら、話は別だけど。
そういえば、ギルは『ブラッドハウンド』に憧れていたな。
あ……つまりそういうことなのか。
レオンの疑問は確信に変わった。
ギル……バカなやつだ。
どんなうまい話をされたのか知らないが、子供の指を平気で切り落とす奴が約束を守るはずないだろう。
誘拐犯からすると、どう考えても、ギルを生かしておく理由がない。
だが、ギルを生かさないってことは、レオン達も生かしておけないってことだ。
特に、指を失い奴隷として価値の低いレオンは、もう終わりだろう。
見た目が悪く、犯人の顔を知っているギルなんて、終わりじゃない理由があったら聞きたいくらいだ。
だが、ミリナとユリは違う。
売られる可能性がある。
二人は見た目がいい。
つまり商品価値が高い。
奴隷として売られるのなら、最低でも生きてはいける。
辛い目に遭うかもしれないが、死ぬよりはずっといい。
レオンは光差す窓を見上げ、祈りを捧げた。
「女神アウレリア様、お願いします。
どうかミリナとユリの命をお救いください。
対価が必要ならば僕の命を捧げます。
ソルディナの導きのもとに――この願いを託します」
祈りを終え、レオンは目を閉じた。
脳裏に浮かぶのは一人の少女の姿。
「最後にもう一度会いたかったな」
そのとき窓の光がさっと遮られた。
目を開けて、光のあった方を見上げる。
窓の外になにかいる。
あの輪郭は……猫?




