52 ロギスの末路
52話
「……きろ。……きぬか」
それは汚れの一切ないような透き通った声だった。
「さっさと起きぬか!」
「ん……」
ロギスが目を開けると、信じられないほど美しい女が立っていた。
「…………っ!?」
ロギスは絶句した。
女の金髪と金瞳はまるで太陽の力を宿したかのように輝いている。
年齢は20歳前後だろうか。
女の肩に佇む黒猫は、じっとロギスを見つめ、その深い黒瞳にはロギスへの隠そうともしない敵意が映し出されていた。
「なにを呆けておる。自分の状況がわかっておるのか?」
言われて、気がついた。
「なっ!?」
ロギスは体を木にくくりつけられている。
さらに地面には二人の男——仕事の手伝いを依頼した荒事師——が両手両足をあらぬ方向に曲げられ、泡を吹いて倒れていた。
「お主はあの可愛らしくも普通の少女であるレイヴァリア嬢を襲おうとして失敗したのじゃ。理解できたか?」
ロギスの額に大量の汗が滲む。
ヤバい。
とてつもなくヤバい。
先日、ファルトンが雇った連中を治療院送りにしたのは間違いなくこの女だ。
両手両足をブチ折られて転がっている奴らからして、間違いない。
もちろんそれもヤバいが、本当にヤバいのは今のオレの状況だ。
なぜオレだけ無傷なのか。
なぜオレにだけ姿を見せたのか。
答えは一つしかない。
どうせ殺すからだ。
ならやることは決まっている。
「すまねぇ!あのお嬢様が可愛くて、つい魔が差しちまったんだ!
も、もちろんひどいことをするつもりなんて、これっぽっちもなかったさ!
ただ、その……話を、そう、話をしたかったんだ!」
「ほほう。レイヴァリア嬢が可愛くてただ話をしたかったと?」
「う、嘘じゃねぇ!」
「ふむ。では、次の質問じゃ。
レイヴァリア嬢が眠っておる宿屋には経営者の親子が住んでおる。
もしその親子に見つかったら、どうするつもりだったのじゃ?」
「オレ達はプロなんだ!
見つからないようにやっていたさ!
もし見つかっても、騒がないように口をふさいで、怪我をしないように縛るだけだ!
頼む!信じてくれ!」
「嘘ではないな?」
「女神様に誓う!」
ロギスは女の目をジッと見る。
今のロギスを見て、嘘をついていると思う人間はいないだろう。
それほどまでに、ロギスはウソをつくことに長けていた。
こんな若い女を騙すなんて造作もないことだった。
「なるほどのう。その言葉が真実ならば、お主の拘束を解かねばなるまい。
じゃが、見ての通り、ワシはか弱い乙女なのじゃ。
自由になったお主に襲われたらひとたまりもあるまいよ」
いい流れだ。
このまま押し切れる。
冷静に考えたら、この状況を作ったのは眼の前の女であり、か弱いとは真逆の存在なのだけれど、女の儚げで異次元の美しさが、ロギスの判断を大幅に鈍らせていた。
「襲わねぇ!襲うわけねぇ!
オレは女には優しいんだ!
絶対に女には暴力を振るわねぇって心に決めてるんだ!」
「ふむ。それも嘘ではないと?」
「もちろんさ!」
「なにを賭ける?」
「は?」
「もし嘘だとわかったら、なにを差し出すか聞いておるのじゃ。
例えば、そうじゃな。『命』とか」
「もちろん、命を賭けたっていい!
オレは嘘をついてない!信じてくれ!」
「ふむ」
女の表情が柔らかくなった。
——落ちたな。ちょろい女だ。
ロギスは勝利を確信した。
ロギスは嘘が上手い。
自分以上に嘘が上手いやつに会ったことがない、ってくらいに上手に嘘をつく。
勝った。
今回も生き延びた。
そう思ったとき、女が笑った。
「カカカカ。言ったな?命を賭けると。
——これより嘘を禁ずる《半神の告解》」
女の目が怪しく光る。
神秘的な輝きに、ロギスは意識を持っていかれそうになった。
これは魔法か呪いの類なのか。
やがて女の目から光が消えると、ロギスの頭は妙にスッキリしていた。
耐えた。
よくわからないが耐え抜いた、とロギスは思った。
——なにをしようとしたのかわからんが、オレをナメるな。
「さて、もう一度聞くぞ?
拘束を問いたら、お主はワシをどうするつもりじゃ?」
なぜ同じ質問を?
しつこい女だ。
ロギスは前回同様の適当な嘘を口にしようとして——
「もちろん◯すさ。
そのきれいな服をビリビリに破って、〇〇を○○○に突っ込んだ後で気が済むまで◯し尽くしてやる!
ヒヒヒヒ!」
——は?
「次の質問じゃ。
宿屋に押し入った際、宿屋の家族三人に見つかったらどうするつもりだったのじゃ?」
「もちろん殺すさ!
娘が好みの女だったら、たっぷり楽しんだ後にな!
ヒヒヒヒ!」
——ちょっと待て! オレはなにを言ってるんだ!?
「次の質問は……ええい、面倒じゃ。
お主が今までやってきた悪事を順番に言うがよい」
「そうだな。初めて人を殺したのは9歳のときで……」
ロギスは今まで犯してきた犯罪の全てを包み隠さず白状した。
野菜泥棒から殺人まで、全部だ。
長い時間をかけて全ての告白が終わる。
次に、なぜか初めての友達の話や、友達の作り方や、初恋についても聞かれた。
「ふむ。つまりお主は今までに18人の罪のない人間を殺し、
26人の女を無理やり〇〇し、窃盗痴漢については数えきらないほど、というわけじゃな」
「……そうだ」
「罪の意識は?」
「ない。あるわけねぇ」
「よくわかった。
貴様は生まれついてのクズじゃ。
貴様に生きる価値はない」
「ど、どうするってんだ!
オレを、こここ、殺す気か!?」
「カカカ。今まで18人も殺しておいてよく言えたものじゃ。
じゃが安心するがいい。殺しはせん。
それどころか貴様はこの先何十年と生き続けるじゃろう」
「それはどういう意味——ガッ!」
見えないなにかが、ロギスの顎を打ち抜いた。
意識が消える間際、ロギスは女の声を聞いた。
「三食昼寝付きのハーレムへご案内じゃ。
ただし貴様は〇〇される側じゃがのう。
せいぜい楽しむがよい」




