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39話
村の中央広場が人で溢れかえっておる。
この人数、なかなか圧巻じゃな。
集められた村人たちは前方を見つめ、ザワザワと騒いでいる。
視線の先には巨大なフレイムゴーレムの残骸、そして動かなくなった貴重な魔物の山があった。
「みんな聞いてくれ!」
急ごしらえの壇上で、ゴルム殿が大声で村人に呼びかけた。
「見ての通り、オレ達を苦しめてきたフレイムゴーレムは討伐された!」
途端に湧き上がる歓声。
興奮して飛び上がる者。
抱きつきあって涙する者。
どさくさにまぎれて隣の娘へ抱きつこうとしてひっぱたかれる者など、多種多様の喜び方があった。
歓声が落ち着くのを待って、ゴルム殿が言った。
「この恐ろしい魔物を倒したのはBランクの冒険者『スノーレギンス』の——」
ゴルム殿の合図で、4人娘達が前へ出る。
「ヴィオラさん、イリスさん、セレーヌさん、リリエットさん――この4人だ!」
名前を呼ばれた順に、4人が片手をあげたり、ぺこりと頭を下げたりして応えた。
「みんな、盛大な拍手を!
ありがとう!ヴィオラさん!
ありがとう!イリスさん!
ありがとう!セレーヌさん!
ありがとう!リリエットさん!
ありがとう『スノーレギンス』!!」
鼓膜をつんざくほどの拍手が起こった。
うむ。
やるなゴルム殿。
なんという盛り上げ上手じゃ。
「ありがとう!本当にありがとう!」
村人全員が感謝の言葉を叫んだ。
「ヴィオラさん素敵ぃ!」
「イリスさんかわいい!」
「セレーヌさん結婚して!」
「リリエット様愛してる!」
村人たちの歓声にまじり、こんな声が飛び交っておった。
意外なことに、と言っては失礼じゃが、村の男衆に一番人気なのは身長2メル超えのセレーヌじゃった。
やはり鉱山村ということで、力強い女性が好まれるのじゃろうか。
つまりワシは蚊帳の外ってことじゃ。
ま、まぁ、まだ5歳じゃし、将来に期待じゃ。
というか、20歳のワシが超美人になることは確定しておるしな。
壇上のヴィオラ達と目が合う。
ふむ。
いたたまれないといった感じで、村人の歓声に手を振っておるな。
実際に魔物を討伐していない身からすると、村人たちを騙しているような気分なのじゃろう。
申し訳ないが、我慢してほしい。
それもこれもワシの『普通の生活』を守るためじゃ。
ワシは注目されるわけにはいかんのじゃ。
さらに『打ち合わせ通り』の展開は続く。
「あともう一つ、皆に伝えたいことがある!——連れてこい」
ゴルム殿の合図に、下で控えていた屈強な鉱員達が頷いた。
彼らが壇上に連れてきたのは——なんと、村長だった。
歓声がピタリと止み、村人たちは戸惑いの色を浮かべながら囁きあった。
無理もない。
壇上にいる村長の風貌があまりに異常だったからだ。
ふさふさだった灰茶の髪は真っ白になり、半分以上が抜け落ちている。
自信たっぷりだった眼光は消え失せ、おどおどとなにかに怯えていた。
でっぷりとした体がなければ、村長と気が付かないじゃろう。
それくらいの変貌じゃった。
……ちょっとやりすぎたかの?
「みんな、村長の——いや、この男の話を聞いてくれ!」
ゴルム殿に促されると、村長は壇上で膝をついた。
「わ、ワタシは皆さんに謝らなくてはならないことがあります。
実は……今まで冒険者に金を払っていたって話は嘘なんです。
本当はすべてワタシが着服していました。
それどころか、鉱山の……」
そこからの村長の話はワシにはチンプンカンプンじゃった。
ウラチョウボやら、ミズマシセイキュウやら、意味がわからん。
分かる範囲で言うと、村長は村が鉱物を販売する際に、売上の一部——というには少なくない額をちょろまかしておったのじゃな。
貯めに貯めたその金は、なんと12億ZLにも登る。
話を聞く村人たちの表情が怒りの様相を呈していく。
「わ、ワタシは罪を認め、着服した金はすべて村に返還します!」
村長のこの発言に、村人たちの怒りが爆発した。
つまりキレた。
「ふざけるな!」
「あたり前のことを威張って言うな!」
「引きずり下ろせ!」
「縛り首にしろ!」
村人が壇上に押しかけようして、屈強な鉱員たちがそれを抑えた。
暴動の一歩手前といった状況だ。
そのとき——。
「みんな、落ち着いて!」
壇上から涼やかな声が響き渡った。
声の主は、ヴィオラだった。
「みんなが怒る気持ちはわかるけど、村長にはきちんとした場で罪を告白してもらわなきゃいけないの!
そうしないと今度は、あなた達が裁かれることになるのよ!
だから悔しいでしょうけど、今は我慢して頂戴!」
村の救世主であるヴィオラの言葉は、村人たちの怒りを一瞬で沈めた。
壇上に上がろうとした村人たちが元の場所へ戻っていく。
ゴルム殿がコホンと咳払いをして、言った。
「村長のやったことは、聞いた通りだ!
証拠も確保してある!
そこで採決を取ろうと思う!
村長の罷免に反対の者は手を上げろ!」
シーンと静まり返る広場。
全員が村長を睨み続けている。
当然手を挙げる者はいなかった。
「決まりだな!
これにより、この男ガルディス・ブライトは村長ではなく、ただの罪人だ!
——連れて行け!」
元村長は二人の鉱員に引きずられていった。
役場の地下にある牢に入れられるらしい。
ついでに村長の補佐だったダルボ・フリッツと、ワシ達に失礼な態度をとった門番の一人が同じ牢に入れられると聞いておる。
カカカ。
ざまぁ。
「そこで次の村長だが……」
ゴルム殿が言うと、村人たちの間に再びザワザワと声が広がる。
「組合長、あんたがやってくれ!」
「そうだ! あんたが適任だ!」
少なくない声が、壇上のゴルム殿を推す。
じゃが、ゴルム殿は首を横に振った。
「オレには無理だ。自慢じゃないがオレは頭が悪い。
力には自信があるが、書類仕事はさっぱりなんだ。
みんなも知ってるだろ?おい、笑うなよ!」
村人たちの間に笑いの声が広がる。
うむ。
やはりゴルム殿は有能じゃな。
彼の持つ才能はリーダーというより、補佐や纏め役にこそ真価を発揮するのじゃろう。
「じゃあ他に誰がいるっていうんだ!」
村人の声に、ゴルム殿が待ってましたと言わん顔をした。
「オレはユーグを推す。——さぁユーグ、壇上へ」
ゴルム殿が自ら下に降り、そこにいた男に肩を貸して、再び壇上に上がった。
男の名はユーグ。
ワシ達が彫刻を買った幼い兄妹、リノとリンの父親であり、鉱山全体のリーダーだった男じゃな。
ユーグ殿の右足は、膝から下がなかった。
仲間をフレームゴーレムから逃すために失ったのだ。
別の鉱員が持ってきた椅子を壇上に置き、ゴルム殿がユーグ殿を座らせた。
「ユーグ。村長になってくれるか?
もちろんオレも全力で手伝う」
「買いかぶりすぎだ、ゴルムさん。
俺には……無理なんだ」
「なぜだ? お前のことは、この村の誰もが認めているんだぞ?」
「なぜかって? この足を見ろ。
こんな体じゃいざというとき、みんなの足手まといにしかならん。
だから……」
「ほう。つまり、足が治れば村長を引き受けると?」
「そんな奇跡が起きるわけ……いや、治るなら、引き受けよう。
治るならな」
「言ったな?
——さぁ、上がってくれ!」
ゴルム殿が壇上に呼んだのは、意外な人物——シスター・ルシェルじゃった。
さて、ここからが本番じゃ。
シスター・ルシェルよ。
お主には、成ってもらうぞ?
ワシに代わり——奇跡の体現者にな。
カカカ。




