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 村長の邸を出た途端、ワシはヴィオラ達に怒鳴られた。


「あんた、なに考えてるのよ!」


「なに、と問われると、お主達が作る夕飯がどんなものか想像しておる」


「たった50万でAランクの依頼を受けるだなんて、笑えないし……」


「イリスよ、お主達は見てるだけなのじゃから、どうでもよかろう」


「わ、わたしも、あの子達のために依頼は受けるべきだと思いますけど、さすがにこの条件は……」


「その気持ちを大事にするがよい、セレーヌよ。

 さっさと岩畜生を討伐して、あの子達を安心させるのじゃ」


「それにしても50万ZLですか……。

 依頼達成しても、一人10万ZLですわね。

 なにもしないわたくし達が文句を言うのはお門違いでしょうけれども、それでも納得できかねますわ……」


「なにを言っておる、リリエットよ。

 お主達の報酬は、約束通り一人60万ZLじゃぞ」


 ワシの言葉に、4人娘は口をポカンと開けた。

 そしてヴィオラがなぜか怒ったように言った。


「……聞き間違いかしら?

 今、あなたの口から『私達全員に60万ZLを渡す』って聞こえたのだけど?」


「確かに言ったな」


「村長は50万ZLしか払わない、って言ったわよね?」


「言いおったな。まったくふざけた男じゃ」


「もしかして、あなたは大金持ち一家の娘なのかしら?」


「家族はおらんし、宿屋の居候で、焼き菓子屋の雇われ店員じゃな」


「貯金が有り余って仕方ないとか?」


「働き始めて一月経つが、ようやく貯金が5万ZLを超えたところじゃ。

 ――じゃが、心配するでない。正しい行いをしておれば、なんとかなるものなのじゃ」


「――まぁいいわ。でも、無理して私達に報酬を支払うのは止めてよね。

 あんたに、そこまでしてもらう義理はないんだから」


「カカカ。約束しよう。無理はせんよ――ん?」



 民家の方から、作業服の大柄な男がワシらに近づいてくる?


「……あんたら、冒険者だよな?」


 なにやら男の顔は覚悟を決めた様子じゃった。

 ふむ。

 ワシが答えてもいいが、見た目が子供のワシでは信用があるまい。

 なのでヴィオラに目配せをした。


「ええ、そうよ。——あなたは?」


「オレは、鉱山労働社組合の組合長——ゴルムだ」


「その組合長さんが、私達に何の用かしら?」


「村長の家から出てきたってことは、もしかして、鉱山の化け物を倒しにきてくれたのか?」


「そうだけど?」


「村長に何か言われなかったか?その、変なこととか」


「言われたわね。報酬は50万しか出せない。それより私達に自分の相手をしろってね」


 ゴルムの顔が真っ青になる。


「すまねぇ!」


 頭を下げ、更に続けた。


「無理を承知で言うが、どうか、この依頼を受けてくれねぇか?」


 男はワシらが依頼を断ったと思っておるようじゃ。

 当然じゃな。

 300万の依頼を50万に値切られて受ける冒険者などいないじゃろうからな。

 それを知った上で……この男は依頼を受けろと言うのか?


 少しだけ腹が立ったワシは、ヴィオラの前へ出た。


「つまりお主は、安い金でワシらに命を張れと?」


「君……いや、あなた様は?」


 ワシを見る目に、怯えの色が見えた。

 ふむ?

 ゴルムもワシを貴族の娘と思っておるようじゃな。

 女神殿特製の汚れ一つないキラキラした服に、ワシの美貌じゃ。

 勘違いするのも無理はない。


 このまま勘違いしてもらったままの方が都合が良いので、話を続ける。


「質問に答えよ。ワシらに命の安売りをしろと言っておるのか?」


「い、いえ。決して、そのようなことは!」


 男の顔色がさらに悪くなる。


「ちょっとレイっち。そんな意地悪言うなし。

 おじさん、あたし達は今からその魔物を倒しに行くんだし。

 あとこの子はキレイな格好してるだけで、ただのくそ生意気なド平民だから」


「そうなのか?」


「は、はい。でも村長から50万ZLしか出さないと言われたのも本当なんです」

「正直、こんな条件で受けるのはどうかしていると思っていますわ」


「申し訳ない……だが、オレ達には、金がもう……」


「つかぬことを聞くけど、失敗した冒険者にお金を渡したって話は本当なの?」


「ああ。村長が『失敗したとはいえ、冒険者ギルドの機嫌を損ねると、次から冒険者を派遣してもらえなくなるから』って、それで……」


「いくら渡したの?」


「……150万ZLだ。150万を計5回渡した」


「はぁ?失敗したのに成功報酬の半分を渡したですって?あなた達、正気なの!?」


「仕方なかったんだ。

 Aランクの討伐は、失敗するのは当たり前で、失敗した冒険者に報酬を支払うのも当然だと聞かされていたんだ。

 最終的に依頼料の10倍以内に収まればいい方だと……。

 まさか、違うのか?」


 質問にはヴィオラ達4人が答えた。


「……違うとも言い難いわね」

「まるっきり間違いじゃない、ってのが問題だし」

「ぼ、冒険者は依頼料以外のお金を受け取っても報告義務がないんです。し、失敗しても依頼者からの好意で、お金を受け取ることも結構ありますし」

「つまり、討伐に失敗した冒険者達が本当に150万ZLを受け取ったかどうかなんて、本人が否定すれば、真相は誰にもわからないってことですわ」


 まさに慣習の穴をついた方法じゃな。

 『たしかに金は渡した!冒険者が嘘を付いてるんだ!』と村長が言い張れば、確認する術などないじゃろうからな。

 村長のやつは、自分が裁かれるはずがないと高を括っておるのじゃろう。

 カカ。

 せいぜい油断しておくがいい。

 今の間だけな。


 ゴルムはガクリと膝をつき、絶望の表情を浮かべた。


「そんな……それじゃ、魔物がいる限り、俺達は村長の言う通り、永遠に金を払い続けるしかないのか……」


「そう悲観するでない。これ以上金を払うことはあるまいよ。

 その為にワシらが来たのじゃからな。

 ただし、お主たちには金以外の対価を払ってもらうぞ?」


「金以外……」


「カカカ。そう怯えるでない。命までは取らんよ。

 そこで質問なのじゃが、この村で村長に次ぐ有力者は誰なのじゃ?

 ――つまり、人望と能力があって、次の村長を任せられる優秀な人物に心当たりは?」


 ワシの質問に、ヴィオラ達4人が怪訝そうな表情を浮かべる。


「あんた……なに考えてるのよ?」


 カカカ。


 それは——後のお楽しみじゃ。


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