たいふういっか
リュウは空を駆けることが好きだ。だが、空のしたにある森にも一日に一回は降りなければならない。食事のためだ。
その日、森にはよく見かけるこびと達がいた。こびとはドラゴンを怖がることもしない。その代わりおしゃべりで、今日の何気ない一日の会話をする。
「ねぇ、知っている?神様の一人が行方不明なんだって!」
「なにそれ、なにそれ?」
「んー、よくわかんない!」
「そっかー。神様がみつかるといいね!」
こびとはそういうと自分の身体に不釣り合いな釣り竿を取り出した。
「さっかなーつれつれー!」
そう歌いながら近くの沢に釣り糸を垂らす。
こびと達の会話は細切れで、内容が把握できるものでもない。だが、リュウには彼らが話す神様とは、リュウの姉のことだと理解した。旅の終着点は姉が居るゼノロワの王国だ。姉とリュウの血の繋がりは半分しかないが、それは昔から王族の血を繁栄するために王様が多くの子を為すために必要なことだった。姉が優秀で美しいことは知っていた。父と旅の途中で姉が幽閉されたという情報を聞いたのだ。すぐさま母はドラゴンに姿を変え、姉を迎えに行った。父はリュウが成長するまでは共に旅をしていたが、急な連絡がきて、姉が本当に誘拐されたことを知り、父は急いで旅立ったのだ。
「ねぇねぇ、魚はどれくらい必要なの?」
こびと達の会話は途切れない。リュウはそんな彼らの会話を聞きながら、食事を愉しんだ。
世界は静かだ。リュウの耳には騒々しさも煩わしさも、ない。穏やかな空気が広がっている。すぐそこまで迫っているものや事柄は今はなにも聞く必要はない。緊張も心配も凪いだ心には少しも入る余地はない。リュウは龍神族の時期長になると言われた。姉の横で政務を執り行い、国を守る。姉を見たのは一度きりだが、リュウのその眼に映した彼女は悲しげで辛そうだと感じた。彼女の美しさは二の次だった。それに、彼女が抱えているものはきっと自分には収まりきらない。だがら、次に会うまでに姉の前では芯のある存在で居たい。そう考えた。
龍神族は基本的には表現を表に出さない。見目が麗しく、言葉少ない。その言葉通りの麗人だ。
リュウは夜まで静かな場所に腰を落ち着けていた。
「ねぇ、ドラゴン。この魚をうまく焼けたりしない?」
こびとの一人が愉快そうに釣り上げた魚を持ってきた。ほかのこびとは少し慌てている。
『焼けるが、すべて焼くのか?』
リュウは丁寧に答えた。
「いいの?おいしそうに焼いてくれる?家に帰ったらたくさん家族がいるんだ!」
ごおぅと火が一斉に燃え上がり燻って魚の焼ける良い匂いがあたりを漂った。
「わぁ!ありがとう!」
こびと達は飛び上がって喜び、大きく会釈をして帰って行く。こびとの中にはドラゴンに対する礼をちゃんとするものもいた。相手を龍神族だと理解した所作。ゼノロワの王国出身の者がする行為だ。
リュウはこびと達が帰り終わるのをずっと見守った。
たいふういっか 終り




