表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
手紙のかなた  作者: あおぞら えす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/5

SOS 緊急の手紙

 その日、リュウは何もない一日に身を預けていた。


 リュウには親がいない。正確には親がリュウをとある場所に預けた。親にとって、リュウのように幼い子供を連れて歩けるような状態ではなかったのだ。大勢の人は彼がかわいそうだと考えるだろう。だが、そういう世界で生きている親にとっておいていくこと、預けていくことは普通であり、自然なことだった。

 リュウは自分が特別だという理解はあった。それが親から受け継いだものと、自分がもつ異能のことの両方があったからだ。彼は自分に兄弟が居ることは知っていた。だが、親を探そうとは思わなかった。そもそも、出自がどこなのかを知った時点でそういうものに興味を持てなかった。

「どういうこと?」

リュウを預かった家は大岩家と呼ばれる大地主の家だ。その娘の一人である大岩れいさが、現在大岩家の主となっている妙齢の母親、大岩あきに声を荒げながら云った。

「ですから、リュウはこの家の者ではありません。昔、やんごとなき方からお預かりした、とても名誉ある方なのです。わたしの家に預かった時点で、成人されるまでは家に住まわれるのです。」

「そ、そうなの・・・?家にただ住まいしているのかと・・・。」

「なんて言うことを!・・・いいですか?リュウはこの家にいるだけで、この家の様々な事象から守ってくれているのです。」

あきはそう声を荒げた。離れた場所にいたリュウにも声が届いていた。家の裏にある縁側から外を眺めていたのだ。二人の女性の声は部屋の奥から声を響かせていた。

 れいさは時期大岩家の跡取りと言われていた。事実ではないが、この家で唯一、あきの娘だからだ。すでに亡くなったあきの夫には複数人の女性と関係があったことは周知の事実だった。腹違いの兄と姉、そして妹がいる。皆が違うお腹の中から産まれた。

 あきも怒りがあったものの、この家の主はあきだという事実は何も変わらない。それぞれの女性が家の名をもらいたがった。しかし、あきは大岩家の主として、女性の子供達を貰い受け、家の見習い子として今も住まわせている。今はただの小間使いとして、周りにも見せている。それはれいさにはありがたく,

時期跡取りという名目は今も保たれている。ただ一人、リュウの存在がれいさを困らせていた。

 リュウはあきという主にただ一人、頭を下げたりしない。それはあきが許していることであり、あきからすれば、リュウが特別な存在だと云っているようなもの。れいさはそのリュウをこれからはどう扱うかという時期に来ていた。

「リュウには今後、れいさとの婚姻を結ぶことをお願いする予定です。」

あきの一言は強力だった。れいさには愛する者がすでにいた。

「な、お母様?!リュウがどこの誰かも知らないのに!」

「・・・リュウの相手がこの家の跡取りだということですよ?」

「ど、どうして・・・!」

そんな他愛もない会話を聞きながらリュウは人間の食事が運ばれていることに気がついた。

 リュウの聴力も視力も嗅覚も人間のそれとは大きく異なった。リュウにはもう一つの姿があった。大きな体躯。勇猛なかぎ爪。巨大な翼に長い尾。その姿を見た者は誰もが叫ぶだろう。『ドラゴン』と。

 リュウの親は龍神族とゼノロワの民の血を受け継いでいる。龍神族は遙か昔、人間が現れるより少し前に誕生したと言われている。龍神族とそのあたりにごろごろいたドラゴンは一線を画している。知能が高い龍神族は下位であるドラゴンを束ね、生活していた。その後に現れた人間はドラゴンを狩り、龍神族という存在を暴いた。知能が高い上、人間を見下していた龍神族であったが、時が経つにつれ、人間という数に押され、徐々に住んでいた場所を追い出されるようになった。ドラゴンすら人間のおもちゃ(狩る相手)にされ減らされていくという状況に龍神族も少しずつ数を減らしていった。

 そんなときに、ゼノロワの女王、ヒルワンが助けを出した。すべての龍神族を国に招き入れたのだ。ヒルワンは、数を減らしていく賢く、尊い存在を存命させるように下っていく血筋に命令をしている。

 ゼノロワの国に暮らしている一族はかなり多い。彼らの血を混ぜながら、ゼノロワの民はほかのどの国よりも強固になっているのだ。


 龍神族の血を受け継ぐリュウはこの大岩家に預けられたわけではない。預けられた場所から誘拐されてこの家に居る。リュウが誘拐されたのはすでに知能がつき、人間という存在に興味を持った時期だった。リュウという存在に手をだしたのはあきがまだ若い頃でもある。娘もまだ産んでおらず、母親から家を受け継いで、夫とも良好な関係であった。

 あきはある家の土地を買い取るために、その家の主と会っていた。

「失礼な方ね!わたしはこの土地をとても高く評価しているのよ?何故売り渡すのをやめるというのです!」

「大岩家のお嬢さん。わしはもとからこの土地を明け渡すつもりはない。お前さんこそ、何故そのように啖呵を切るのだ?」

「お嬢さん?よしてください。わたしはもう大岩家の主よ!それに土地を買うように勧めたのは貴方のお嫁よ?すでに、立ち退きもしているかと思ったわ!」

「あぁ、きくこがいったのか。あの娘はわしの嫁ではない。ただの雇われだ。大岩さんも知っていながら彼女の戯言を聞いたのか?」

「関係ないわ!わたしはこの土地を明け渡さないなら・・・」

そのときなんの音もなく、家の中に入ってきた者達が居た。

「失礼する、飛翔どの。」

旅人の風貌をした、かなり無骨な男性だ。なかなかの顔で、女性であればすぐにでも恋に落ちるような顔だ。

「おお!久方ぶりだな!レンセイ。その子は・・・。」

レンセイと呼ばれた男の隣にはまだ幼い顔をした少年がいた。

「飛翔どのにこの子を預けたい。この子をつれていくのはどうかと考えておりまして。」

「ほう・・・。名前は?」

「リュウと申します。この子が一人前になるのを見届けていただけないだろうか。」

「ちょ、ちょっとお待ちなさい!こんな幼い子を他人に預けるの?!」

あきが話の流れを遮った。どう考えても不可思議な会話に居ても立っても居られなかったのだ。

「この令嬢は?」

「大岩あきという名だ。わしの土地を寄越せと。」

「飛翔どのの?・・・。よく分かりませんが、この土地は霊山だと聞いております。この土地を開拓したとしても、良くないことが起きるとしか・・・。霊山がなぜそう呼ばれているのか、吟味した方がよいかと。」

レンセイが腕を組んで厳しい声で話す。あきはその言葉を何度も聞いていた。しかし、

「霊山霊山って!あのね、今時そんな嘘くさいことを聞いても、なんにも怖くないわ。おばあさん達が怖い話をするような説明を何度も聞いたわ。だから、なに?」

と大きく首を振った。大げさに身振り手振りをし笑う。

「・・・このおばさん、知らないことを知ったかぶるんだね。」

リュウが唐突にぽつりと零した。

「はぁ?」

「リュウ。飛翔どのに預かってもらうが。」

「父さん。俺は平気。それに、空を駆けるのに邪魔な俺は翼がしっかりするまでここにいるよ。」

「・・・すまない。母さん達と合流してから迎えに来よう。」

「何を勝手なこと云っているの?親が子供を放棄するなんて!」

「・・・おばさん。あんたは俺の世界を知っているの?あんたと俺達は雲泥の差のある世界を生きているよ。おばさんは空を駆けることができる?」

りゅうは絶叫する人間にすこし苛立った。生まれた世界が違うならば、住む世界も違う。生きる世界は彼らと大きくかけ離れる。

「リュウ。あまり言いふらす話題ではない。それに、彼らは我々に何もしない。気にしなくていいのだ。」

レンセイはリュウを諭すように大きな手のひらを彼の頭に乗せた。

「・・・ううん。少なくとも、古木霊王様に向かって土地を寄越せと、愚かなことを申し出ている。この地の怨霊を除霊し、穏やかな土地にしている神様にむかって、だ。もうすでに手遅れだと思う。土地がどういった経緯で存在しているのか、理解しているとは思えない。霊王様は一所にいることがないのに。」

リュウが真剣に父親に伝える。それに、あきは肩を震わせて、

「あっはっはっ!頭でも打ったの?それとも親に変なことを教えられた?」

と大笑いする。

「・・・。父さん、出発してくれる?このおばさんには俺が教えたい。この土地に何があるのか。ねぇ、霊王様もお願い。」

「・・・そうだな。リュウよ。迎えには必ず来る。人間がお前を捕らえないことを願おう。」

レンセイはそういうと玄関から出て行く。リュウもあとを追った。あきもリュウを本当においていくのかと疑いながら追いかけてきた。そして、玄関の外にいる、その巨大な生き物に絶句した。

 黒い大きな瞳に、鱗が身体を覆い、二つの羽根が広げている。太い尾骨の先には少し羽毛が生えている。羽根は毛皮に覆われいて、口も大きいと云えば大きい。人間だった者が姿を変えるなどと、聞いたことがなかった。だが、レンセイがその姿に変わったと言われれば、確かにその面影は残っていた。

「父さん。気をつけてね。」

リュウが父親の顔に小さな手を近づけた。レンセイは鼻を押し当てて一気に飛翔した。空高く飛んですぐに見えなくなった。

「あなたのお父さんはえっと・・・。」

「龍神族だよ。俺もそう。翼がしっかりするまで霊王様のもとにいる。」

「じゃあ、あなたもあんな姿になるの?」

「・・・。俺は父さんと同じ姿になれるけど。」

「・・・?けど?」

「それよりも、霊王様の土地をどうにかするのはやめた方がいいよ。」

 リュウは言葉をぼかした。人間とは異なる姿を見たあきは、おそらくリュウを手に入れようとする。それがどういうことなのか、父親は常に伝えてくれていた。

『人間は思考回路が欠如している者が多い。特に浅はかな言動を行う者は我々龍神族を使うという概念を持っている。』

『使う・・・』

『視野が欠如しているのだろう。我が一族は人間と共に生きたいと願いそのように行動しても人間にはそのような視野を持てる者が少ない。リュウよ。そなたは姉と同じ王族の血を引き継いでいる。ゼノロワの王族には人間も足も手も出せぬと云う。そなたは我ら龍神族の誇りであり、ゼノロワの王族の血を引き継ぎ人間との友好を繋ぐ証。万が一、そなたを傷つける者が居た場合、ゼノロワの民も龍神族も許しはしない。そのときはそなたが持つその証で知らせるのだ。』

レンセイはそういうと、いつも大きな手で頭を撫でた。

「悪いけど、この土地はすでに私の土地よ。それに・・・。あなたも私のものよ。」

リュウはじっとあきを見た。あきはくすくす笑い、リュウを手に入れる言葉を選ぶ。

「ここに残されたっていうことは、私の土地に不法投棄したってことよね?だったら、私が今からあなたを所有できるということ。そういうことなの!」

自分がぴったりな言葉を選び、高らかに宣言した。

「・・・俺は誰の手にも収まらないよ。だけど、しばらくは居座るかな。あんたは俺とは違う世界の生き物だから。」



 その日から、あきはリュウを手元に起き続けた。リュウもほとんどのことに何も言わなかった。ただし、霊山はあきには手に負えない山だということを一週間もせずに理解したようだった。リュウも伝えたとおり、古木霊王がその地から離れた以上、どうすることもできなかった。

 霊王はリュウを預かることよりも、リュウの助けを呼ぶことを優先し、あの山を離れたのだ。リュウが何者なのかを知っている者達は自分のできうる限りを尽くす。それが、ゼノロワの王国を今でも守る民の一族であれば必ず遂行する。霊王は山々を徘徊する古い民の数少ない生き残りだ。山を神聖視し、敬うことで一日を山に費やす。山の神とも呼ばれるようになったのはそのようないきさつがあるから。その一方で人間は少数民族を馬鹿にし、山を守っていた者達を少しずつ蝕んだ。ゼノロワの民として受け入れられた者達はもっと多いだろう。そのような者達がリュウを敬うのはその血筋と、その強さ。ヒルワン女王の持つ権力は今も失われていない。人間ですらその存在を忘れていない。王族の血を蔑むことは人間の持っている地位やお金も吹き飛ぶことだと知っている。

 ただし、知らない人間はその範疇をよく超えている。知らぬ間に首が絞められている。





「・・・お母様!わたくしには、愛する方がいます。跡取りはわたくししかいないのですよ?」

「まぁまぁまぁまぁ。あなたの夫がリュウでないのなら、他の子を養子に迎えます。わたしの娘はリュウの嫁です。」

あきは強い口調で云う。あきが手に入れたリュウの使い方はとても簡単だった。自分の娘と婚姻させ、ゼノロワの王国と血を繋ぐ。とても簡単だった。無論、娘ではなく、自分の夫にしても良かった。今では,

はっとするほどの美男子に成長したリュウを娘のれいさにすら触れさせなかった。そのような言動を見た夫が他の女に言い寄るのも納得だった。あきにとってリュウが一番になったのは誰が見ても明らかだった。ゼノロワの民だということも伏せていたせいもあって、より、リュウへ執着した大岩家の主になった。周りはリュウがどこから連れてこられたのか勘ぐり、あの世から攫ってきたなどと言われるようになった。

 あきはリュウを愛したいと心から思うことはない。ただ、眺めるだけで満足だった。それが同じ人間ではないという心の底にある多種族への嫌悪からきていた。自分と同じではない、それでも美しい姿に見惚れる、といった様々な葛藤。だから、娘の婿にしようと結論した。娘がそれなりの年齢になれば、夫婦のようになれる。自分はそうありたくないが、娘にその苦行を強いる。

 そこに傲慢があった。


「ちょっといいか。」

あきは一瞬驚いて瞬きした。声をかけることなどほぼないリュウが久しぶりに声を発した。それを驚いてれいさも見つめた。

「リュウ?」

「俺はもうすぐ旅立つ。あんたの娘の婿とか意味のわからない存在にはならない。」

「な、なにを・・・?」

あきは狼狽していた。リュウが自ら出て行くことなどありえない。所有権がある。

「あんた、すっかり忘れているようだな。俺はゼノロワの民だ。人間の土地に関する権利など、俺には関係ない。俺がここにいた理由も俺が羽をを休めていただけ。俺自身が成長するまでいただけ。俺を誘拐したという事実があんたに残るだけだ。」

「そ、そうなの?!」

れいさは驚いて叫ぶ。それは叫ぶだろう。

「ゼノロワの民ってことはあの幻の神々の一人!」

ゼノロワの民の解釈は神に付随する者達だと人間は理解していた。それが事実ではないのかはさておき、それを否定など誰もしない。人間にはもてない知識や能力を持っていることは事実だ。

「・・・。あんたの命令でここにいたわけもない。俺はただ、休んだだけ。そして、その休む先がここではなかったと云うこと。あんたが無理矢理連れてきたのは事実だ。神を愛した奴は手元においた神が自分のものだと主張した、おまえの頭ではそう完結しているだけ。神は、お前を愛したなんて思っても居ないが。俺はあんたの手に収まらない。今もこれから先も。決して。」

 リュウはそういうと庭先に出ていく。

「待ちなさい!リュウ!あんたはわたしの所有物・・・」

そこには父親を凌駕する体躯のドラゴンが、いた。

「・・・リュウ・・・」

言葉はもう出てこない。その姿が何を意味しているのか、あきはよく知っている。大空を駆ける姿。ただ、その姿が父親と似て非なる姿だったこと。大きさだけではなく、その羽は四枚もある。その尾は二尾ある。その瞳は明るい朱だった。その美しい鱗は碧く輝いた。

『あき。よく聞け。俺は竜神族の血とゼノロワの王族の血をひいている。姉は時期女王であり、俺は姉の横に立ち並ぶ執政官になることが決まっている。あんたが俺へした仕打ちがゼノロワの王国の耳に届くのは風よりも早いはず。だから、お前は自分の過ちを理解しろ。俺が最後に言える助言だ。』

あきは、リュウが助言だといわれることを毎度も無視して失敗した。あきは人間だ。愚かだと、自分でも思う。それを今こうしてもう一度諭すのは、リュウが本当に優しいから。そして賢いから。

「ごめんなさい・・・。貴方の云う通りよ。ごめんなさい。貴方を攫った。それは目の前にいたから!ほしくなった。でも、もうそれを馬鹿だと云ってくれないわね。」

『お前は人間だ。・・・馬鹿だな』

リュウはそう言って、空高く、消えた。



SOS 緊急の手紙 ーおわり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ